● 線維輪の破綻により、椎間板内の髄核の一部が脊柱内に隆起または突出し、神経根や硬膜管を圧迫し、腰痛や根性痛を生じる。
● 無症候性の椎間板ヘルニアもある。
● 単椎間障害が多い。腰椎での好発部位:L4-5>L5-S>L3-4
● 好発年齢は20〜30代の男性であり、スポーツや重量物挙上などの負荷が契機となって急性に発症する場合がある。
● 腰痛があっても、明確な病変が見つからない場合が多いが、はっきりした病変が認められる青年期、壮年期の腰痛の中では、椎間板ヘルニアは重要である。
● 椎間板ヘルニアがあっても、痛みがある場合とない場合がある。
● 椎間板ヘルニアが確認されても、痛みの原因はヘルニアでない場合もある。
● 正常な脊髄神経は圧迫されても、痛みを生じさせない。
● 伸展、圧迫が生じている神経根に、炎症が生じると痛みが誘発される場合がある。
Norbert Boos [Spine-2000;25:1484-1492, 1995Pubmed]/ Volvo Award ● 痛みのある椎間板ヘルニアの患者群と腰痛のない群(46名ずつ)において、それぞれの職業内容・年齢・性差・生活習慣などの条件を同一にしたうえで、MRIを比較した。 ● 腰痛のない群の76%にヘルニアが見つかり、85%に椎間板の変性が認められた。 ● 発見された椎間板ヘルニアのタイプは、腰痛のある人と、腰痛のない健康な人との間で、差がなかった。 ● 神経根圧迫の存在はヘルニア患者群のほうが高い(83%:22%)。 ● 腰痛に対する危険因子として、心理社会的な側面が見られた。姿勢(仕事上のストレス、仕事への集中度、仕事への満足度、失職など)や精神社会学的な要素(不安、抑うつ、自制心、結婚生活など)といった心理的側面で有意な相違があった。 ● MRIでは診断できない。画像所見が症状と相関しない。 |
[腰椎椎間板ヘルニアの症状]
● 後方あるいは後側方に突・脱出したヘルニアは、神経根や馬尾(および後縦靱帯を支配する椎骨洞神経と交感神経交通枝)を圧迫する。
● 神経根の圧迫は腰痛ではなくむしろ殿部や下肢の坐骨神経痛(放散痛)を引き起こす。
● 腰椎では脊髄がL1/2で終わりそれ以下は馬尾となっている。
● 多くは、L2〜S1の領域の神経根症状である。
● 腰部椎間板の大きな正中ヘルニアによって馬尾全体が圧迫されると、馬尾症状も現れる(馬尾症候群)。
神経根症状 radiculopathy |
● 後側方ヘルニアでは神経根症状を来たし、下肢痛を起こす。 ● デルマトームに一致した領域の感覚障害 ● 神経根の圧迫は腰痛ではなく、むしろ殿部や下肢の神経痛を起こす。 ● 痛みは、急性あるいは慢性反復性の放散痛が特徴となる。 ● 症状が強くなれば、体動痛や夜間痛が起こる。 ● 運動障害と深部反射低下が見られる場合もある。 |
椎間板性疼痛 discogenic pain |
● 腰痛:腰部から臀部にかけての境界が漫然としない深部重圧痛 ● 数分から数十分座ったり、立っていたりすると、痛みが強くなり、横になると和らぐ。 ● 座位など椎間板内圧を増す姿勢で増強する。 ● 急性あるいは慢性に増悪傾向を持つ腰痛で、自然寛解と増悪を繰り返す。 ● 安静で軽快するが、運動、労働で悪化する。 ● 咳、くしゃみ、排泄時の力みにより腰痛、下肢痛などの自覚症状が再現する。 ● 椎間板造影を行い、薬液を注入したときに、普段感じている腰痛が強く再現するかどうかで、椎間板性腰痛かどうかを診断する。 |
馬尾症状 cauda equina symptom |
● 馬尾症候群による馬尾症状 ● 脱力 ● 腱反射異常 ● 感覚障害(足底や会陰部) ● 膀胱直腸障害 |
椎間 | 神経痛 | 愁訴部位 |
L1/L2 | 大腿神経痛 脊髄円錐症候群 |
鼡直径部・大腿前面 会陰部 |
L2/L3 | 大腿神経痛 | 大腿前面・膝 |
L3/L4 | 大腿神経痛 | 大腿前外側・膝・下腿 |
L4/L5 | 坐骨神経痛 | 下腿後外側・足趾 |
L5/S1 | 坐骨神経痛 | 下腿後外側・足趾 |
障害神経根 | 運動障害/深部腱反射減弱 |
L4 |
● 大腿四頭筋の筋力低下による膝関節伸展筋力低下 ● 膝蓋腱反射の低下 |
L5 |
● 長拇指伸筋の筋力低下による第1指の背屈力低下 ● 深部腱反射の異常はない。 |
S1 |
● 長拇指屈筋の筋力低下が生じる。 ● アキレス腱反射の低下 |
[発生機序]
腰椎椎間板ヘルニアに特有なメカニズム
● 神経根症状は腰痛ではなく、下肢症状である。
● 脊柱と脊髄の長さは異なり、脊髄は円錐としてL1/2腰椎レベルで終わる。
● 従って下位の脊髄神経ほど神経根は長くなり、第2腰椎以下の神経根は馬尾を形成し、脊柱管内を下降する。
● 末梢神経線維束に比べて神経根では神経内膜の結合組織細胞が少なく、膠原線維も粗となっている。
● これらの形態的理由から、神経根は機械的な外力に弱く、浮腫を起こしやすい。
● 腰、背筋筋は、反射性に堅く緊張し、脊柱の前後屈、回旋制限と不とう性を生じる。
● スポーツなどの力学的負荷がきっかけとなって発症する場合がある。
● 家族集積性、精神社会性的側面、ストレスが関与している。
[腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準]
1. 腰・下肢痛を有する(主に片側、ないしは片側優位)
2. 安静時にも症状を有する。
3. SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
4. MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄所見を合併していない。
5. 症状と画像所見とが一致する。