1857年:Rudolf Virchow(P 1821/10/13~1902/9/5, ドイツの病理学者・人類学者)が著書に椎間板ヘルニア1例の病理報告をした(ただしVirchowはこれを軟骨腫と考えていた)。
1911年:Joel Ernest Goldthwait(1867~1961, ボストンの内科医)は突出した椎間板が腰痛、坐骨神経痛、下肢麻痺などを起こすと提唱した 。
1927年:Christian Georg Schmorl(1861/5/2~1932/8/14, ドイツの病理学者)が突出した椎間板は腫瘍でなく変性であることを確認した。
1933年:William Jason Mixter(P 1880~1958, マサチューセッツ総合病院の神経外科医)とJoseph S Bar(整形外科医)が1933年に、19例の臨床病理所見から、椎間板ヘルニアは変性した椎間板の突出であり、髄節に応じた神経症状を起こすことを確立した。Mixterらは硬膜を切開して手術した。
1937年:J Grafton Love(P 1903~1987, メイヨークリニック)らが硬膜外アプローチによる椎間板ヘルニアの髄核摘出を始めた(J Bone & Joint Surg)。
● ヘルニア:椎間板内部の弾力性を失った髄核が、線維輪の断裂を通って脱出
椎間板は、髄核、線維輪、軟骨終板で構成されているので、ヘルニアとして脱出する組織は髄核に限らず、線維輪もしくは軟骨終板を伴うことがある。 ←→頸部椎間板ヘルニアは発生様式が異なる。
● 飛び出した髄核による神経の圧迫によって、神経痛などの種々の症状が出る。
● 無症候性の椎間板ヘルニアもある。
● 好発部位: 頚椎ではC5-6、腰椎ではL4-L5
● 椎間板ヘルニアがあっても、痛みがある場合とない場合がある。
● 椎間板ヘルニアが確認されても、痛みの原因はヘルニアでない場合もある。
● 正常な脊髄神経は圧迫されても、痛みを生じさせない。
● 伸展、圧迫が生じている神経根に、炎症が生じると痛みが誘発される場合がある。
[線維輪の状態による分類]
protrusioned
突出型
線維輪の一部が温存され、髄核組織は線維輪の最外層を超えない。
髄核は自然吸収されない。
extrusioned
脱出型
線維輪の全層が断裂し、髄核組織が連続性を保ちつつ脊柱管内へ出ている。
subligamentous extrusioned:後縦靱帯で覆われるもの
transligamentous extrusioned:後縦靱帯を穿破するもの
髄核は自然吸収される。
sequestration
分離型
脊柱管内に脱出した髄核組織が分離変となっている。
● 成人ヘルニアでは、髄核が主で、線維輪の一部とともに脱出するものが多い。
● 若年者ヘルニアでは、椎間板の変性が軽微のため、軟骨終板の断裂を契機に発生することが多く、環状骨端 ring apophusis の解離を伴った突出が多い。
● MRIの普及により、脱出した髄核は自然に吸収されることがわかった。
[ヘルニアの症状]
● 椎間板ヘルニアは、年齢とともに(20歳を過ぎ)次第に衰えてくる。
● 働き盛りの20歳~30歳代の軽作業(事務、運転、セールス、看護、家事など)の人に好発する。
● 椎間板の変性が進行して椎間板内圧が低下した60歳代では少なくなる。
神経根症状
radiculopathy
● 後方あるいは後側方に突・脱出したヘルニアは、神経根や馬尾、および神経根を圧迫し、神経根炎、神経根周囲炎が生じる。
● デルマトームに一致した領域の障害。
脊髄症状
myelopathy
● 頚椎の後方正中ヘルニアでは上位運動ニューロン障害による痙性麻痺を呈する。
● 腱反射亢進
● 病的反射の出現
● 腰椎の後方正中ヘルニアでは、馬尾症状をていする。
椎間板性疼痛
● 椎間板内圧を増す姿勢で増強する。
● 椎間板造影を行い、薬液を注入したときに、普段感じている腰痛が強く再現する。
[ヘルニアの発生機序]
● 機械的要因や化学的要因によって生じる。
機械的要因:
○ 加齢(20歳~30歳代)とともに椎間板の弾力性は失われていくため、腰への負担が大きいと、それをきっかけに線維輪に亀裂(=線維輪断裂)が生じる。
○ 椎骨洞神経が分布している線維輪外層部は、腰痛の最好発組織部位*であるので、線維輪に亀裂が入る際に激しい痛みが生じる。
○ しかし、1週間ほど安静にすれば、患部のむくみや腫れ、出血など神経の炎症が治まるので、治療しなくても、痛みがおさまる。
○ ヘルニアは一般に、絞扼性神経障害には分類されていないが、神経根症状を引き起こす。
○ ヘルニアが正常な神経根を圧迫しても、一過性に電気が走るような痛みが生じるだけである。
○ 神経根が髄核によって圧迫されると、牽引されたり、腫張や炎症が生じる。
○ 髄核が飛び出していなくても、線維輪の亀裂によって生じる炎症後の修復によってできた瘢痕組織も神経根を圧迫する。
○ 髄核や瘢痕組織が血管を圧迫すると、神経根における血流の低下が生じ、さらに炎症が強まる。
○ これらの炎症によって生じた「神経根炎」の状態になると、神経は過敏になり、神経痛を引き起こす。
化学的要因:
○ 髄核は、TNFαを遊離させる。Robert Myersらは、動物モデルでヘルニアを形成した髄核を神経根へ移植すると、痛み行動の発現させることを報告した。
○ 圧迫に伴う神経周囲の炎症、圧迫部周囲に遊離されたケミカルメディエーターなどによって痛みが誘発される。
○ 神経圧迫病態下では、化学的な変化として乳酸の濃度の上昇、pHの低下の他、PLA2の産生、炎症細胞の浸潤、インターロイキンなどのサイトカインの産生増加、NO産生が起こっている。
○ 支配神経終末から放出される伝達物質による神経性炎症も、痛みに関与する。
○ 椎間板周囲、椎間関節周囲、腰・背筋における炎症は、それぞれの部位に分布する侵害受容器を興奮させる。
○ 腰、背筋筋は、反射性に堅く緊張し、脊髄の前後屈、回旋制限と不橈性を生じる。
○ 前屈の制限は、最大前屈時に指をなるべく床に近づけ多彩の指と床との距離 (fomger floor distance: FED) で客観的に評価される。
椎間板周囲
椎骨洞神経
椎間関節周囲
脊髄神経後枝内側枝
腰・背筋
脊髄神経後枝外側枝
● がんの骨転移によって椎間板ヘルニアが発生する。
[ヘルニア治療]
*安静
● 臥床
● 短期間のコルセット
薬物療法
● NSAIDs
● ステロイド
● 筋弛緩剤
● 貼付剤
● 酵素注入療法
日常の改善
● 体重管理
● 保温
理学療法
● 牽引療法
● 水泳、体操
● ストレッチ、マッサージ
神経ブロック療法(ステロイド剤を含む)
IDET/
椎間板内加圧注射法/
経皮的高周波椎間板減圧術
経皮的椎間板髄核摘出術
手術療法
*急性期以外は、安静の排除
● 頸椎の椎間板が脊柱管内へ突出する結果、首から下に全身的に症状が現れる疾患
● 頸椎では、髄核、線維輪にも亀裂が生じ、椎間板と脊椎骨(椎体)の結合部である軟骨板にも亀裂が生じ、これが椎体からはがれて軟骨板、線維輪、髄核成分が混在した断片となり、それが脊柱管内に脱出する。
● 主な症状:項頸部の痛み、肩こり、背中の痛み、手から指にかけて走る痛みやしびれ、巧緻運動障害、歩行困難、排尿障害
● 30〜50代の男性に好発する。好発部位は C5-6, C6-7 の順である。
● 椎間板ヘルニアがあっても、痛みがある場合とない場合がある。
● 椎間板ヘルニアが確認されても、痛みの原因はヘルニアでない場合もある。
● 正常な脊髄神経は圧迫されても、痛みを生じさせない。
● 伸展、圧迫が生じている神経根に、炎症が生じると痛みが誘発される場合がある。
[症状]
● 症状は、まず項頸部痛や肩こりなどの局所の症状としてはじまり、その一部には上肢の神経根症状が加わる。さらに、一部に体幹や下肢の脊髄症状が加わる。
● 首筋から肩甲骨、あるいは首筋から腕を通って、親指や中指、小指へ激しい痛みが走る。痛みに伴って、ビリビリとした感じもある。
● 頸椎には運動制限がみられ、無理に動かすと痛みが誘発される。
● 椎間板ヘルニアの存在する高さによって、手指に発生するしびれや痛みの部位、触覚や痛覚などの知覚障害がおこる部位に、違いがみられる。
● 一般にヘルニアの生じた椎間板の高さは、尾側に行くにしたがって、症状は首から肩、腕の母指側、母指から小指、腕の小指側へと変わっていく。
● 変形性頸椎症よりも、痛みが激しい。
神経根症状
radiculopathy
● 後側方ヘルニアで生じる下位運動ニューロン障害であり、疼痛や不快感を訴える。
● デルマトームに一致した領域の障害
脊髄症状
myelopathy
● 後方正中ヘルニアで生じる上位運動ニューロン障害
● 両側の手足に麻痺やしびれ、脱力感が生じ、歩きにくくなり、手で物が持ちにくくなったりする。
● 下肢の腱反射(Hoffmann反射)の亢進やWarenberg反射などの病的反射が出現
● 神経因性膀胱
● 感覚障害や痙性麻痺を呈する。
局所症状
● 頭痛、頸部痛、めまい、はきけ
障害神経根
運動障害
障害される反射
感覚障害
C3
横隔膜
C4
肋間筋
C5
三角筋、腕橈骨筋
上腕二頭筋腱反射
上腕外側
C6
手関節伸展
腕橈骨筋腱反射
前腕橈側から拇指
C7
手関節掌屈
上腕三頭筋腱反射
中指
C8
指屈曲
なし
前腕尺側
T1
上腕内側
[治療]
● 痛みが激しい急性増悪期は寝ていることで、頭を支えることによる頸椎の椎間板への負荷を減らす。
● 温めると症状が悪化するので、入浴はシャワー程度にしておく。
● マッサージや指圧は、患部に刺激を与えるので禁止。
● 草むしりやデスクワークなど下を向いての仕事や、天井の掃除など上を見上げての仕事も避けたい。
● 慢性期では、頸椎用のカラー装具をつけて、やはり局所の安静を図る。
● 牽引療法:持続牽引と間欠牽引。
● 徹底した保存的治療が奏効しない場合:手術療法。腰部椎間板ヘルニアと違って、頸部椎間板ヘルニアでは、脊髄の麻痺を放置すると、手術療法でも回復不能な障害を残してしまう。
● 線維輪の破綻により、椎間板内の髄核の一部が脊柱内に隆起または突出し、神経根や硬膜管を圧迫し、腰痛や根性痛を生じる。
● 無症候性の椎間板ヘルニアもある。
● 単椎間障害が多い。腰椎での好発部位:L4-5>L5-S>L3-4
● 好発年齢は20〜30代の男性であり、スポーツや重量物挙上などの負荷が契機となって急性に発症する場合がある。
● 腰痛があっても、明確な病変が見つからない場合が多いが、はっきりした病変が認められる青年期、壮年期の腰痛の中では、椎間板ヘルニアは重要である。
● 椎間板ヘルニアで生じる腰痛は、全腰痛患者の5%以下(Barry Wyke )。
● 椎間板ヘルニアがあっても、痛みがある場合とない場合がある。
● 椎間板ヘルニアが確認されても、痛みの原因はヘルニアでない場合もある。
● 正常な脊髄神経は圧迫されても、痛みを生じさせない。
● 伸展、圧迫が生じている神経根に、炎症が生じると痛みが誘発される場合がある。
Norbert Boos [Spine-2000;25:1484-1492, 1995Pubmed]/ Volvo Award
● 痛みのある椎間板ヘルニアの患者群と腰痛のない群(46名ずつ)において、それぞれの職業内容・年齢・性差・生活習慣などの条件を同一にしたうえで、MRIを比較した。
● 腰痛のない群の76%にヘルニアが見つかり、85%に椎間板の変性が認められた。
● 発見された椎間板ヘルニアのタイプは、腰痛のある人と、腰痛のない健康な人との間で、差がなかった。
● 神経根圧迫の存在はヘルニア患者群のほうが高い(83%:22%)。
● 腰痛に対する危険因子として、心理社会的な側面が見られた。姿勢(仕事上のストレス、仕事への集中度、仕事への満足度、失職など)や精神社会学的な要素(不安、抑うつ、自制心、結婚生活など)といった心理的側面で有意な相違があった。
● MRIでは診断できない。画像所見が症状と相関しない。
[腰椎椎間板ヘルニアの症状]
● 後方あるいは後側方に突・脱出したヘルニアは、神経根や馬尾(および後縦靱帯を支配する椎骨洞神経と交感神経交通枝)を圧迫する。
● 神経根の圧迫は腰痛ではなくむしろ殿部や下肢の坐骨神経痛(放散痛)を引き起こす。
● 腰椎では脊髄がL1/2で終わりそれ以下は馬尾となっている。
● 多くは、L2〜S1の領域の神経根症状である。
● 腰部椎間板の大きな正中ヘルニアによって馬尾全体が圧迫されると、馬尾症状も現れる(馬尾症候群)。
神経根症状
radiculopathy
● 後側方ヘルニアでは神経根症状を来たし、下肢痛を起こす。
● デルマトームに一致した領域の感覚障害
● 神経根の圧迫は腰痛ではなく、むしろ殿部や下肢の神経痛を起こす。
● 痛みは、急性あるいは慢性反復性の放散痛が特徴となる。
● 症状が強くなれば、体動痛や夜間痛が起こる。
● 運動障害と深部反射低下が見られる場合もある。
椎間板性疼痛
discogenic pain
● 腰痛:腰部から臀部にかけての境界が漫然としない深部重圧痛
● 数分から数十分座ったり、立っていたりすると、痛みが強くなり、横になると和らぐ。
● 座位など椎間板内圧を増す姿勢で増強する。
● 急性あるいは慢性に増悪傾向を持つ腰痛で、自然寛解と増悪を繰り返す。
● 安静で軽快するが、運動、労働で悪化する。
● 咳、くしゃみ、排泄時の力みにより腰痛、下肢痛などの自覚症状が再現する。
● 椎間板造影を行い、薬液を注入したときに、普段感じている腰痛が強く再現するかどうかで、椎間板性腰痛かどうかを診断する。
馬尾症状
cauda equina symptom
● 馬尾症候群による馬尾症状
● 脱力
● 腱反射異常
● 感覚障害(足底や会陰部)
● 膀胱直腸障害
椎間
神経痛
愁訴部位
L1/L2
大腿神経痛
脊髄円錐症候群
鼡直径部・大腿前面
会陰部
L2/L3
大腿神経痛
大腿前面・膝
L3/L4
大腿神経痛
大腿前外側・膝・下腿
L4/L5
坐骨神経痛
下腿後外側・足趾
L5/S1
坐骨神経痛
下腿後外側・足趾
障害神経根
運動障害/深部腱反射減弱
L4
● 大腿四頭筋の筋力低下による膝関節伸展筋力低下
● 膝蓋腱反射の低下
L5
● 長拇指伸筋の筋力低下による第1指の背屈力低下
● 深部腱反射の異常はない。
S1
● 長拇指屈筋の筋力低下が生じる。
● アキレス腱反射の低下
[発生機序]
腰椎椎間板ヘルニアに特有なメカニズム
● 神経根症状は腰痛ではなく、下肢症状である。
● 脊柱と脊髄の長さは異なり、脊髄は円錐としてL1/2腰椎レベルで終わる。
● 従って下位の脊髄神経ほど神経根は長くなり、第2腰椎以下の神経根は馬尾を形成し、脊柱管内を下降する。
● 末梢神経線維束に比べて神経根では神経内膜の結合組織細胞が少なく、膠原線維も粗となっている。
● これらの形態的理由から、神経根は機械的な外力に弱く、浮腫を起こしやすい。
● 腰、背筋筋は、反射性に堅く緊張し、脊柱の前後屈、回旋制限と不とう性を生じる。
● スポーツなどの力学的負荷がきっかけとなって発症する場合がある。
● 家族集積性、精神社会性的側面、ストレスが関与している。
[腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準]
1. 腰・下肢痛を有する(主に片側、ないしは片側優位)
2. 安静時にも症状を有する。
3. SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
4. MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄所見を合併していない。
5. 症状と画像所見とが一致する。
● 椎骨の椎間関節突起間部 pars interaticularis に分離が生じ、骨性の連続性を欠いた状態。
● 椎体・横突起・椎弓根・上関節突起からなる前部と下関節突起・椎弓・棘突起からなる後部とに分かれる。
● 単椎体障害:L5>L4に好発する。
● 幼少期に分離が生じると、椎体終板の障害が併発し、分離すべり症に伸展することもある。
[症状]
● 多くは腰痛を愁訴とするが、分離発生後長期経過すると、分離部から造成した線維軟骨性の組織により、神経根障害を生じることもある。
● 同じ姿勢を長くしていると、腰が痛くなる、
● 背中を後ろに反らせる、腰掛ける、立つ、歩くなど 同じ動作を続けるのがつらい。
● 分離した椎体と椎弓は安定を失なうため、椎間板の変性によって椎体が前方にすべり出し、脊椎すべり症に発展することがある(分離すべり症)。
● スポーツ活動や日常生活に支障をきたした有症状分離症患者では、しばしば分離部に高張食塩水を注射すると、腰痛が再現され、その後局所麻酔薬を注射すると、腰痛が一定期間消失または著明に減弱する。
● このような症例に分離部の瘢痕組織や線維性軟骨塊を除去した後、分離部に骨移植を行い骨性の連続性を獲得させると、腰痛は著明に改善する。
[成因]
● 椎間関節突起間部への機械的ストレスの繰り返しによって起こる。
● 成長期にスポーツを素因として生じることが多く、その本体は疲労骨折であると考えられている。
● 激しい腰のひねりや強い前屈、背屈が原因になることが多い
● 関節突起間が分離して「犬の首輪像」を呈する。
● 関節突起間が分離した結果、脊柱が不安定になる場合がある。
● 上位脊椎が、隣接する下位椎上を前方または後方に転位した状態
● 頻度は前方すべり症のほうが多い。
● 椎間板を中心とした脊椎運動単位の退行変性により、支持性が失われてすべりが生じる。
● 変性すべり症は、椎間関節の垂直化したL4/L5に好発
● 分離すべり症は、分離が好発するL5に多い
先天性:腰仙椎後方要素の先天異常によるもの。
1. 形成不全性:椎体関節突起の低形成によるもの。二分脊椎をしばしば伴う。
2. その他の先天奇形によるもの。
分離:本質的異常の原因が椎間関節突起間部(pars)の分離にあるもの
変性(性):椎間不安定性を基盤として、椎間板や椎間関節の変性が加わり発生したもの
外傷性:pars以外の外傷性骨折が原因で発生したもの
病的:全身性疾患(関節リウマチなど)または局所性骨疾患によるもの
医原的:手術後の骨欠損や疲労骨折、椎間板安定性の喪失などによるもの
■ 分離すべり症
● 分離症に伴われたすべり症:椎間関節突起間部(pars)が分離し、分離椎体がすべった状態
● 腰痛や神経根症状を起こす。
[成因]
● 分離は、若年期の疲労骨折によると考えられている。
■ 変性すべり症
● 分離症のないすべり症:脊椎の退行変性により、椎弓の分離を伴わずに、すべる状態
● 40歳以上の女性に多い。
● 腰痛や神経根症状、馬尾症状を起こす。
[成因]
● 病態の本質は、脊椎構成要素による脊柱管狭窄である。
■ 分離すべり症の症状と成因
若年者の腰痛・下肢痛
● 若年者の分離すべり症は、軽度で、腰痛や臀部痛が主症状となる。
● 腰痛は通常、運動や労働によって増強し、中止すると軽快する。
● 分離部の骨性支持が欠損していることによる脊椎運動単位の不安定性が原因で、諸靱帯への異常ストレスが生じたり、局所の筋痙攣が惹起されるために起こる。
● 下肢症状の発現はまれであるが、時に、低形成性の要素ももった20歳未満の分離すべり症では、下肢への放散痛が愁訴となることがある(神経根刺激症状)。
● 病理的には分離部の神経終末が証明されており、分離部の動き自体がこの神経終末を刺激して疼痛を引き起こすことも考えられる。
● 若年者でも分離すべり高位の椎間板変性がすでに発現しており、それに伴った椎間不安定性が腰痛の原因となっていることもある。
中高年者の腰痛・下肢痛
● 中高年でも下肢痛やしびれとともに腰痛が存在することが多い。
● 中高年の場合には、分離部および隣接の椎間板や椎間関節に存在する変性変化が主病態である。
● 椎間板変性による腰痛が主であれば、腰椎前屈位で疼痛が増強し、椎間関節の変形性変化が原因の腰痛では腰椎の後屈によって腰痛が増悪する場合が多い。
● 成人、特に中年以降では下肢症状の発現頻度が高くなる。
● 下肢症状は、疼痛やしびれであり、主に腰部神経根の圧迫によって生じる。
● 神経圧迫の機序は、分離部中枢端のbony ragged edge や分離部に増殖した繊維性軟骨塊 fibrocartilaginous mass、およびすべりによる椎間孔の変形による。
● 腰部後屈によって椎間孔の狭窄は著明となるため、典型的な神経性間欠性跛行を呈することもある。
● 分離すべり症において障害される神経根は、一般にすべり椎と同一高位の神経根である。
● 静的因子のほか、神経障害の発現には、椎間不安定性による動的因子も大きく関与している。
● 分離すべり症では、狭部(椎間関節突起間部)での骨連続がないので、すべり椎と下位椎との間の椎間関節は椎間安定要素として機能していない。
若年者の馬尾症状
● 先天性すべり症での高度なすべり以外での発現はまれである。
中高年者の馬尾症状
● 高度すべりの状態になると、すべり下位椎間板の膨隆やすべり下位椎の椎体後上縁によって硬膜管が前方から圧迫され、また、分離部の骨棘やfibrocartilagenous massの形成も著しくなり、これらによる後側方からの硬膜管圧迫が発生する。その結果、すべり椎と同一高位の神経根症状だけでなく、下位神経障害や馬尾症状(足底や会陰部のしびれ、膀胱直腸障害)も発現する。
● 一般的には分離すべり症で馬尾症状を呈することはまれである。
■ 変性すべり症の症状
神経根症状
● 腰痛、下肢症状(下肢の痛みやしびれ)
● 間欠跛行
馬尾症状
● 下肢症状(両下肢のしびれ)
● 膀胱直腸障害
● 間欠跛行
■変性すべり症の病期
初期
● 椎間板変性による椎間不安定性の結果生じた軽度すべりの時期。
● 主に動的因子が中心である。椎間関節由来の腰痛を愁訴とし、労作後などに下肢痛、しびれが出現する。
中期
● すべりが進行、すべり下位上縁と椎間板隆起の前方要素に、すべり椎の下関節隆起の前方変位による後方圧迫因子が加わった時期。
● 脊柱管狭窄に特徴的な間欠性跛行、下肢痛などが出現するが、安静時には症状には消失することが多い。
後期
● すべりのさらなる進行がみられ、椎間板高は減少して動的因子も減少し、後方要素の関与が大きい時期。
● しばしば外側陥凹 lateral recess の狭小化による神経根性痛(下肢痛)を生じる。
● 馬尾症状を呈する場合もある。
末期
● 後方要素主体の高度な狭窄かを生じる一方、動的因子の関与はさらに減少ないし消失する時期。
● 安静時にも神経症状があり、多椎間狭窄症になることも少なくない。
● 馬尾症状を呈する場合が増える。
[症状]
● 馬尾が圧迫されて出現する症状である。
● 両下肢〜足底のしびれ、会陰部のしびれ、同部位の感覚障害
● 圧迫が高度の場合は両下肢の筋力低下も認める。
● 膀胱直腸障害
[成因]
● 馬尾(神経)や脊髄円錐の障害
脊髄円錐の障害は正確には脊髄症状であるが、臨床症状は馬尾圧迫による馬尾症状と同様である。
● 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎や仙骨の亜脱臼・不安定性、腫瘍、その他の原因による馬尾の圧迫
● 脊髄くも膜下麻酔の合併症:腰椎穿刺による神経損傷、出血、感染、消毒液混入、腫瘍
● 局所麻酔薬によるCESの発生原因は、壊死またはアポトーシスによる神経細胞死であると考えられている。
● 他の脊椎クモ膜下麻酔の合併症には一過性神経症候群や硬膜穿刺後頭痛がある。
〇一過性神経症状 transient neurologic symptoms:TNS
一過性神経症候群 transient neurologic syndrome
● リドカインを用いた脊椎麻酔後に起こる下肢の痛みや痺れを主訴とした感覚障害優位な神経障害
● 疼痛は激しい場合もあるが、一過性である。
● ブピバカインに比べてリドカインで約10倍頻度が高いと言われている。
● 脊椎と大きな関節の炎症によって特徴づけられる結合組織疾患で、硬直と痛みをもたらす。
● 女性の3倍も男性に多く、20~40歳の間に発症するのが最も一般的である。
● 原因は不明だが、この疾患は家族に共通する傾向があり、遺伝が役割を演じていることを示唆している。
● この疾患は、両親や兄弟姉妹に患者がいる人では、10~20倍も多く見られる。
● 広義にはリウマチ反応陰性脊椎関節炎のグループに属し、脊椎、仙腸関節、股関節など靱帯付着部に炎症を生じ、その結果、脊椎、関節の強直に至る。
[症状]
● 一般に、軽度から中等度の炎症の再燃と、ほとんど無症状の時期が交代する。
● 最も一般的な症状は背部の痛みで、それはある発作と別のときでは強さが違い、1人の患者と別の患者でも異なる。
● 痛みはしばしば、夜に悪化する。動くことで軽減する早朝のこわばりも、非常によく見られる。
● 背中の下部の痛みと、関連する筋肉のれん縮は、前屈するとしばしば軽減される。
● そのため患者はしばしば前屈みの姿勢をとりがちで、もし治療されないなら、永久に屈んだ位置につながってしまう。
● 他の患者では、脊椎は顕著にまっすぐになり硬直してしまう。
● 食欲不振、体重減少、疲労、貧血が背部の痛みに合併する。
● もし肋骨と脊椎をつなぐ関節が炎症を起こすなら、深呼吸するために胸部を拡大する能力を、痛みが制限することがある。時折、痛みは股関節、膝、肩のような大きな関節で始まる。
● 患者の3分の1は、軽度な眼の炎症(急性虹彩炎)の再発性の発作があり、それは通常視力を害さない。
● 少数の患者では、炎症が心臓弁を傷つける。もし損傷を受けた脊椎骨が神経や脊髄を圧迫するなら、冒された神経が供給されている部位で、しびれ、脱力、あるいは痛みが起こりうる。
● 馬尾症候群は稀な合併症で、炎症を起こした脊柱が脊髄の末端から伸びる一連の神経を圧迫するときに、発現する症状から成り立つ。症状には、インポテンス、夜間の尿失禁、膀胱と直腸での感覚低下、そして足関節部で反射の損失がある。
● 手根管症候群:正中神経が手根管の部分で慢性的に圧迫されて起こる絞扼性ニューロパシー、mononeuropathy。
● 正中神経の絞扼によって、親指、示指、中指にしびれ(感覚脱失、異常感覚)や灼熱痛、筋萎縮が生じる。
● 中年女性の利き手に多い。
手根管
carpal tunnel
手関節の骨、屈筋支帯 および横手根靱帯が作る空間 tunnelである。
その中に、正中神経、浅指屈筋腱、深指屈筋腱がおさまっている。
屈筋支帯
Retinaculum flexorum
手根骨の弧状配列を維持するとともに、浅・深指屈筋腱が滑動する時の滑車の役割をする。屈筋支帯は硬い線維組織であるため、手根管は柔軟性に乏しく、屈筋腱群は腱鞘に覆われたまま正中神経とともに走行している。
1854年:James Paget(P 1814/1/11〜1899/12/30, 英国Royal Collegeの外科医、病理学者)が「Lectures on Surgical Pathology」で、橈骨骨折後に正中神経をしばる絞扼た手根管症候群を報告した。
1880年:James Jackson Putnam(1846〜1918, マサチューセッツ総合病院の臨床神経部門、ハーバード大の教授)が37例を報告(Arch Med NY)。
1913年:Pierre Marie(1853〜1940, フランスの神経学者)とCharles Foixが80歳の男性の手根管症候群の剖検例を報告し、開放術が有効と考察した(Rev Neurol)。
1915年:Jules Tinel(P 1879〜1952, フランス人サルペトリエールの神経外科医)が、手根部を叩いた時の放散痛を報告した(Presse Med)。
1933年:James R Learmonth(1895〜1967, メイヨークリニック)が手根管開放術を始めた(Surg Clin North Am)。
1951年:George S. Phalen(1911/12/2〜1998/4/14, 米国クリーブランド病院の整形外科部長)が、1分間手首を屈曲することの診断価値を述べた(JAMA)。
[症状]
● 一側あるいは両側の親指、示指、中指に、ピリピリする疼痛が現れる。
● 患者の8〜9割にしびれ(感覚脱失、異常感覚)が存在し、約2割に灼熱痛が存在する。
しびれ
感覚脱失
異常感覚
刺激が加わったときに感じる異常感覚
自発性に現れる異常感覚
● しびれや痛みが朝方や特に深夜に増強し、目が覚めることがある。
● 手を強く振ると、手根管内圧の一時的減少によって(?)、症状が軽減することがある—flick sign
● 母指に筋萎縮が現れることもある。
● 正中神経麻痺→短母指外転勤の萎縮(拇指球萎縮、猿手)
● 正中神経の運動神経伝導速度、感覚神経伝導速度の低下
[病期]
初期:
● 夜間、正中神経支配領域に現れるしびれ感、灼熱感、痛み、感覚鈍麻を特徴とする。
● 夜間に症状が現れる理由
○ 横になると、立っている時下肢に溜まった体液が上肢に再配分される。
○ 筋肉の活動が落ちて、静脈血を心臓に還流する筋肉ポンプの働きがなくなる。
○ 睡眠時、手を屈曲させるので、手根管内の組織圧が上昇する。
○ 睡眠時交感神経の活動が落ちて、全身血圧が下がると、外からの圧力によって、正中神経の血流が阻害される。
中間期:
● 異常感覚と感覚鈍麻が夜間だけでなく、日中にも現れる。
● この時期、神経上膜と神経束内の浮腫が持続し、神経内膜の組織圧が恒常的に上昇する。
● 神経上膜が浮腫に陥ると、繊維芽細胞が浸潤し、痕跡組織を作る。
● 髄鞘部の形態が崩れ、脱髄がみられる。
進行期:
● 神経上膜、神経周膜、神経内膜のすべての線維化が進んで、痕跡が作られ、正中神経の感覚運動機能が失われる。
● 神経線維は、伝導を停止するだけのニューロプラキシーと、形態学的連続性を失う軸索離断を示す。
・中間期以後、末梢神経線維の脱髄と変性、再生が痛みの基礎病変になる。
[原因]
■ Sunderland 1991
● 不明の特発性のもの
● 局所性病変によるもの
● 全身疾患によるもの
■ Bora & Osterman
【外傷性】
● 手根骨折、特に橈骨下端のColles骨折と、橈骨下端が骨折して、末梢骨片が掌側に転移したSmith骨折
● 手根脱臼
● 手根の変性関節炎
【手関節の使いすぎ】
● 掌背屈
● 把握
● 指運動
● タイプ打ち
【炎症性】
● 非特異的屈筋腱鞘炎
● リウマチ性屈筋腱腱鞘炎(約20%が合併)
● 痛風、偽痛風
● アミロイド症
● 急性石灰沈着性腱炎
● 血腫
【内分泌性】
● 甲状腺機能低下症(粘液水腫)
● アクロメガリー
● 妊娠(妊娠6ヶ月以降に多い)
● 糖尿病
● 閉経
● 腎不全、透析
【腫瘍】
● ガングリオン
● 神経腫
● 良性潰瘍、脂肪線維腫
● 悪性腫瘍
【その他】
● Dupuytren拘縮
● 心不全
● 筋肉の形成異常
● 正中動脈の形成異常
● 中年女性の利き手に多い。男女比:32:68
● 好発年齢は女性の場合、妊娠出産期と更年期に多く、更年期が6割占めていると報告されている。
● 利き手の発症率が高いが、患者の約1/3が両側性に罹患している。
● 妊娠の18-31%に手根管症候群を疑わせる自覚症状があり、7-10%に正中神経の伝導速度の低下がみられる。妊娠による浮腫によって、手根管の結合組織が腫脹して、手根管症候群が現れると考えられる。出産してから数ヶ月も続くことがある。
● 手関節を反復して動かす職業(マッサージ、タイピスト、コンピュータープログラマー、研磨、床磨きなど)に従事している人に送りやすい。
● 関節リウマチ患者では約10%にみられるとされており、見逃されている症例が多いと考えられている。
[メカニズム]
[治療]
● 初期には、副子固定による局所安静や、ステロイド局所注射
● 筋萎縮や筋力低下のもの、電気生理学的に異常所見が見られるものでは、掌側手根靱帯を縦切あるいは、正中神経の徐圧(母指対立筋の筋萎縮が強い症例では母指対立再建術を追加することがある。
● 肩凝りは、症状であり、疾病名ではない。
● 後頭部から肩、および肩甲部にかけての筋肉の緊張感を中心とする不快感、違和感、鈍痛などの症状、愁訴。
● 厚生労働省が3年ごとに行っている国民生活基礎調査で毎回、15歳〜64歳の女性の愁訴第1位(男性は腰痛)。
● わが国では、夏目漱石の「門」(1910年=明治43年)で、「肩が凝る」という言葉がはじめて使われた。*
「指で圧してみると、頸と肩の継目の少し脊中へ寄った局部が、石のように凝っていた。およねは男の力一杯にそれを抑えて呉れと頼んだ。宗助の額からは汗が煮染み出した。それでもおよねの満足する程は力が出なかった。」
● 明治時代では一般には、「肩がはる」が使われていた。樋ロ一葉の「ゆく雲」(1895年=明治28年)では、「肩がはる」という表現が使われていた。
「お縫は生母を亡くし、継母に養われている。この下宿屋のおかみは「大名の分家と利かせる見得ぼうの上なし、下女には奥様といはせ、若物の裾のながいを引いて、用をすれは肩がはるという」といやみな女でした。」 しかし、⇒「頭痛肩こり樋口一葉」(井上ひさし)
● 何の病気がない人でも肩凝りを持つことが多いが、肩凝りは何らかの病気の症状の一つになっていることがある。
◇肩凝りの原因となる代表的な病気
1. 脊椎の疾患
2. 肩関節の疾患
3. 胸郭出口症候群
4. 内科疾患(高血圧、低血圧、動脈硬化、貧血、心筋症、心臓の冠動脈疾患、狭心症、心不全、肺疾患、胸膜炎、肺結核、甲状腺疾患、肝臓疾患、胆石、胆嚢炎、更年期障害)
● 肩凝りの中で最も目立つのが、肩甲骨を持ち上げる僧帽筋 Trapezius muscleの凝りである。
◇ストレスや筋肉の使いすぎによる肩凝りは、通常僧帽筋に現れる。
ー僧帽筋は、下行部、横行部および上行部の3部に分けられる。
○ 各部にしこり(索状硬結)を伴うトリガーポイントの好発部位があり、トリガーポイントを圧迫すると関連痛が現れる。
○ 下行部と横行部のトリガーポイントを圧迫すると、頭、頸部に関連痛が現れる。
上行部のトリガーポイントを圧迫すると、肩から首にかけて関連痛が現れる。
○ 精神的な緊張が高まった時に肩に力が入ると、これらの筋が持続的に収縮する。その結果、血流障害を伴う筋収縮による発痛物質の蓄積が起こって、筋肉痛:肩凝りとなる。
○ この段階で肩凝りが始まっている。肩の筋肉が収縮した状態が持続したり、反復したりすると、ピンと張った筋線維の束:しこり=索状硬結が現れる。このしこりにトリガーポイントが見出され、そこを圧迫すると離れた場所に関連痛を感じる。⇒筋筋膜痛症候群
○ 肩たたき、マッサージ、筋のストレッチが筋筋膜痛症候群の拘縮を解除し、肩凝りがやわらぐ。
僧帽筋の筋力が弱い女性の方が肩こりになりやすい。僧帽筋では、速筋と遅筋の両方の筋線維の直径は、男性よりも女性の方が細い。
◇肩関節と直立歩行
○ ヒトは直立して歩行し、手を自由に使えるようになって、大きな脳をもつことができた。それを可能にする骨格の変化が起こった。その代わり、肩を持ち上げる必要が生じ、僧帽筋、肩甲挙筋 Levator scapulae muscle に負担がかかる。
○ ヒトの肩関節は、あらゆる関節の中でもっとも広い運動範囲を持っている。
○ ウマやイヌは鎖骨を持たない。これらの動物が四足で直立すると、肩関節の関節窩が水平になる。
○ 鎖骨を持つ人の胸郭は横幅が広く前後径が短くなっている。そのため人の肩関節は横に移動し、腕を360度回すことができる。その代わり、ヒトが直立歩行すると肩関節の関節窩がほぼ垂直になる。
○ 肩関節に上肢がぶら下がっているので、肩が下がりやすい。肩関節の関節法の上部を複数の靱帯が補強している。これらをさらに回旋腱板が補強している。
◇欧米人には「肩凝りがない」と言われるが、同様の症状は欧米にもみられる。
○ 日本人の考える肩凝りの「肩」は首の付け根から肩の関節までの間の部分であるが、この部分は欧米では、首あるいは胸郭に含まれる。
○ 欧米人にとっての「shoulder」は肩関節の周りに限られるので、肩凝りがない。
○ 英語の「shoulder pain」や「stiff shoulder」は、「肩の関節部」「肩先」や「肩甲骨」を中心とした部分の痛みや凝りを指し、これらはスポーツや事故による痛みや凝りを意味することが多い。
○ 「stiff neck(首の凝り)」あるいは、「Trapezius Myalgia(僧帽筋の筋肉痛 )」と呼ばれる痛みが、日本人の肩凝りに近い表現。
● 首が回しにくかったり、頭板状筋などが硬く張っている場合は、軽度の痙性斜頸の可能性がある。ボツリヌス療法を行う際は健康保険の適応疾患を確認すること。
● 頚部、肩の運動療法が効果的。日本整形外科学会提唱 肩の体操療法
● http://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/stiffed_neck.html
● 専門医へのコンサルト
● 片側の増強するしびれ、筋力低下、筋萎縮は高度の神経症状を疑うため整形外科専門医へコンサルトを行う。うつ病など精神疾患によるものも多いため2週以上継続する「意欲の減退」、「興味または喜びの喪失」がある場合は精神科専門医へコンサルトを行う。
● 患者説明のポイント
● 薬物療法は運動療法に勝るものではない。症状は完全に消失しないが、運動療法と予防を継続的に行うことで日常生活や就労に支障が無くなることを説明する。安静より日常生活や就労を行うほうが好ましい。症状が完全に消失しなくとも薬物療法は逓減させる。鎮痛薬投与や貼付剤は頓用で可能である。
有痛性肩拘縮症、癒着性関節包炎 adhesive capsulitis (五十肩、四十肩 frozen shoulder)
● 40〜60歳代に好発する肩関節周囲の炎症
● 肩関節周辺に激しい疼痛と関節拘縮、運動制限をきたす。
● 関節拘縮の除去目的にて、関節注射が行われることがある。感染やステロイド投与による腱板損傷・軟骨損傷に注意が必要である。
● 自発的な運動療法が効果的であるが、それが困難な場合、近年エコー下神経ブロックを併用した運動療法が行われることがある。
整形外科では『頸肩腕症候群』、労働衛生関連では『頸肩腕障害』という用語が使われているようである。
● 『頸肩腕症候群』:頸部、肩、上腕、前腕、手、指の一部またはすべての部位に、筋のこり、痛み、しびれ等を伴う症状の総称。
● 頸肩腕障害』:作業に関連して頸肩腕部に愁訴を有する障害—職業病的要素に関連した疾患。
労働衛生
● 1950年代、キーパンチャーの間に多発する健康障害として、頸肩腕障害が労働者や一部の医師・研究者の間で認識された。
● 1995年、中央災害防止協会の「職場における頸肩腕症候群予防対策に関する検討結果報告書」
● 1974年、日本産業衛生学会頸肩腕症候群委員会は、作業に関連して頸肩腕部に愁訴を有する状態を『頸肩腕障害』として規定し、予防対策を提起し始めた。
● 業務による障害を対象とする。
すなわち,上肢を同一肢位に保持または反復使用する作業により,神経・筋疲労を生 じる結果起こる機能的あるいは器質的障害である。 ただし,病像形成に精神的起因および環境因子も関与も無視しえない。
従って,本障害には従来の成書に見られる疾患(腱鞘炎,関節炎,斜角筋症候群など) も含まれるが,大半は従来の尺度では判断しにくい性質の健康障害であり,新たな観 点に立った診断基準が必要である。
● 1997年2月(平成9年2月)「上肢作業に基づく疾病の認定基準について」(基発第65号)
● 頸肩腕障害が発生しやすい職種
● 介護・福祉・保育職場での管理・パソコン業務、歯科衛生士・検査技師、手話通訳者、パソコン作業が多い事務作業者、VDT作業、コンピューター関連業務
[症状]
● 自覚症状
○ 頭部、頸部、背部、上腕、前腕、手及び指の痛みや凝り、シビレなど様々な症状⇒不定愁訴
○ 異常感、脱力感
● 他覚症状:病的な圧痛及び緊張、筋硬結等がみられる。
● 血行不全などの症状を伴うこともある。
[原因]
● 反復性ストレス障害 Repetitive Stress Injury RSI:手や手指の反復性動作による、手指腱鞘炎,上腕骨上顆炎,手根管症候群
● 長時間の姿勢や上肢保持による静的筋肉疲労による障害:胸郭出口症候群(斜角筋症候群)や項背腰部の筋筋膜炎症 神経、血管系
炎症部位—炎症部は画一的ではない。
肩峰下滑液包炎 腱板炎 有痛性肩関節制動症 烏口突起炎 石灰沈着性腱板炎 結合組織炎 上腕二頭筋長頭腱炎
[症状]
● 肩関節の痛みで発症し、次第に痛みが増強して、やがて関節拘縮を生じ、肩の運動制限をもたらす。
● 肩峰下滑液包炎:棘下筋の付着部に炎症が起きる。これが肩関節周囲に影響を及ぼし、関節包の癒着を生じてくる。
● 石灰化腱炎:石灰沈着が棘上筋腱部に発生。腱の部分壊死による石灰化、カルシウムイオンの透過性の増加による石灰化
● 痛み
○ 肩甲骨周辺、上腕部に放散する鈍痛。
○ 運動痛:手を後ろに回す時などに痛みが生じる。
○ 夜間痛や冷えた時などに痛むが生じる。
○ 自発痛を全く伴わず,運動痛と関節拘縮のみを認める症例もある。
● 関節拘縮:関節外の軟部組織が収縮性変化を起こし関節の可動性が減少し,あるいは消失した状態
● 背筋群の筋力低下。
● 運動制限:特に、後方挙上や外旋が制限され、次第に前方挙上が困難となる。
○ 後方挙上:手を後ろに回す、帯を結ぶ動作
○ 外旋:肩を外に捻る動作
○ 前方挙上:万歳する動作
[原因]
● 肩関節を構成する骨,軟骨,関節包,回旋筋腱板など諸組織の加齢的変性変化に伴われる。
● 外傷などがきっかけとなる?
● 運動不足などによる筋力の低下や、柔軟性の欠如等も原因になる?
● 肩峰下滑液包炎,上腕二頭筋腱鞘炎などの炎症が引き金となって、疼痛→安静→運動制限→疼痛の悪循環のために次第に拘縮が強くなって、疼痛性拘縮が成立するものと考えられる?
● 拮抗筋が優位に働き、大胸筋などの緊張が強くなり、肩の動きが制限される?
[治療]
● 急性期:動かさなくても痛む時や肩周辺に熱感がある時期:運動制限。
● 慢性期:動かす角度によって痛む時期:無理のない運動。
● 痛みの治療
○ 薬物療法:非ステロイド系抗炎症剤、筋弛緩剤
○ リハビリテーション:温熱療法、電気刺激療法、関節可動域改善訓練、肩のストレッチング、筋力強化訓練、肩の体操(コドマン体操)
○ ステロイド関節内注射
○ 神経ブロック療法(肩甲上神経ブロック・トリガーポイントブロックなど)
○ ヒアルロン酸ナトリウム関節内注射。
○ 難治例:肩関節の可動域低下が著明な場合にパンピング療法、鏡視下肩関節授動術などの手術的治療が行われることがある
○ 肩こりと同様の治療体系が有用である。
● 頚部、肩の運動療法が効果的。日本整形外科学会提唱 肩の体操療法
●
http://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/stiffed_neck.html
● 専門医へのコンサルト
● 片側の増強するしびれ、筋力低下、筋萎縮は高度の神経症状を疑うため整形外科専門医へコンサルトを行う。うつ病など精神疾患によるものも多いため2週以上継続する「意欲の減退」、「興味または喜びの喪失」がある場合は精神科専門医へコンサルトを行う。
● 患者説明のポイント
● 薬物療法は運動療法に勝るものではない。症状は完全に消失しないが、運動療法と予防を継続的に行うことで日常生活や就労に支障が無くなることを説明する。安静より日常生活や就労を行うほうが好ましい。症状が完全に消失しなくとも薬物療法は逓減させる。鎮痛薬投与や貼付剤は頓用で可能である。