機能性身体症候群 functional somatic syndromes: FSS

● 諸検査で器質的あるいは特異的な病理所見を明らかにできない持続的で特異な身体愁訴を特徴とする症候群で、それを苦痛と感じて日常生活に支障を来す。
● 1990年代の後半から、質的な原因の有無に関わらず痛みなどを訴える疾病概念として「Functional Somatic Syndrome:FSS」という呼び名が提唱されるようになった。
● Simon Wessely(King’s College Londonの精神科教授)が提唱した。 参考1/2
● Michael Sharpe(Saint Cross College, Oxfordの心理学教授)
● FSSの3つの愁訴の主なタイプ
 1. さまざまな部位の痛み
 2. 種々の臓器系の機能障害
 3. 倦怠や疲労困憊
● 代表例:過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症
● その他:非特異的胸痛、月経前症候群、機能性消化管障害、顎関節症、舌痛症、緊張型頭痛、過換気症候群、ヒステリー球症候群、低髄液圧症候群、慢性むち打ち症、慢性腰痛症、間質性膀胱炎、慢性骨盤痛、めまい、耳鳴り、化学物質過敏症、シックハウス症候群など
● 線維筋痛症とmuscular TMD(顎関節機能障害Temporomandibular joint dysfunction)には、慢性疼痛や抑うつ・不安に対する高い傾向性、睡眠障害など症状の重複が多くみられ、線維筋痛症患者の70%がTMDの診断基準を充たすとの報告もある。
● FSSの病態に深く関わる因子としては、脳内の神経伝達物質であり、不安や痛み、睡眠、食欲や呼吸など様々な身体機能を司るセロトニンとの関与が示唆されている。

過敏性腸症候群 irritable bowel syndrome:IBS

● 基質的疾患を伴わず、腹痛・腹部不快感と便通異常(下痢、便秘)が長時間持続し、悪化・改善を繰り返す機能性疾患
● ストレスをはじめとする種々の病因によって引き起こされ、脳腸相関により副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンなどによって惹起された腸管運動や腸管内圧の変化が中枢に影響を与え、ストレスの悪循環となると考えられている。
● 5HT3受容体を阻害することで、消化管運動亢進に伴う便通異常を改善する。

◇機能性胃腸障害(Rome III分類より)
C   機能性腸障害(Functional bowel disorders)
C1 過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome)
C2 機能性腹部膨満(Functional bloating)
C3 機能性便秘症(Functional constipation)
C4 機能性下痢症(Functional diarrhea)
C5 その他の機能性腸障害(Unspecified functional bowel disorder)
1871年:Jacob Mendes Da Costa(P 1833/2/7〜1900/12/12, 南北戦争の従軍軍医)が、 南北戦争で戦う兵士たちの間で心臓神経症が多発することを報告した(irritable heart or DaCosta syndrome)。同時に、極端な消化器症状が出て前線に出られない兵士が続出した。粘液を伴う下痢があり、それらの症状と精神的因子との間に密接な関係、患者の直腸を調べても潰瘍などは見られないことを報告した。戦争を通して味わう「死の恐怖」が精神的な重圧になって、このような症状を起こしたと考えた。(DaCosta J. Membranous enteritis. Am J Med Sci 1871; 62:321-38.)
1892年:Sir William Osler(P 1849〜1919, アメリカ、内科医、医学教育者)が「Mucous colitis」と記載した。
1915年:Walter Bradford Cannon(P 1871〜1945, アメリカの生理学者、William Jamesの弟子)は、動物の恐怖に対する反応としてfight or flight responseを定義した。情動が消化管活動を変化させることも観察した。
1929年:S. Jordanが「過敏性大腸 irritable colon」として報告した。
Henry Bockus(1894〜1982,元ペンシルバニア大学消化器科教授)の消化器病学の教科書でirritable colonが大々的に取り上げられた。
1936年:Hans Selye(P 1907〜1982, ハンガリー出身のカナダの病理学者、生理学者)は、有害な因子によって体に生じた歪みと、それに対する防衛(適応)反応を「生体内の歪みの状態」、すなわちストレスと呼び、「汎(一般)適応症候群」を提唱した。
1973年:James RitchieがIBS患者と健康被検者の大腸に挿入したバルーンを膨らませて、腹痛を自覚する閾値を調べた。IBS患者の方が腹痛を引き起こす閾値が低いという報告をしたが、あまり注目されなかった。[Ritchie, James. Pain from distension of the pelvic colon by inflating a balloon in the irritable colon syndrome . Gut. 1973 Feb;14(2):125–132.PubMed]
1980年-1985年:William E. Whitehead(North Carolina大学)が再試をし、IBS患者の大腸の感覚閾値が低下していることが広く認識された。[Whitehead WF, Engel BT, Schuster MM: Irritable bowel syndrome: Physiological and psychological differences between diarrhea-predominant and constipation-predominant patients. Dig Dis Sci 25:404–413, 1980.PubMed][Whitehead, W. E., & Schuster, M. M. (1985).Gastrointestinal disorders: Behavioral and physiological basis for treatment. New York: Academic Press.]
1990年代:barostatが開発された。

● 以前は、過敏性大腸症候群 irritable colon syndromeと呼ばれていたが、近年では大腸のみならず小腸をはじめ、上部消化管をも含めた消化管全体の機能異常による症候群と捉えられるようになり、IBSの呼称が一般化してきた。
● IBSは消化器診療の中でもっとも多い疾患である。主要文明国でのIBSの有病率は概ね一般人口の10-15%、1年間の罹患率は1-2%と概算される。QOLが障害されることで、その経済的損失も無視できない規模に生ずる。
● 腹痛と便通異常を主体とする消化器症状が持続する。
● その原因としての器質的疾患を同定し得ない、機能性消化管障害の原型となる障害である。心身症の病態を呈する。
● IBSの病態は、消化管の運動異常・感覚過敏、さらに脳腸相関による修飾の結果、形成される。
● IBSは食事や腸内のガスの移動などによって悪化するが、最も明らかな増悪因子は心身のストレス。
● 明らかな器質的疾患を同定し得ないが、消化管への感覚刺激(おもに腸管の伸展刺激)に対する過敏性も認められる場合がある。

[IBSのRome III 診断基準]
腹痛あるいは腹部不快感が
最近3ヶ月で少なくとも3日/月以上を占め
1. 排便によって改善する。
2. 排便頻度の変化で始まる。
3. 便形状(外観)の変化で始まる。
● 腹痛あるいは腹部不快感が、最近3ヵ月の中の1ヵ月につき少なくとも3日以上を占め下記の2項目以上の特徴を示す。
● 少なくとも診断の6ヶ月以上前に症状が出現し、最近3ヶ月は基準を満たす必要がある。
● 腹部不快感とは、腹痛とは言えない不愉快な感覚を指す。病態生理研究や臨床研究では、腹痛あるいは腹部不快感が少なくとも2日/週以上を占めるものが対象として望ましい。
[IBSのRome II 診断基準]
・腹痛あるいは腹部不快感が12ヶ月の中の連休とは限らない12週間を占め腹痛あるいは腹部不快感が下記2項目以上の特徴を示す。
1. 排便によって経快する。
2. 排便頻度の変化で始まる。
3. 便性状の変化で始まる。

● Rome II↑において、IBSは「腹痛あるいは腹部不快感」が12ヶ月の中の連続とは限らない12週間以上を占める。
● 腹痛あるいは腹部不快感が、① 排便によって軽快する、② 排便頻度の変化で始まる、③ 便性状の変化で始まる、の3つの便通異常の2つ以上の症状を伴うもの」と定義されている。

[IBSの指示症状(Rome II)]

△1. 排便回数<3回/週
▼2. 排便回数>3回/日
△3. 硬便 or 兎糞状便
▼4. 軟便 or 水様便
△5. 排便困難(排便時の力み)
▼6. 便意切迫(急激な便意)
 7. 残便感
 8. 粘液の排出
 9. 腹部膨満感、腹部膨満、腹部膨隆
▼下痢型:2, 4, 6の1つ以上 + 1, 3, 5なし
△便秘型:1, 3, 5の1つ以上 + 2, 4, 6なし
Rome II↑の定義からは除外されたが、診断を補強する症状は3回/週未満の排便回数、硬便/兎糞状便、もしくは排便困難で定義づけられる便秘、3回/日より多い排便回数、軟便/水様便、もしくは便意切迫で定義づけられる下痢、残便感、粘液の排出、腹部膨満感、腹部膨満、腹部膨隆である。

[典型的な症状]

● IBS患者を悩ませる一番の症状は、腹痛とそれに伴う情動である。
● 下腹部やみぞおちの痛みを伴った下痢や便秘が排便によって軽快する。
● 便通異常には、下痢型・便秘型(下痢または便秘のみが持続するもの)と交代型(便秘と下痢をくり返すもの)とがある。
● 大腸の症状以外に、心窩部痛、食後膨満感、悪心、嘔吐、食欲不振、胸焼け、季肋部痛、背部痛などの症状を訴えることも稀でない。
● 頭痛、頭重感、めまい、動機、頻尿、月経障害、筋痛、四肢末端の冷感、易疲労感などの多彩な身体症状を呈する。
● 抑鬱感、不安感、緊張感、不眠、焦燥感、意欲低下、心気傾向、欲求不満などの精神症状を持つ。
● 飲酒や不規則な生活、心身の緊張などで増悪しやすい。
● 通常睡眠中は症状は認めらない。週末などには症状が起こりにくい例が多い。
● 症状がひどい場合には、止痢剤や下剤を濫用したり、トイレへ行きにくい状況を回避するようになり、不登校などの行動上の問題をきたす場合がある。

運動異常
 ○ 基本的には腸管運動の異常に基づく状態である。
 ○ 通常、消化管には各部位ごとに規則的な蠕動運動が認められるが、患者さんの多くで食道から直腸にいたるまでさまざまな運動異常がみられる。

タイプ 硬便または兎糞状便 軟便または水様便
Bristol便形状尺度 1, 2型 6, 7型
便秘型IBS
(IBS-C)
● 便秘 constipationを主とするタイプ。
● 食後も正常な蠕動運動が発生せず、遠位結腸を中心に部分的なれん縮が誘発される。
● 便秘型は女性に多い傾向がある。
25%以上 25%未満
下痢型IBS
(IBS-D)
● 下痢 diarrheaを主とするタイプ。
● 過度な蠕動運動が誘発されやすい状態にある。
● 軟便または水様便が便形状の25%以上、かつ、硬便または兎糞状便が便形状(=)の25%未満
25%未満 25%未満以上
混合型IBS
(IBS-M)
便秘と下痢をくり返すタイプ 25%以上 25%以上
分類不能型IBS 便形状の異常が不十分であってIBS-C, IBS-D, IBS-Mのいずれでもない(止瀉薬、下剤を用いないときの糞便で評価) 異常が不十分 異常が不十分

[Bristol便形状尺度]

1型 分離した硬い木の実のような便(排便困難を伴う)
2型 硬便が集合したソーセージ状の便
3型 表面にひび割れがあるソーセージ状の便
4型 平滑で柔らかいソーセージ状あるいは蛇状の便
5型 柔らかく割面が鋭い小塊状の便(排便が容易)
6型 ふわふわした不定形の小片便、泥状便
7型 固形物を含まない水様便

● 腸管の蠕動運動反射には、腸管内圧が大きく関与していて、腸管内圧の上昇が便秘の治療に有効である。
● IBSにおける腸管運動異常にcorticototropin-relating hormone:CRFや種々の消化管ホルモンの関与も推定されている。
● 消化管の感覚過敏 visceral hypersensitivity
● IBSの患者では、種々の刺激に対する消化管の感覚過敏が認められる。
● 腸管の過敏性と過剰反応性がIBSの病態を構成する重要な因子となる。
● IBS患者の腸管は、健常者に比べて痛み刺激に対する閾値が低い。
● 腸管から中枢神経系へ伝達された痛み刺激の処理にされ方に異常がある。
脳腸相関 Brain-gut interaction↑
● IBS患者では、脳腸相関反応が増大している。
● IBSにおける諸症状は、一般に精神的ストレスによって増悪する。
● 腸の機能は筋間神経叢を中心とする腸神経系(ENS) によって制御される。
● 脳腸相関の伝達物質としてCRFが重要であり、液性調節や自律神経系(ANS)の支配も受ける。
● これらによって惹起された腸管運動や腸管内圧の変化が、求心性の迷走神経路を介して延髄弧束核に伝達され、種々の腹部症状が認識される。
● この症状の発生がストレス源となって、さらにストレスの悪循環が将来されるものと考えられる。

東北大学の福土先生らの研究 ←→内臓感覚←1/2
—-ストレス時に痛みを感じるのは、気のせいではなく、実際に消化管が敏感に反応している。
● 脳が消化管をコントロールするのではなく、消化管が脳をコントロールしている!Ÿ     情動ストレスあるいは中枢興奮による副交感神経興奮を模するneostigmine( cholinesterase 阻害薬)を負荷すると、大腸の分節運動が亢進する。
● IBSは小腸運動も異常であり、その異常は脳の覚醒レベルの影響を受け、大腸拡張刺激に対する消化管感覚閾値が低く、振幅の大きい大脳誘発電位を示す。
● IBSではストレス関連物質CRF 負荷時のACTH放出と大腸運動亢進が過大である。
● IBSは高率に抑鬱と不安を呈するが、これらの心理的異常はCRFに関連している。
● 消化管腔刺激時の消化管の変化をバロスタットで、また、脳内変化を PETによるイメージング
● PETによるイメージングで、音と皮膚電気刺激を組み合わせた条件づけによる大腸運動の変化により、前帯状回、前頭前野、島の賦活化が誘発された。
● 内臓刺激により、視床、島、前帯状回、前頭前野が賦活化されたので、内臓からの感覚刺激とストレッサーは脳の身体感知領域を共有すると考えられる。

消化管運動の研究

● Barostat開発前—古典的な薄いゴム球を使った消化管内圧測定法
● 薄いゴム球には、容量を少し変えると内圧が激しく上昇し、消化管の微細な運動を正しく検出できないという弱点があった。
● このため、圧トランスデューサーで主に収縮運動を測る方法が長年採用されていた。
Barostat法
● 1990年代にバロスタットBarostatが開発された。
● バロスタット法は、バロスタットバッグ(=ポリエチレンでできた薄いバッグ)を消化管に挿入して、被験者の感じている内臓感覚を直接測定する方法である。
● バロスタットバッグを腸や胃に挿入し、バッグの容量、圧力、コンプライアンスをコンピュータ制御下で観察する。
● バロスタット法の長所:一定の低圧を大腸に与えることにより、内腔を閉塞する収縮運動だけではなく、内腔を閉塞しない程度の軽い収縮運動、大腸壁緊張の変化、特に弛緩反応を検出できることである。
● バロスタット法がさらに優れている点は,バッグ内圧をさまざまな程度に変化させることで、消化管感覚を定量的に評価できることである。
● 腸の容量は、腸壁が緊張すれば低下し、腸壁が弛緩すれば上昇する。
● バロスタット法では、通常15分以上の基礎測定を行い、刺激を負荷して腸の容量の変化を観察する。

虚偽性障害 factitious disorder

◇虚偽性障害(DSM-IV)

300.16 心理的徴候と症状の優勢なもの:心理的徴候と症状が臨床像で優位である場合
300.19 身体的徴候と症状の優位なもの:身体的徴候または症状が臨床像で優位である場合
300.19 心理的および身体的徴候と症状を併せ持つもの:心理的および身体的徴候または症状がともに存在しているが、いずれも臨床像で優位ではない場合

◇虚偽性障害の診断基準 (DSM-IV-TR)

A.身体的または心理的兆候または症状の意図的産出、またはねつ造。
B.その行動の動機は、病者の役割を演ずることにある。
C.行動の外的動機(詐病のような、経済的利得、法的責任の回避、または身体的健康の向上)が欠如している。病型に基づいてコード番号をつけよ

◇ICD-10

F68 他の成人の人格および行動の障害
F68.0 心理的理由による身体症状の発展
F68.1 症状あるいは能力低下の意図的産出あるいは偽装,身体的あるいは心理的なもの(虚偽性障害)
F68.8 他の特定の成人の人格および行動の障害

● 病状などについて虚偽を並べ立てる精神疾患の一種である。過去には詐病とされていたが、近来治療の対象とみなされるようになった。
● DSM-IVの医学分類では、心理的症状が優勢な虚偽性障害と身体的症状が優勢な虚偽性障害に二分される。
● 「心理的徴候と症状が優勢なもの」(DSM-IV:300.16)は、あらゆる同情をひくことができる精神病で起こりうる。精神疾患を疑わせる症状の意図的産出若しくは偽装をする。
● 「身体的徴候と症状が優勢なもの」(DSM-IV:300.19)は、腫瘍、なかなか治らない傷、痛み、低血糖、貧血、出血、けいれん、めまい、失神、嘔吐、下痢、原因不明の発熱などの症状を訴える事が多い。身体的症状が優勢な虚偽性障害の内、特に重症で慢性のものをミュンヒハウゼン症候群と呼ぶ。
● 「心理的および身体的徴候と症状を併せ持つもの」(DSM-IV:300.19)、心理的、身体的双方共に症状を訴えるがどちらが優勢か区別できないものである。分類上は、「身体的徴候と症状が優勢なもの」と同じに扱われる。
● 精神関係の相談に応じた患者の約1%が虚偽性障害と診断される。高度医療を要する医療機関における有病率は更に高くなると言われている。患者の比率は男性より女性が多いが、慢性型のミュンヒハウゼン症候群は男性に多いと言われている。

◇ミュンヒハウゼン症候群 Munchausen syndrome
・ 病気をねつ造したり、自己誘導的に病気となって病院をあちこち歩く病的虚言症で詐病とも言う。
・ 951年にRichard Alan John Asher(P 1912/4/3〜1969/4/25, イギリスの内分泌学者、血液学者)によって発見され命名された。
・ 「ほら吹き男爵」の異名を持ったドイツ貴族・Baron von Munchausen男爵(実在)の名前から付けられている。
◇代理ミュンヒハウゼン症候群 Munchausen Syndrome by Proxy (MSbP)
・ ミュンヒハウゼン症候群の変型。自分以外を傷つけ、周囲の関心を引き寄せる。
・ 症状が病気の本人(ほとんどは養育者である母親)には表れず、養育者の嘘や捏造されたデータにより、もっぱら代理である子どもに表れる。
・ 1977年Roy Meadow(イギリスの小児科医)が「子ども虐待の奥地: The hinterland of child abuse」と題した原著の中でMSBP: Munchausen syndrome by proxyと報告した。
◇『ほら吹き男爵の冒険 the baron of lies』
・ 原型は、Karl Friedrich Hieronymus Freiherr von Münchhausen(カール・フリードリッヒ・ヒエロニュムス 1720/5/11〜1797/2/22 ロイセン王国の軍人であり、狩猟家、冒険家)男爵が自身の冒険談として周囲に語ったほら話。
・ ミュンヒハウゼンの物語がはじめてまとまった形で出版されたのは1781年(著者は不明)である。
・ 1785年にRudolf Erich Raspe (1737〜1794)による英語版(Baron Munchhausen’s Narrative of his Marvellous Travels and Campaigns in Russia)が出版された。
・ 1786年に、August Bürger (1747〜1894) がラスペ版をドイツ語へと翻訳、加筆してドイツに逆輸入した。

関連痛 referred pain

● 痛みとなる原因が生じた部位から離れた場所に感じる痛み。
● 関連痛はしばしば、深部組織:内臓、筋肉、関節の損傷によって起こる。
● 関連痛の領域のマッピングは、診断の手がかりになる。
● 損傷した深部組織と同じデルマトームに限局している関連痛と、それ以外の関連部位に起こる関連痛がある。
● 痛覚過敏を伴う関連痛と伴わない関連痛に分けられる。

● 内臓に原因があっても、筋肉に原因があっても関連痛が起こると言われるが、同じ概念の痛みだろうか?
● 内臓に原因があると、デルマトームが同じであるなどの関連した部位の皮膚に痛みが生じると言われるが、皮膚よりも深い部位に痛みを感じるように思える。
● 筋肉に原因がある関連痛は、周辺あるいは離れた部位の筋肉に痛みを生じるようだ。
● 関連痛を説明するメカニズムは、内臓痛の関連痛の説明と思われる。
1864年:Martynが、関連痛について初めて記載した。痛みは、損傷領域に限局せず、その近傍や離れた部位にも現れる。(Martyn, S. 1864 On the physiological meaning of  inframammary pain. British Medical Journal 2:296-298.)
1893年:Henry Head(P 1861〜1940, イギリスの生理学者)は、1893年の学位論文で、内臓疾患に伴う関連痛、いわゆる「ヘッド帯 Head’s zone」を調べて、報告した。 “On  disturbances of sensation with especial reference to pain of visceral disease” (Brain,  16(1893), L-133).
1938年:Jonas Henrik Kellgren(P 1911〜2002、Rheumatology at Manchesterの教授)がSir Thomas Lewis(P 1881〜1945, University College Hospital in London)のラボにいた頃に、筋肉痛における圧痛と関連痛の関係を記載した。高張食塩水(6%食塩水)を腱に微量注入しても局所にしか痛みを引き起こさないが、筋内に注入すると、注入局所以外の遠隔部位に痛みを引き起こす。しかもそれぞれの筋特有の関連痛バターンが現れることを報告した。食塩水を上腕三頭筋に注入すると指に痛みを感じ、僧帽筋に注入すると頭痛を起こし、これらの部位に局所麻酔薬を入れると、痛みがおさまることを報告した。このような特定パターンを示す関連痛は、筋に限らず、腱、靭帯、骨膜およぴ皮膚の刺激によっても生じる。さらにKellgrenは、このような関連痛を発生させる過敏なスポットがあり、そのスポットへ局所麻酔薬を注入することによって除痛できることを報告した。
内臓痛の関連痛を説明する諸説(?)
・Morleyの腸膜皮膚反射説↓  ・Sinclairらの説↓
・Mackenzieの収束促通説↓  ・Ruchの収束投射説↓
・上位中枢説↓  ・ヘッドの痛覚過敏帯↓
● 内臓に原因がある関連痛などには、痛覚過敏を伴わない関連痛と痛覚過敏を伴う関連痛に分けられる。
痛覚過敏を伴う
関連痛
⇒メカニズム↓
○ 痛覚過敏を伴う関連痛は内臓器官からの痛覚線維が進入する後根が支配する体節の中に現れる。
○ ヘッド帯:「デルマトームの法則」に当てはまる。
○ しかも、痛覚過敏はしばしば後根が支配する体節の一部に限局している。この場合、皮膚の痛覚過敏とともに筋肉に圧痛があって、しばしば腹壁筋の反射性収縮を伴っている。皮膚の痛覚過敏や筋肉の圧痛は局所麻酔薬によって減弱する。
○ 皮膚の痛覚過敏帯を反復刺激したり、針でつついたりすると、過敏な反応がみられる。
痛覚過敏を伴わない
関連痛
⇒メカニズム↓
○ 内臓からの痛覚線維が進入する後根が支配する体節の広い部位に現れるが、内臓器官からの線維が進入する後根の支配領域の外に感じることもある。
○ 皮膚や深部組織を局所麻酔しても、この関連痛は影響を受けない。

〇 内臓疾患による関連痛
● 内臓の障害であっても特定の部位の皮膚節 dermatomeに痛みを感じる.内臓受容器の興奮が同じ高さの脊髄に入る皮膚からの線維がシナプスする後角ニューロンを興奮させ,この興奮が中枢に伝えられるため,あたかも体表面が痛いように感じられる。

関連痛 内臓痛 体性痛
頭蓋内前頭蓋窩の損傷 同側の眼、眼窩部あるいは、脳頭蓋前部に痛み。
頭蓋内中頭蓋窩の損傷 同側の眼窩の上、側頭部および頭頂部に痛み。
頭蓋内後頭蓋窩の損傷 同側の耳、耳の後ろの部分、後頭部および後頭部と頸の境界部に痛み。
脳の外側部を覆う頭蓋円蓋部の内面の損傷 頭頂部と側頭部に痛み
椎骨動脈解離* 片側の後頭部から後頚部にかけての痛み (頭痛)
眼,鼻,歯,耳などの炎症 頭痛
外側翼突筋、外側翼突筋、咬筋の損傷 顎関節痛
歯髄炎 耳、こめかみ、頬などの痛み。 歯髄痛
心筋梗塞 胸の中央、左胸部、左肩、首、下顎、みぞおちなど。30分以上、前胸部に強い痛みや締めつけ感、圧迫感が続き、痛みのために恐怖感や不安感を伴う。 胸痛
狭心症 胸壁や左腕。痛みの部位は明確でない。痛みは長くても15分まで。 胸痛
右肺炎 右下腹部痛
肺がん 腫瘍が、胸腔内の気管にあれば胸骨上部の裏側に痛みを感じる。
腫瘍が、気管の分岐部にあれば左右の胸骨縁に痛みを感じる。
胆石発作 右肩の痛み。心窩部を中心とした疝痛発作が典型的で、これに関連痛として右肩や背中、腰の痛みを伴う場合もある。 上腹部や右上腹部痛 上腹部や右上腹部痛
胃潰瘍 上腹部の痛み、左背部 心窩部
十二指腸潰瘍 上腹部の痛み、左背部 心窩部
肝がん 右季肋部、心窩部、右肩
胆道疾患 右肩、肩甲部
虫垂炎 上腹部痛、McBurney点 右下腹部
腎結石などの尿路結石 鼠径部や精巣の痛み。下腹部から鼠径部、精巣、外陰部などに放散する場合がある。
泌尿器系疾患
(尿腎・尿管:腎・尿管結石、腎盂腎炎、腫瘍)
腰痛
婦人科疾患
(子宮内膜症、卵巣膿腫、子宮・卵巣腫瘍)
腰痛
消化器疾患
(潰瘍、膵・肝・胆嚢炎症および腫瘍)
腰痛
後腹膜疾患
(後腹膜腫瘍、腸腰筋膿腫)
腰痛
膵炎、膵臓癌 腰痛
腫瘍の腰椎、骨盤への転移(胃癌・腎癌・前立腺癌など) 腰痛
慢性前立腺炎* 会陰部、陰茎の先端、恥骨部、鼠径部、下腹部、大腿部内側、足の裏の痛み
下部腰椎の固定*

固定術後の障害?

殿部から大腿
仙腸関節の固定*

仙腸関節障害では?

大腿後面からふくらはぎ

〇 トリガーポイントと関連痛

関連痛 トリガーポイント
緊張型頭痛 前頭筋、側頭筋、喉頭筋、胸鎖乳突筋、頭板状筋、頚板状筋、僧帽筋、頭半棘筋、多裂筋
指痛 上腕三頭筋
膝関節痛 中間広筋
肩凝りー頭、頸部に関連痛 僧帽筋の下行部と横行部
肩凝りー肩から首に関連痛 僧帽筋の上行部
腰痛 腰部の筋:傍脊柱筋、腰方形筋
背部の筋:多裂筋・回旋筋
下腹部の筋:腸腰筋、腹直筋

● 種々の筋の障害により、関連痛としての腰痛が生じるが、腰椎のレントゲン写真やMRI検査、腱反射などの理学所見や触診などでは診断をつけるのが困難な場合がある。
● 筋筋膜痛症候群は、トリガーポイント刺激による痛みを主症状とする症候群である。
● このような関連痛のメカニズムとして広く知られているのは、脊髄レベルでのニューロンの収束・投射説や収束・促通説であるが、実際にヒトで起こっている感覚現象を十分に説明できるものではない。

〇 関連痛のメカニズムに関する諸説

関連痛の末梢説 ○ Morleyの腸膜皮膚反射説
○ Sinclairらの説
関連痛の中枢説 ○ Mackenzieの収束促通説
○ Ruchの収束投射説
○ 上位中枢説

関連痛の末梢説
[Morleyの腸膜皮膚反射説]

○ 関連痛の末梢説(1931)
○ Morleyは、「虫垂炎の最初の痛みは、真の内臓痛であって、虫垂に原因があって生ずる。遅れて現れる痛みは、壁側腹膜が侵されたためのもので、それが皮膚や皮下組織あるいは筋肉などに関連痛をもたらす。」と説明した。
○ Morleyは、BarronとMatthewsが発見した後根反射を取り入れ、後根反射によって、壁側腹膜の痛みを体壁に感じるという「Morleyの腸膜皮膚反射説」を提唱した。
壁側腹膜からインパルスが脊髄に送られて来ると、後根反射によって脊髄後根の神経線維からインパルスが発生する。このインパルスが末梢に向かって逆行性に進み、末梢終末に到達して局所に化学物質を放出する。放出された化学物質が局所に分布する痛覚線維を刺激して、痛みを生じる。
(Morley, J.A. (1931) Abdominal pain. William Wood, New York.)二重括弧
○ しかし、後根反射によって放出される化学物質が痛覚線維を興奮させることを示す証拠は見出されていない。脊髄の後根を刺激したときに、皮膚の熱刺激に対する反応の閾値が変わるかどうかをみた実験を見ても、求心性線維から放出される化学物質が痛覚線維の興奮性を高めることを示す証拠はない。
(末梢終末から放出されるグルタミン酸は、末梢終末上の侵害受容器を興奮させる可能性がある。)
[Sinclairらの説]
○ 関連痛の末梢説(1948)
○ 関連痛は、軸索反射によって生じる。
脊髄後根神経節にある細胞からの軸索は枝分かれしていて、内臓の皮膚に軸索を伸ばしている。内臓からのインパルスが来て、このニューロンが興奮したとき、脳は皮膚に分布する枝から来たと判断して関連痛を生じる。また、内臓器官からの痛みのインパルスは、脊髄に向かって進むと同時に、軸索反射によって末梢へも進んで、脊髄神経線維の末端から神経活性物質を放出し、局所に分布している別の神経線維を興奮させ、関連痛を生じる可能性もあると説明した。
“Sinclair, D.C., Weddell, G. & Feindel, W.H. (1948) Referred pain and associated phenomena. Brain 71:184-211.”

関連痛の中枢説
● Sturgeは、内臓器官からの求心性インパルスが脊髄に入ると、進入した脊髄分節に”commotion”を生じ、骨格筋反射および自律神経反射を強めると示唆した。
● Rossは、内臓器官に原因があって起こる痛みを、内臓自身に定位される痛みと、腹壁あるいは胸壁のような体壁に感じる痛みの2種類に分けた。
● Mackenzie は、内臓疾患によって生じる痛みは全て体表に感じられると主張した。
[Mackenzie P (1893)の収束促通説 convergence-facilitation theory]

○ 痛覚過敏を伴う関連痛の中枢説
○ Mackenzieは、関連痛を脊髄内のメカニズムで説明した。
○ 内臓器官から痛みの原因となるインパルスが送られ来ても、このインパルスを伝える神経線維は視床へ投射する脊髄視床路ニューロンとつながっていない。←1937年に、Lericheが内臓からのインパルスが脊髄視床路ニューロンを興奮させることがわかって、Mackenzie の説の最初の部分は否定された。
Leriche R 1937 Des douleurs provoquees par l’excitation du bout central desgrands splanchniques (douleurs cardiaques, douleurs pulmonaires) au cours des ssplanchnicotomies. Presse Medicale 45: 971-972
○ 内臓器官からの求心性インパルスは、進入した脊髄分節に過敏性焦点irritable focusを作り出し、その結果、皮膚に痛みを感じる。
○ 皮膚に痛覚過敏があるとき、しばしば紅潮や浮腫を伴う。内臓に侵害刺激が加わると、内臓にも側枝を出す皮膚を支配する痛覚ニューロンが、軸索反射によって皮膚にニューロペプチドを放出するために生じる。これに伴って、対応する脊髄内にもニューロペプチドが放出されて過敏性焦点ができる。
○ この焦点にある広作動域ニューロンに非侵害受容性インパルスが送られてくると、正常時に侵害受容性インパルスが送られてきたときのように興奮して痛覚過敏として感じられる。
(MacKenzie, J. 1893Some points bearing on the association of sensory  disorders and visceral diseases. Brain 16:321-354.)
○ 今日関連痛を説明するメカニズムとしては受け入れられないが、関連領域の痛覚過敏のメカニズムとしては受け入れられる。
[Ruch TC(1947)の収束投射説 convergence projection theory]
○ 痛覚過敏を伴わない関連痛の中枢説
○ 脊髄後角や痛覚伝導路の同一ニューロン群に内臓器官からの求心性線維と皮膚からの求心性線維が収束し、それぞれがこのニューロン群を興奮させる。
○ 内臓器官に異常がないとき、このニューロン群はもっぱら皮膚から送られてくるインパルスによって興奮し、脳はこのニューロン群の活動を皮膚の痛みと結びつけることを学習する。
○ たまたま内臓に異常を生じて、そこから痛みの原因となるインパルスが送られてきてこのニューロン群が興奮すると、脳は過去の学習に基づいて判断を下し、このニューロン群にインパルスを送る皮膚に痛みが定位される。
(Ruch, T.C. Visceral sensation and referred pain. In: Howell’s textbook of physiology, 15th edition, ed. J.F. Fulton. Saunders, Philadelphia, 1947. pp. 385-401.)
(Ruch TC. Pathophysiology of pain. In: Ruch TC, Patton HD, Woodbury JW, Towe AL, eds. Physiology and biophysics. Saunders, Philadelphia, 1961. pp. 350-368. )
(Ruch TC. Pathophysiology of pain. In: Ruch T, Patton HD, editors. Physiology and biophysics: the brain and neural function. 2nd ed. Saunders. Philadelphia. 1979. pp. 272–324. )

● Ruchは痛覚過敏を説明しなかったが、Ruchの収束投射説にMackenzieの収束側通説を取り入れると、痛覚過敏を伴った関連痛を説明できる。
● C線維の脊髄内終末から放出されるSPがNMDA受容体を活性化して、グルタミン酸によるシナプス伝達を促通すると考えられるようになったので、Mackenzieの過敏性焦点が復活したことになる。

● 脊髄視床路ニューロンが皮膚と内臓からのインパルスによって興奮する。
● 皮膚に分布しているC線維にも、内臓に分布しているC線維にも、P物質とCGRPなどのニューロペプチドが含まれている。
● 内臓器官に原因がある時、内臓からの求心性神経からニューロペプチドが放出されて、痛みを中継するニューロンの興奮性が高まっている。ここで皮膚からの触覚入力が伝えられると、反応性が高まっていたWDRニューロンは、触覚入力に対する反応が高まり、皮膚に加わった触刺激が痛覚過敏を生じさせることになる。

[上位中枢説]

○ 関連痛の中枢説
○ Cohenは、内臓からの求心性入力と皮膚からの求心性入力が、脳のニューロンに収束すると考えた。その後、脊髄のニューロンに収束が起こっていることがわかったので、脳に来て初めて収束すると主張するのは難しい。
○ Theobaldは1941年に、内臓器官あるいは皮膚からの求心性入力が脳の認知中枢の神経細胞を直接刺激すると考えた。そしてこの中枢の神経細胞が分節性に配列して相互に、また脳の他の部分よりもさらに一段階上で収束が起こると考えた。

ヘッド帯 Head’s zone, Head’s Areas 痛覚過敏帯

○ 内臓疾患時の痛覚過敏帯
○ Henry Head(P 1861〜1940, イギリスの生理学者)は、1893年の学位論文で、内臓疾患に伴う関連痛、いわゆる「ヘッド帯 Head’s zone」を調べた。 “On disturbances of sensation with especial reference to pain of visceral disease” (Brain, 16(1893), L-133).“
○ いろいろな内臓疾患に伴う皮膚の痛覚過敏帯を、関連痛を感じる場所に証明した。
○ 痛覚過敏帯が内臓からの求心性繊維が入る脊髄後根の支配領域に一致するという「デルマトームの法則」を発表した。
○ ヘッド帯には痛覚過敏だけではなく、発赤と浮腫も生じる。
○ ヘッドは感覚神経障害の性質を調べるため、1903年に自分自身の橈骨神経浅枝の切断実験もしてみた。(1908年、Brainに発表)

● Ruchの収束投射説にMackenzieの収束促通説を取り入れても、ヘッド帯の発赤や浮腫は説明できない。それらに、末梢説を加えると、痛覚過敏と発赤と浮腫も説明できる。
● 後根反射や軸索反射によって末梢に放出されるCGRPは血管拡張作用が強く、SPは、毛細血管透過性亢進作用があり、発赤や浮腫を生じさせる可能性がある。
● 逆に、皮膚が損傷された時に、内臓器官にCGRPやSPが放出される可能性がある。SPは、皮膚では血管拡張作用と毛細血管透過性亢進作用があり、血漿成分が出て行く。内臓ではSPは毛細血管透過性亢進作用はなく、保護作用を持つ可能性があり、これが灸や芥子シップなどによる対向刺激療法 counter-irritationの原理であるかもしれない。

疝痛 Colic

繰り返される間欠性の腹部痙攣痛

疝痛をきたす疾患
 ○ 腸疝痛 colic of the intestine
  急性腸炎 acute enteritis
  腸閉塞 intestinal obstruction
 ○ 胆石疝痛 biliary collic
 ○ 腎性疝痛 renal colic
 ○ 卵巣疝痛 ovarian colic
 ○ 子宮疝痛 uterine colic
 ○ 急性間欠性ポリフィリン症 intermittent acute pophuria : IAP
 ○ 鉛疝痛 lead colic

● 典型的な疝痛発作は、間欠的な波状の痛みで、休止期を伴うことが多い。痛みが次第に強まった後、次第に弱まる「クレッシェンド・デクレッシェンド」を反復する。これがはっきりしているのは、腸の通過障害である。
● 胆石症の疝痛は普通速やかに最大になり、その後あまり変わらない。疝痛は痙攣性の持続痛になりがちである。
● 腎性疝痛でも「クレッシェンド・デクレッシェンド」がみられる。
● 腎盂・尿路結石の疝痛と胆石症の疝痛は、何秒、何分のうちに最大になる。
● 膵臓炎、胆嚢炎などの痛みは1時間あるいはそれ以上かかって最大になる。
● 虫垂炎や憩室炎の痛みはさらに遅れて最大になる。
● 腎盂・尿路結石の場合、患者は発作がいつ始まったかを正確に覚えていない。何故?
 虫垂炎の患者はある時間帯に起こったとしか覚えていない。何故?
● 膵臓などの病変が後腹膜腔におよべば、仰臥位で寝ていると痛みが強まり、身体を前屈すると楽になる。
● 腹膜炎が発生すると、身体の動きが痛みを増悪させるので、患者はじっとこらえていて、咳や深呼吸を控える。
● 腎盂・尿管、胆道、腸などからの管腔臓器に通過障害がある場合は、どのような姿勢にしても、痛みが楽になる姿勢はない。脂汗を浮かべて呻吟し、七転八倒する。
● 疝痛に苦しむ患者は腹部を押さえる。

レイノー症状 Raynaud’s Phenomenon:RP

レイノー症状 Raynaud’s phenomenon
レイノー症候群 Raynaud’s syndrome
レイノー病 Raynaud’s Disease
1862年:Maurice Raynaud(P 1834/8/10〜1881/6/29, フランスの医師)が最初に報告した。
1935年:Telford EDが1935年にsympathectomyを行った。

● 寒冷や情動刺激に対して生じる四肢末端の虚血症状。手足が発作的に冷たくなり、痛みを伴うことが多い。
● レイノー症状の古典的3大徴候
 pallor:蒼白
 cyanosis:チアノーゼ
 rubor:発赤
● 血管が過剰反応を起こして攣縮し、血流が阻害されて、症状が出る。
● レイノー病の60〜90%は、15〜40歳の女性
● 交感神経系を刺激するものはすべて、中でも寒気と強い情動は動脈を収縮させる原因となるため、レイノー症状を起こすきっかけになる。
● レイノー症状は、混合性結合組織病、強皮症、関節リウマチ、アテローム動脈硬化、クリオグロブリン血症、甲状腺機能低下症、外傷、ベータ‐ブロッカー、クロニジン、片頭痛治療薬(エルゴタミンとメチセルジドなど)によって引き起こされる。
● レイノー症状がみられる患者には、動脈の収縮によって起こる別の疾患:片頭痛、異型狭心症、肺高血圧症を併発している人もいる。
● 白蝋病もレイノー症候群の一つである。

[症状]

● 指やつま先の細動脈の収縮は、ほとんどが寒気にさらされることがきっかけとなって急速に起こり、数分から数時間続く。
● 指は普通、まだら状に青白くなる。この現象は1本の指だけにみられる場合も複数にみられる場合もある。
● 指が傷つくことはないが、しびれる、刺すような痛みがある、チクチクする、熱くなるなどの症状がみられる。
● 発作が終わると、障害された部分は普通よりも赤くなったり青みを帯びたりする。手や足を温めると正常な皮膚の色と感覚が回復する。しかし、特に強皮症の患者では、レイノー現象が再発して長びくようになり、手や足の指の皮膚がツルツル光って突っ張るようになる。
● 指の先端に小さな潰瘍ができて痛むこともある。

[治療]

● 軽症のレイノー病は、頭、胴、腕、脚を寒気から守ることによってコントロールできる。
● 興奮したときに症状が現れる場合は、弱い鎮静薬やバイオフィードバック法が有効
● 禁煙:ニコチンは血管を収縮させるため、厳禁
● カルシウム拮抗薬:ニフェジピン、アムロジピン、ジルチアゼム、ベラパミルなど
● 降圧薬:ドキサゾシン、フェノキシベンザミン、プラゾシン、レセルピン、テラゾシンなど
● 他の治療法が効かない場合は、症状を軽減のため、交感神経ブロック、交感神経切除術

術後腰下肢痛

● 腰椎手術を施行したにもかかわらず、腰下肢痛、しびれなどの症例が不変、残存、あるいは再発したもの
● 椎間板ヘルニアや脊椎症、変形すべり症、分離すべり症などの退行性腰椎部疾患由来と考えられる病態に対し、手術療法を選択し、手術後の種々の障害を呈している状態。一般に、術後成績不良例と同義で、術前の症状が不変あるいは術後さらに、軽快悪化している状態だけではなく、症状は術前よりも軽快しているが日常生活や社会生活の支障が残存し患者の満足がえられていない状態。
● 腰仙部神経根症はしばしばみられる。
● 神経損傷後疼痛、椎間板原性疼痛、筋由来の疼痛、心理環境因子などが複雑に関与していることが多い。
● アメリカでは、頻度が高く、脊椎手術の適応条件、文化的背景などが発生率に関与していると思われる。

術前因子 ● 不十分な病態の把握による選択術式の誤り
術中因子 ● 神経根の検索不足
● ヘルニアの見落としあるいは取り残し
● 椎弓切除不あるいは高位の誤認
● 不十分な黄靱帯の処置後の瘢痕によるpost laminectomy stenosisの発生
術後因子 不安定性や癒着性くも膜炎の発生
治療による因子 ● 硬膜外ブロックによる癒着性くも膜炎
● 神経根ブロックによる癒着性くも膜炎
● ミエログラフィーによる癒着性くも膜炎
手術以外の因子 ● 椎間板の変性
● degenerative stenosis
● ヘルニアの再発
その他 ● 心理環境因子
● 手術前の責任制期?中部位や病態が変化している可能性
症状の推移 原因
術直後から症状に変化がない、
あるいは悪化
● 術前の高度な神経障害(しびれ、感覚鈍麻、筋力低下)の回復遅延、医原性の神経障害(術中神経損傷など)があげられる。
● また、術前の不完全な病態把握による不十分な手術が原因の場合もある。
● 例えば、椎間板ヘルニアでは脊柱管狭窄の合併症例における神経根幹の徐圧不足、脊柱管狭窄での両側神経根障害例に対する片側のみの徐圧、あるいは片側2根障害例に対する1根のみの徐圧など。
術後一時症状は軽快するも、術後2年以内に術前と同様あるいは新たな腰痛や下肢痛が出現 ● 一般には、同一部位での同一病態の再燃による症状が多い。
● 例えば、椎間板ヘルニアの再発や脊柱管狭窄症状の再燃である。
● ほかに、椎間板不安定性の出現や神経周囲の癒着や炎症、癒着性くも膜炎による症状再燃があげられる。
術後一時症状は軽快するも、術後2年以降に術前と同様あるいは新たな腰痛や下肢痛が出現 ● 同一部位での同一病態の再燃では、脊椎管狭窄の再燃や椎間不安定性の出現が多い。
● 初回手術の脊柱部位以外での障害、特に、隣接椎間での障害発生。
● 隣接椎間の障害は、初回手術時に固定術を施行された症例に多い。

● 整形外科的手術適応はなく、各種神経ブロックや脊髄電気刺激療法などに対してもあまり効果がみられず、難渋する。
● 脊髄電気刺激療法が有効とされる?
● 神経根あるいは硬膜管周囲組織の癒着や炎症があり、他の処置等でほとんど軽減傾向がみられなかった患者には、エピドラスコピーが有効

末梢神経障害 Peripheral neuropathy

● 「neuro=神経」+「pathy=障害」
● [IASP Pain Terminology]:A disturbance of function or pathological change in a nerve: in one nerve, mononeuropathy; in several nerves, mononeuropathy multiplex; if diffuse and bilateral, polyneuropathy.

[障害分布]
• 単神経炎
• 多発性単神経炎
• 多発神経炎
[障害神経の種類]
• 感覚神経障害
• 運動神経障害
• 自律神経障害
[原因]
• 代謝性ニューロパチー
• アレルギー性ニューロパチー
• 中毒性ニューロパチー
• 傍腫瘍性ニューロパチー
• 遺伝性ニューロパチー

■ 障害分布

◇単神経炎 mononeuropathy
 ・単一の末梢神経の障害
 ・手根管症候群など
◇多発性単神経炎 mononeuritis multiplex
 ・左右非対称に複数の神経が障害される。
 ・結節性動脈炎などの血管炎や慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病で生じる。
◇多発神経炎 polyneuropathy
 ・遠位性対称性多発性神経障害
 ・炎症性脱髄性多発性神経障害
 ・多発性単神経炎
 ・自律神経障害
  広範な末梢神経障害により、ほぼ左右対称性で主に四肢末端部付近に運動、感覚または両者の混在した障害を認める。

急性多発神経障害 感染症:
・ジフテリアなど
自己免疫反応:
・ギラン・バレー症候群(急性炎症性脱随性神経障害 ←→急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー:AIDP)
有毒物質:
・鉛や水銀などの重金属を含む有毒物質、一酸化炭素などによる
薬物:
・抗けいれん薬のフェニトイン
・抗生物質(クロラムフェニコール、ニトロフラントイン、スルホンアミドなど)
・鎮静薬(バルビタールやヘキソバルビタールなど)
・化学療法薬によるニューロパチー(ビンブラスチンやビンクリスチンなど)
・放射線療法によるニューロパチー
多発性骨髄腫などの癌:
・直接浸潤して神経を圧迫したり、毒性物質を産生する。
慢性多発神経障害 糖尿病性ニューロパチー
アルコールの過剰摂取
ビタミンB12欠乏症による悪性貧血
甲状腺機能低下、肝不全、腎不全
がん(肺がんなど)
ビタミンB6(ピリドキシン)の過剰摂取
遺伝性の多発神経障害 Charcot-Marie-Tooth病
Fabry病
ポルフィリン症
家族性アミロイドニューロパチーなど

■ 障害神経の種類

〇 感覚神経障害
痛み、感覚鈍麻と異常感覚を認める。
● 神経痛:神経の走行に沿った鋭い痛みが、自発的にあるいは接触や圧迫によって誘発される場合がある。電気が走るような電撃痛で間歇的であることが多い。三叉神経痛など。
● 表在性の感覚障害が主体のものでは、「手袋靴下型 glove and stocking type」の左右対称性、遠位部優位の感覚障害。正常部との境界不明瞭。
● 感覚鈍麻 Hypoesthesia:触覚・痛覚・温度覚・振動覚が同時に低下している場合と、表在感覚(触覚・痛覚・温度覚)のみ、あるいは深部感覚(振動覚・位置覚)のみが障害される場合がある。
● 異常感覚 Dysesthesia:自発的なビリビリ感やジンジン感が出現、あるいは刺激により異常感覚が誘発される場合がある。
● 感覚性運動失調:深部感覚障害が進行すると運動失調が現れることがある。特に上肢障害されると、目を閉じて手指を伸ばしたまま腕を前方に差し出すと指がばらばらに動く。また、立った状態で目を閉じるとふらふらと安定感なくなるものも多い。
 表在反射の消失:下肢などに不意な痛み刺激が加わった時、逃避反射が消失する。

〇 運動神経障害
筋力低下、筋萎縮、筋緊張低下、弛緩性麻痺が現れる。
● 一般に筋力低下・筋萎縮などの運動障害は四肢の末端部より始まり、進行すると範囲が拡がり、体幹へ及ぶことがある。
● 筋萎縮:主に手足先に筋萎縮を生じる。
● 筋線維束性攣縮:筋肉の不随意運動。不規則なリズム、早い収縮で持続時間は短い。四肢や舌によくみられ、ピクピク収縮する。
● 筋緊張の低下:弛緩性麻痺を生じる。他動的に麻痺した筋を動かす時、抵抗が低下して容易に動かすことができる状態。そのため関節可動域は大きくなりる。
● 運動麻痺:神経が支配する筋の筋力低下が生じる。多発神経障害では左右対称性で主に四肢の先端付近に筋力低下を生じることが多い。上肢では物をつまんだり握る力が弱く、垂れ手になることもあり、下肢では尖足、外反、内反になり、また垂れ足になってるときは歩行時に足を異常に高く持ち上げるように歩くようになる(鶏歩)。このような場合、つまずきやすくなる。
● 骨格系の変形:Charcot-Marie-Tooth病などの慢性に経過する多発ニューロパチーでは凹足(足底の土踏まずの高いアーチ状の変形)を呈することがしばしばある。脊柱では側彎を認める。
〇自律神経障害
自律神経症状を主徴とするニューロパチーは比較的まれ
● 瞳孔異常:自覚的には気づかないことが多いが、異常な縮瞳・散瞳や瞳孔不同などを認める。
● 心血管系の異常:起立性低血圧〔臥位から立位になったときに収縮期血圧30mmHg以上低下する〕が代表的で、その症状としては起立時のめまいや眼前暗黒感、さらに程度が強くなると失神することもある。
● 消化器症状:便秘、下痢、悪心、嘔吐、腹痛など
● 発汗障害:発汗量は個人差、年齢、季節などに左右され るが、発汗低下や無汗、あるいは逆に多汗をみることがある。
● 膀胱直腸障害:排尿に関しては頻尿・尿意切迫・尿失禁・排尿開始遅延・排尿時間延長・尿閉など様々な症状を見ることがあるが、一般的にニューロパチーでは尿意がわからず溢流性尿失禁となることが多い。
● 性機能障害:勃起障害が代表的でだが、他の様々な原因でおこることも多い。

〇 急性炎症性脱髄性多発根神経炎 acute inflammatory demyelinating polyradicuropathy:AIDP
発症から4週間以内に悪化する脱髄性のニューロパチー

〇 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎 chronic inflammatory demyelinating polyradicuropathy:CIDP
● 2ヶ月以上にわたって進行性または再燃性の左右対称性の四肢の運動・感覚性障害を示す末梢神経の疾患
● 四肢の健反射は消失 あるいは低下する。
● 症状としては手足の脱力や筋力低下が左右対称性に出現し、このため足に力が入らなく、転びやすくなったり、手の脱力のため物をうまくつかめなくなったりする。
● 感覚障害により手足のしびれ、ピリピリする痛みなどを認めることもある。
● CIDPの原因は現在もなお不明だが、自己の末梢神経に対する免疫異常がその原因ではないかと考えられている。
 ◇遠位部神経終末、神経根における脱髄
 ・遠位潜時の延長、遠位部刺激CMAPの持続時間の延長、時間的分散、振幅低下が特徴であり中間部の伝導速度低下、伝導ブロックは認められない。
 ・このパターンは典型的CIDPの一部で認められる。遠位部神経終末、神経根の病変は神経長に依存しないため近位筋、遠位筋ともに筋力低下をきたすと考えられている。
 ◇神経幹中間部の脱髄
 ・遠位刺激のCMAPは正常となる。神経幹に局所性多巣性伝導ブロックが生じる。このパターンはMADSAMやMMNで認められる。
 ◇神経全長にわたる多巣性、びまん性脱髄
 ・遠位部、中間部を含んで神経の長軸方向全長にわたって脱髄病変が分布する。
 ・遠位潜時の延長、遠位部CMAP持続時間延長、伝導速度低下、伝導ブロック、F波潜時の延長全てが認められる。典型的CIDPの一部はこのパターンをとる。

有痛性痙攣 =強直性痙攣 tonic cramp=持続性痙攣 tonic convulsion

こむらがえり=腓腹筋痙攣 muscle spasms of triceps surae

● 有痛性痙攣は、筋肉内に分布する運動神経終末部の自発性興奮に始まる。
● 筋線維の一部が強く収縮すると、収縮した筋線維と収縮しない筋線維の間にずれの力が働き、筋肉の痛覚線維を刺激して、痙攣と痛みが生じる。
● 1本の運動線維は枝分かれして多数の筋線維を支配し、運動単位を構成する。この分枝の一部が興奮すると、この興奮が他の分枝に送られて1本の運動線維が支配する筋線維群が収縮する。随意運動が加わると、興奮性をさらに高める。運動単位の痙攣が始まると、代謝産物が遊離されて、近くに分布する運動神経線維終末から興奮が発生する。このように痙攣がより多くの運動単位に巻き込むようになる。
● 夏の暑い盛り、激しい筋肉労働により大量の汗をかいたときに、食塩をとらないと、筋肉が痙攣する。
● 睡眠中の夜間痙攣は、足の他動伸展 plantar fexionでによって生じる。通常、片足などの片側で生じる。
● こむら返りのような有痛性痙攣の痛みは、痙攣が始まるとすぐに起こる。
● 就寝前のキニーネ内服や、フェニトイン、カルバマゼピン、ジアゼパム でコントロールできる?
● 有痛性痙攣は、正常人でも生じるが、頻発する原因がある。
● 運動ニューロン疾患、尿毒症、甲状腺機能症、細胞外液の減少または濃度低下、筋収縮時の機械的変形などがあると、運動神経終末部が興奮しやすい。
 1. 原因を特定できない場合
  高齢者の夜間のこむら返り
  大きな筋肉の線維束攣縮
  運動に関連した中間の痙攣
 2.下位運動ニューロンの障害
  筋萎縮性側索硬化症、陳旧性ポリオなど、
  ラジクロパシー、ニューロパチー
 3.代謝障害
  妊娠
  尿毒症
  甲状腺機能低下症
  副腎髄質機能低下症
 4.体液の急性喪失
  下痢、嘔吐
  利尿薬の使用
  透析

ギランバレー症候群 Guillain-Barré syndrome: GBS

● 自己免疫応答によるpolyneuropathy:運動神経障害優位の自己免疫性末梢神経疾患
● 病理学的には炎症所見を伴う脱髄が主体であり、急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー:AIDPとほぼ同義語であると考えられてきたが、近年電気生理学的ならびに組織学的検討により、従来のAIDPとは異なり一次的に末梢神経の軸索が障害される軸索障害型GBSの存在が知られるようになった。

1859年:Jean Baptiste Octave Landry de Thezillab(1826/10/10〜1865/10, フランスの内科医 パリで流行したコレラで死亡)がLandry麻痺(Landry-Guillain-Barre 症候群:左右対称性、上行性に進行する球麻痺)を記述した。
1864年:Louis-Stanislas Dumenil(1823〜1890, パリ、オテル・デュー病院)が急性ニューロパチー4例で病理的に末梢神経の異常を発見した
1879年:Ernst Viktor von Leyden(1832/4/20〜1910/10/5, ベルリンのシャリテ病院の神経科医)「多発性神経炎」という医学用語を使った。
1916年:Georges Charles Guillain(P 1876/3/3〜1961/7/29 フランスの神経学)、Jean-Alexandre Barré(P 1880/5/25〜1967/4/26)とAndré Strohl(P 1887/3/20〜1977/3/10 生理検査を担当した)が「細胞反応のない、髄液タンパク増加を伴った根神経炎症候群について」を発表した。第一次大戦の西部戦線攻防中にギランとバレーが勤務していた、フランス第六軍神経センターの軍人の2症例報告

● 稀な疾患であり、年間の発病率は10万人当たり1〜2人程度とされる。
● ギラン・バレー症候群には、急速に筋力が低下する急性型と筋力低下が徐々に起こる慢性型の2つのタイプがある。
● 髄鞘が傷害される脱髄型と、軸索そのものが傷害される軸索傷害型、両者が傷害される混合型に分類できる。
● 主に障害される運動神経の部位により臨床症状も異なり、外眼筋麻痺などを伴うMiller Fisher症候群、頚部・上腕部の脱力を主徴としたPCB(Pharyngeal-cervical-branchial variant of GBS)、Bickerstaff型脳幹脳炎など複数の亜型に分類される。
● 同様の自己免疫が原因で末梢神経の障害が起こる疾患にフィッシャー症候群(Fisher症候群)があり、外眼筋麻痺、失調、深部反射低下などがみられる。フィッシャー症候群は、ギラン・バレー症候群の亜型と考えられている。

脱髄型 acute inflammatory demyelinating polyneuropathy:AIDP
脱髄型は末梢神経伝導速度が低下する。
軸索型、軸索傷害型 acute motor axonal neuropathy:AMAN
軸索型では、末梢神経伝導速度が低下せず、M波の振幅低下が認められる。
混合型

[症状]

● ギラン・バレー症候群の約80%は、軽度の感染症、手術、予防接種後5日から3週間後に症状が現れ始める。
● 運動系の症状がメイン
 ○ 脱力、麻痺、腱反射の低下や消失
 ○ 初発症状は下肢の筋力低下から起こることが多い。両方の脚に突然現れた症状が、体幹部に向かい左右対称性に筋力低下や麻痺が上に向かって腕に広がっていく。
 ○ 手足の麻痺の程度は発病してから1〜2週以内にもっとひどくなる。
 ○ 半数の患者が顔面神経麻痺や外眼筋障害などにより、眼が閉じられなくなる。
 ○ 構音障害ー呂律が回らなくなる。
 ○ 嚥下障害などの球麻痺症状。
 ○ 5〜10%は、呼吸筋が非常に弱くなるため、人工呼吸器が必要になる。
● 感覚神経の障害
 ○ 3/4以上が感覚神経に傷害されて、手足の感覚鈍麻、痺れ、痛み。
 ○ ものが二重に見えたり、食事がむせたり、息苦しくなる。
● 自律神経障害を伴うことがある。
 ○ 非常に重症の場合、血圧の変動や心拍数の異常、その他の自律神経系の機能障害が起こる。

[原因]

● 自己抗体が運動神経の機能を障害して手足の筋肉が動かなくなる。
● 一般にカンピロバクター、サイトメガロウイルス、EBウイルス、マイコプラズマなどのウイルス、細菌の先行感染に引き続いて発症する。
● 感染源に対する抗体が多くの神経の軸索を取り巻いている脱髄を攻撃する自己免疫反応だと推定されている。
● 血清中の抗ガングリオシド抗体の上昇が半数程度に認められる。

[特徴]

● 男性に多い。どの年齢も発症する。

[治療]

● 単純血漿交換療法
● 免疫グロブリン大量注射
● 大原麗子さんは、1999年からギラン・バレー症候群と戦われていたが、2009年8月6日に亡くなられた。

多発性硬化症 Multiple Sclerosis:MS

● 中枢神経系の免疫性脱髄疾患
● 厚生労働省の特定疾患(神経難病、神経障害性疼痛

1828年:Robert Hooper(1773〜1835, ロンドンの内科医)がMSと思われる記載をした。「a peculiar disease of the cord and pos Varolii accompanied with atrophy of the discoloured portion」
1835年:Jean Cruveilhier(1791〜1874, パリ大学初代病理解剖学教授、胃潰瘍の疾患概念を確立)が1829〜1842年の著書「人体病理解剖学」の中でMS症例を2例挙げた。剖検では脳、脊髄のいたるところに巣状の「灰色変性」があり、病態を「脊髄の灰白変性による対麻痺」として記載した。
1849年:Friedrich Theodor von Frerichs(1819〜1885, ドイツの病理学者)がMSの臨床的特徴を解析した。
1856年:Wilheim ValentinerがFrerichsの症例について経過を追跡し、その病理所見を報告した。
1866年:Edme Félix Alfred Vulpian(P1826〜1887, フランスの病理解剖教授)がパリ病院医学会でMSの3症例を発表した。Vulpianはフランス語で初めて「sclerose en plaque(多発性硬化症)」と呼んだ。
1868年:Jean Martin Charcot(P 1825〜1893, パリ大学病理解剖学の教授)がMSについての正確な症状学的記述した。シャルコーの3徴:断続性言語、企図振戦、眼振。その他に視力障害、麻痺などがみられる。
1868年:Morris(米)が下肢脱力で発症し運動障害、感覚障害、排尿障害などの症状が出現し、病理学的に頸髄と胸髄の灰白質に病変が多発していた症例を報告した。
1871年:William Alexander Hammond(1828-1900、米国の神経科医、軍医)が、「multiple cerebro-spinal sclerosis」と命名した。
1882年:Erwin von Baelz(1849-1913、ドイツの医師、明治時代に大日本帝国に招かれたお雇い外国人)が日本で内科病論を著し、その中でMSを「脳脊髄散在硬化」と紹介した。
1935年:三浦謹之助(1864-1950, Baelzの助手、シャルコー晩年の弟子)がベルリンの学会で「多発性硬化症は日本にはきわめてまれである。」と発表した。
1935年:Rivers TとSchwentker F(ロックフェラー研究所)が実験的アレルギー性脳炎 Experimental autoimmune encephalomyelitisを作成し、それとの病理的類似が指摘され、自己免疫が病因と推定されるようになった。

● さまざまな説はあるがいまだ原因は不明である。このうち遺伝、自己免疫、ウイルスなどの感染が可能性が高いと思われている。
● 日本には約1万人の患者さんがいると推定されている。
● 発症する年齢は、若年成人といわれる20〜40代が多く、また男性に比べて女性に多く発症する。
● 多発性硬化症はミエリン、オリゴデンドロサイト、軸索を破壊する中枢神経系の炎症性疾患である。多発性硬化症では<ミエリンが免疫系により破壊される。 ● shadow plaque(ミエリン化が薄い病変で、再ミエリン化された領域と考えられている)内に多発性硬化症患者では新たなオリゴデンドロサイトが存在していない。多発性硬化症では病変部の再ミエリン化は一過的であるか全く起こらないと考えられた。Nature 566, 7745, 2019 参考 ● 多発性硬化症では中枢神経系の脱髄が神経変性につながるが、オリゴデンドログリアの不均一性が関連する可能性がある。死後脳白質領域の単一核RNA塩基配列解読では、非罹患対照者のヒト白質で、オリゴデンドログリアのサブクラスターが複数見つかった。その一部はマウスのものに類似している。MS組織には一部のサブクラスターはあまり存在しないが、多く存在するサブクラスターもある。成熟オリゴデンドロサイトサブクラスター間に見られるこのような差異は、MS病変部でのオリゴデンドロサイトの機能状態の違いを示す可能性がある。 Nature 566, 7745 ,2019 参考 ● 多発性硬化症の慢性病変にでは、オリゴデンドロサイト前駆細胞が存在しないため、あるいはそれらの細胞がオリゴデンドロサイトを産生できないため、ミエリン再形成が制限されている。 参考 ● 慢性期 MS 患者における髄鞘再生不良巣においても,髄鞘形成細胞であるオリゴデンドロサイトの前駆細胞(オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)) は数的充分に残存している。慢性期における髄鞘再生不良の背景には,OPC から髄鞘 形成能を有するオリゴデンドロサイトへの分化の途中段階に障害があると考えられるようになった。OPCからオリゴデンドロサイトへの分化を阻害する因子として,これまで脱髄軸索が発現する PSA-NCAM,アストロサイトが発現するJagged-1・LINGO-1・ヒアルロン酸,あるいは脱髄後に取り残された髄 鞘の遺残(debris)が提示されてきた。 参考 [su_spacer]

[症状]—どこに病変ができるかによって千差万別

● 運動麻痺
● 感覚障害
● 深部反射亢進
● 視力障害
● 病的反射
● 括約筋障害
● 視神経萎縮
● 失調症
● 企図振戦
● 眼筋麻痺
● 嚥下困難

[痛み]

● MSの約2/3で、経過中に疼痛を経験すると言われている。
● 経過の長い症例、高齢、障害どの思い症例で痛みの訴えが多い。
 ○ 三叉神経痛
 ○ 有痛性強直性痙攣: PTS
 ○ 四肢発作性疼痛
 ○ 頭痛
 ○ 眼球運動時痛
 ○ Lhermitte徴候
 ○ 背部痛・腰痛・股関節痛
 ○ 四肢異常感覚
◇有痛性強直性痙攣 painful tonic spasm: PTS
 MSの経過中によくみられる発作性症状の一つ。
 ○ 持続時間1分以内の短い疼痛の痙攣が四肢の一定部位に相次いで生じる発作。
 ○ 脊髄障害の回復期に出現することがある。
 ○ 自動的あるいは他動的に足を曲げたりする刺激が発作を誘発し、痛みやしびれを伴って一側あるいは両側の下肢が強直発作を示すもので、リハビリに際し四肢を他動的あるいは自動的に動かすことが刺激となって誘発されることがある。
 ○ 日に数十回も頻発することがあるが、発作は数十秒以内におさまる。
 ○ 体動やトリガーゾーンの触刺激によって容易に誘発され、異常感覚が先行することが多い。
 ○ 疼痛は四肢のある一定部位から起こり、一定方向に向かって放散し、テタニー様の強直性痙攣を伴う。
 ○ PTS発作直後には、トリガーゾーンの刺激でも発作が誘発されない不応期が見られる。
 ○ 発作中、意識が傷害されることはなく、また脳波異常も伴わない。
 ○ 脊髄の脱落巣でのインパルスの異常伝導 ephaptic transmissionによるとされる。
 ○ PTSは、アジア人種のMSで出現頻度が高い(欧米人で1〜2%、日本人で約10〜20%。)

[治療]

● 急性期には、ステロイド製剤を点滴静注する。軽度であれば経口投与する。
● 急性期が過ぎると、リハビリテーション
● 対症療法として、有痛性強直性痙攣に対しカルバマゼピンを、手足の突っ張り(痙縮)に対してはクロナゼパムなどの抗痙縮剤、排尿障害に対してはオキシブチニン塩酸塩など
● 再発防止には、インターフェロンβを皮下注射することで再発率を約30%減少させられることがわかっている。あるいは、コポリマー1、ガンマグロブリン
● フィンゴリモド:HDAC阻害剤、日本初の経口の再発予防薬
● イブジラスト:非選択的PDE3阻害薬
● 4-アミノピリジン製剤 dalfampridine:進行型の多発性硬化症の歩行障害改善に欧米で認可されている。軸索の細胞膜上のKvチャネルをブロックすることによって、シナプス伝達を増大させ、シグナル伝導を高める作用を持っている。

糖尿病 Diabetes Mellitus : DM

● 糖尿病は血管の病気
● 糖尿病の三大合併症:腎症、網膜症、神経障害
● 糖尿病に比較的多くみられる動脈硬化による病気には、脳卒中、心筋梗塞、足の壊疽がある。

糖尿病性神経障害 Diabetic neuropathy: DN
● 糖尿病の合併症の中でも最も発症頻度が高く、糖尿病発症後早期から発症し多彩な臨床像を呈す。
● 神経が損傷されて、痛覚過敏になる時期と、無痛になる時期とがある。
● 手足にヒリヒリする痛みや焼けつくような痛みが起こる、遠位性多発神経障害と呼ばれる症状が現れる。
● 痛みはしばしば夜間に悪化し、触れられたり温度が変わるといっそうひどくなる。
● 温度感覚と痛覚が失われるためにやけどをしたり、長時間の圧迫や外傷によって皮膚に潰瘍ができたりする。
● 過度の負荷を警告する体のサインである痛みを感じないために、外傷による関節損傷が起こりやすくなる。このような外傷は、シャルコー関節と呼ばれています。
distal symmetric polyneuropathy: DSPN 糖尿病性多発神経障害
● 糖尿病性ニューロパチーの中で最も高頻度にみられる基本病型
● 感覚神経、運動神経、小径線維のいずれか、あるいは複数が障害される。
● 小径線維ニューロパチーが先行し、下肢の痛み、痛覚過敏を呈し、病状の進行に伴い、温度感覚低下、触覚・痛覚低下を示す。

large fiber
neuropathy
small fiber
neuropathy
proximal motor
neuropathy
mononeuritis entrapment
neuropathy
感覚脱失 0→+++ 0→+ 0→+ 0→+ +→+++
疼痛 +➔+++ +➔+++ +➔+++ +➔+++ +➔+++
腱反射 N→↓↓↓ N→↓ ↓↓ N N
運動障害 0→+++ 0 +→+++ +→+++ +→+++

■ Large fiber neuropathy 大径線維ニューロパチー

● 運動・感覚いずれも障害される。
● 振動覚、位置覚、冷覚が障害されやすく、いわゆる靴下手袋型の感覚障害を呈する。
● 併存するAδ線維の障害による、歯痛に似た下肢骨ないし深部の鈍い齧る様な痛み、こむら返りに似た、切り裂かれるような痛みが特徴である。
● また、深部感覚障害による感覚性失調症のため、不安定歩行が生じやすい。
● 一方、筋力低下は、下肢末端の内在筋に生じやすく、早朝からつま先立ち、踝歩きが障害され、凹足、槌指、アキレス腱短縮などの変形を伴いやすい。
● 深部腱反射は減弱する。
● 下肢は血流の増加による”hot leg”を呈する。主に大径有髄線維(Aβ線維)が障害されるため、NCV検査が診断に有用である。

■ Small fiber neuropathy 小径線維ニューロパチー

● C線維の障害による表在性の灼熱痛が特徴的で、男性に多く、時にアロディニアを伴う。
● 痛みが病初期からみられる急性発症型と数年後から合併する慢性型に分けられる。
● 温度覚の障害が目立つが、晩期はむしろ痛覚鈍麻をきたす。
● 慢性型の疼痛はいわゆる頑痛で、時に麻酔薬にも耐性を示し、患者は毒物中毒に陥りやすい。
● この病型では深部腱反射はほぼ正常で、筋力低下も生じないことが特徴的である。
● 自律神経障害はほぼ発症する。
● 下肢の血流障害、発汗障害のため、”cold foot”を呈し、皮膚潰瘍、次いで起こる壊疽の危険性が高い。
● 主に小径線維が障害されるため、NCV検査では、異常は指摘されず、むしろ詳細な感覚検査、自律神経障害が診断に有用である。

■ Proximal motor neuropathy 近位筋優位運動ニューロパチー

● distal amyotrophyと同義の病態で、高齢者に多く、片側四肢近位筋の疼痛と引き続いて起こる筋力低下・筋萎縮が特徴である。
● 筋線維束収縮が観察され、両側に広がりGowers徴候が陽性となる。しばしばDSPNを併存する。
● 立ち上がりが著明に障害される反面、爪先立ち・かかと歩きは驚くほど良好である。
● この病態は、慢性炎症性脱髄性末梢神経炎 CIDPに類似し、鑑別の対象となるが、電気生理学的検索では、軸索変性を主体とする腰仙部神経叢炎であり、CIDPと区別される

■ Mononeuritis 急性単神経障害

● 高齢者に多い。
● 末梢神経の栄養血管の閉塞により起こる病態で、比較的急性に痛みが先行し、6-8週間の後に症状が軽快する。
● 障害部位は一定しないが、脳神経では動眼神経、外転神経を侵すことが多いのが特徴である。

■ Entrapment neuropathy 圧迫による麻痺

● DM患者は、軽度の差はあれ、末梢神経機能障害、循環不全を合併し、脆弱なため、外的な圧迫を浮けやすい部位では容易に絞扼性末梢神経障害をきたす。
● 上肢は、手根管、Guyon管、下肢では足根管が好発部位である。

● 糖尿病の神経障害がある場合に心筋虚血となっても、無症候性で、全く痛みがなく軽い息切れ程度の症状しか現れない場合があり、発見が遅れる場合がある。
● 糖尿病による無症候性心筋梗塞の死亡率は急性心筋梗塞の死亡率より高い。
● 糖尿病足の潰瘍は、糖尿病性神経症による防御知覚の低下と、Charcot関節による変形で生じる足底圧の異常な集中、交感神経の異常と動脈硬化による血流障害の3大原因によって起こる。
● さらに糖尿病での易感染性により感染を起こすと、足部コンパートメント症候群により内圧の上昇、欝血、浮腫が生じ、最後には阻血性壞死から脱疽となり、切断の止むを得なくなる。
● 動脈硬化が進行しやすいので、心筋梗塞や脳梗塞、下肢の動脈閉塞による脱疽などの痛みも生じる。

◇糖尿病が原因となる筋骨格系症状

・糖尿病性手関節症 diabetic cheiroarthropathy
・シャルコー関節
・糖尿病性骨溶解 diabetic osteolysis
・糖尿病性筋梗塞
・糖尿病性筋萎縮症 diabetic amyotrophy

◇糖尿病が原因となる筋骨格系症状

・癒着性関節包炎(凍結肩または五十肩)
・複合性局所疼痛症候群1型 CRPS
・手掌屈筋腱炎
・Dupuytren拘縮
・手根管症候群
・広汎性特発性骨増殖症 diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH

◇ポリオール代謝経路 polyol pathway:糖代謝の副経路
 =アルドース還元酵素(aldose reductase:AR)とソルビトール脱水素酵素(sorbitol dehydrogenese:SDH)
 ○ ARはNADPHを補酵素としてグルコースをソルビトール(ポリオールの一種)に変換する。
 ○ SDHにはNAD+を補酵素としてソルビトールをフルクトースに変換する。

 ○ 糖尿病に伴う高血糖状態では、インスリンに依存しないグルコースの取り込みを行う細胞内のグルコース濃度が上昇し、ARを介するポリオール経路の代謝が亢進する。
 ○ ARは腎臓、水晶体、網膜、末梢神経に多量に発現しているほか、副腎、生殖器など、生体内組織に広く分布し、副腎や生殖器でイソコルチコイドや17α-ヒドロキシプロゲステロンなどのステロイド代謝に関わり、神経組織においてカテコールアミンやアルデヒドの代謝分解に関わることが知られている。
 ○ 高血糖が持続する糖尿病患者では、ソルビトールが体内に蓄積しやすくなることによって末梢神経障害が起こる。

[糖尿病の治療薬]

スルフォニルウレア系薬剤 (スルフォニル尿素薬)sulfonylurea:SUR剤
● パラフェニル基、スルホニル基、ウレア結合からなるスルホニルウレア構造(S‐フェニルスルホニルウレア構造)を持つ化合物の総称である。
● β細胞膜のSUR受容体に結合してATP感受性Kチャネルを閉口し、膜を脱分極させ、膜電位依存性Ca チャネルを開口し、インスリン分泌を促進する。
⇒グリベンクラミド(オイグルコン euglucon®)—ATP感受性カリウムチャネルの阻害薬

[糖尿病性神経障害に伴う疼痛]

● 末梢神経または脊髄神経の機能的異常による痛みであるため、3ヵ月以上持続することが多く、しばしば難治性の慢性疼痛となる。
● 症状:左右対称性で両手又は両足の同じ部分に出ることなどが特徴で、また、夜間安静時に痛みが増すことが多く、睡眠障害に至ることもある。
● 2000年に日本臨床内科医会調査研究グループが行った調査によると、糖尿病患者のうち、およそ40%が神経障害を合併しており、3大合併症の中でも最も高頻度に見られる合併症

[糖尿病性末梢神経障害を改善する薬]

● アルドース還元酵素阻害薬 aldose reductase Inhibitor
◇エパルレスタット(キネダック®)
・糖尿病性末梢神経障害に伴う自覚症状(しびれ感、疼痛)、振動覚異常、心拍変動異常の改善(糖化ヘモグロビンが高値を示す場合)
・高血糖が持続する糖尿病患者ではソルビトールが体内に蓄積しやすくなることによって末梢神経障害が起こる。
・グルコースからソルビトールを生成する過程で働くアルドース還元酵素を特異的に阻害し、神経内ソルビトールの蓄積を抑制し、糖尿病性末梢神経障害を改善する。
・小野薬品工業は、世界で初めてアルドース還元酵素阻害剤としてエパルレスタットの開発に成功し、神経障害に有効な製剤として1992年から保険薬として認可を受け、広く一般に使用されている。市販開始後から6年の間にその因果関係が否定できない重篤な肝機能障害が17例報告されたため、1998年6月に厚生労働省の医薬安全局発表による「医薬品等安全性情報 No.148」で「重大な副作用」の項にその旨が記載され、注意喚起が行われている。

[痛みの治療]

● 原疾患の治療と平行して、三環系抗うつ薬(特に第2級アミン)、カルシウムチャネルα2δリガンド(ガバペンチン、プレガバリン)、SNRI(デュロキセチン)、アルドース還元酵素阻害薬、メキシレチンが推奨される。
● 麻薬性鎮痛薬は、有痛性糖尿病性ニューロパチーに対する鎮痛効果が示されているが、認容性の問題から優先されない。
● 以前の痛みの治療薬???

C fiber pain
に対する対策
● アドレナリン受容体作動薬ー交感神経遮断—クロニジン
● カプサイシン
Aδ fiber pain
に対する対策
● アドレナリン受容体作動薬—クロニジン
● 抗不整脈薬—メキシレチン、リドカイン
● 抗痙攣薬—カルバマゼピン
● カルシトニン?

神経疾患-肢端紅痛症

尖端熱性紅痛症 erythermalgia

● 四肢末梢の紅潮、皮膚温の上昇、灼熱痛を三徴とする、きわめてまれな症候群。
● Mitchell’s disease とも呼ばれている。カウザルギーを報告したSilas Weir Mitchell(P 1829/2/15〜914/1/4, 米内科医)が1878年に最初に記載し、「erythromelalgia」と命名した。
● ギリシャ語 erythros (=redness) + melos (=extremity, limb) + algos (=pain)
● SmithとAllen EAが1938年に再分類し、特に熱を特徴とするものを 「erythermalgia(尖端熱性紅痛症)」と呼んだ。
● 皮膚の細動脈が周期的に拡張し、焼けつくような痛みや熱感を起こし、足と、それより頻度は低い が手に発赤を起こす稀な症候群
● 症状はレイノー症候群と全く逆であるが、末梢の栄養血流の減少に起因して痛みが生じる点は同じである。末梢での動静脈シャントが開閉しているが、毛細血管前括約筋が狭窄しているため、総血流量が増加するが、栄養血量が減少するといった血流の不均衡が原因となると考えられている。
● Erythralgiaとerythromelalgiaは違うか、同じか?

■ 二次性の肢端紅痛症

● 骨髄増殖性疾患、高血圧、静脈不全、糖尿病、関節リウマチ、硬化性苔癬、痛風、脊髄障害、多発性硬化症の人でもみられることがある。
● 降圧薬のニフェジピンやパーキンソン病の治療薬であるブロモクリプチンなどの薬の使用に関連していることもある。
● 先端紅痛症は原因となっている病気が診断される2〜3年前に発症する。
 ドクササコによる食中毒

■ 原発性肢端紅痛症 primary erythermalgia

■ 家族性肢端紅痛症 Familial erythermalgia

● 児童と青春期に多く発病する常染色体優性遺伝病を呈する肢端紅痛症
● ナトリウムチャネルの閾値を低下させるNav1.7をコードする遺伝子SCN9A(sodium channel, voltage-gated, type IX, alpha subunit)の変異が、原発性肢端紅痛症や、直腸・眼球・顎下腺に突発的な痛みが生じる発作性激痛症(Paroxysmal extreme pain disorder: PEPD)に関与

筋骨格系の痛み

—体性痛-深部痛

■運動器 musculoskeletal system

● 身体を構成し、支え、身体運動を可能にする器官
● 身体機能を担う筋・骨格・神経系の総称
● ヒトでは身体の支柱である全身の骨格と関節(骨格系)と、それらに結合する骨格筋、腱および靭帯(筋系)が運動器系に所属する。
● 自分の意志で動かせる組織であり、立つ、歩く、投げるといった身体活動を担う組織であり、日常の生活を送る上で欠くことのできないもの。
● 運動器はそれぞれが連携して働いており、どのひとつが悪くても身体はうまく動かない。また複数の運動器が同時に障害を受けることもある。
● 高齢者では運動器の複数の病態が複合して移動能力を低下させる。
 

■「世界筋骨格痛年」(The Global Year Against Musculoskeletal Pain)

IASPのキャンペーン 2009年10月19日〜2010年10月18日
→Fact Sheets  運動器痛/ 筋痛の基礎/ 運動器痛の評価/ 運動器の疫学/ 運動器のマネージメントにおけるインターディシプリナリーアプローチ/ エビデンスに基づいた慢性の運動器痛の生物心理社会的治療/ 運動器痛に対する運動器療法/ 恐怖回避と運動器痛/ 急性の運動器痛/ スポーツと運動と運動における障害と痛み/ 上腕骨顆部痛/ 線維筋痛症/ 筋筋膜性痛/ 顎関節症の痛み/ 機能障害/ 関節痛/ 頚部痛/ Whiplash/ Osteoarthritis-Related Pain/ Osteoporosis/ Rheumatoid Arthritis/Shoulder Pain
 

■『Bone and Joint Decade 2000-2010』= 『運動器の10年』

● Lars Lidgren(スウェーデンルンドLund大学の整形外科医)は、運動器疾患・障害の克服に向けた啓発と研究推進による治療法の開発と予防の重要性を提唱した。
● 1999年に国連のアナン事務総長が支持を表明し、WHOは2000〜2010年を「TheBone and Joint Decade」と定め、各国が主体的にその予防・治療研究と啓発に取り組むことを求めた。
● 現在、アメリカ・ヨーロッパを含む世界85カ国が参加しており、日本でも2000年から活動を開始し、日本整形外科学会を始め、多くの学会がこの運動に賛同している。

● 運動器の病気や障害に悩み、苦しむ人達の頻度が極めて高く、ADLやQOLの低下を来たし、さらに生命予後にも多大な影響を及ぼす。一方、社会に与える負担が大きいにも拘らず、これまで社会的に重視されていない。
● 運動器障害による病態に関する研究を推進し、個人の自立と尊厳という視点に立って運動器の重要性を評価し、バリアフリーを目指す生活環境の確立する。
● ロコモティブシンドローム locomotive syndrome:ロコモ
● 運動器の障害のために要介護となる危険の高い状態
● 「人間は運動器に支えられて生きている。運動器の健康には、医学的評価と対策が重要であるということを日々意識してほしい」というメッセージが込められている。
 

■ロコモティブシンドロームの三大要因

● 脊柱管狭窄による脊髄、馬尾、神経根の障害
● 変形性関節症、関節炎による下肢の関節障害
● 骨粗鬆症、骨粗鬆症性骨折
 

■骨と関節の日:10月8日

『ホネ』の『ホ』は十と八にわけることができ、10月10日の体育の日にも近いので、10月8日に定められた。