脊椎関連の痛み-腰椎すべり症 Spondylolisthesis

● 上位脊椎が、隣接する下位椎上を前方または後方に転位した状態
● 頻度は前方すべり症のほうが多い。
● 椎間板を中心とした脊椎運動単位の退行変性により、支持性が失われてすべりが生じる。
● 変性すべり症は、椎間関節の垂直化したL4/L5に好発
● 分離すべり症は、分離が好発するL5に多い

先天性:腰仙椎後方要素の先天異常によるもの。
1.  形成不全性:椎体関節突起の低形成によるもの。二分脊椎をしばしば伴う。
2.  その他の先天奇形によるもの。
分離:本質的異常の原因が椎間関節突起間部(pars)の分離にあるもの
変性(性):椎間不安定性を基盤として、椎間板や椎間関節の変性が加わり発生したもの
外傷性:pars以外の外傷性骨折が原因で発生したもの
病的:全身性疾患(関節リウマチなど)または局所性骨疾患によるもの
医原的:手術後の骨欠損や疲労骨折、椎間板安定性の喪失などによるもの

■ 分離すべり症

● 分離症に伴われたすべり症:椎間関節突起間部(pars)が分離し、分離椎体がすべった状態
● 腰痛や神経根症状を起こす。

[成因]

● 分離は、若年期の疲労骨折によると考えられている。

■ 変性すべり症

● 分離症のないすべり症:脊椎の退行変性により、椎弓の分離を伴わずに、すべる状態
● 40歳以上の女性に多い。
● 腰痛や神経根症状、馬尾症状を起こす。

[成因]

● 病態の本質は、脊椎構成要素による脊柱管狭窄である。

■ 分離すべり症の症状と成因

神経根症状
若年者の腰痛・下肢痛
● 若年者の分離すべり症は、軽度で、腰痛や臀部痛が主症状となる。
● 腰痛は通常、運動や労働によって増強し、中止すると軽快する。
● 分離部の骨性支持が欠損していることによる脊椎運動単位の不安定性が原因で、諸靱帯への異常ストレスが生じたり、局所の筋痙攣が惹起されるために起こる。
● 下肢症状の発現はまれであるが、時に、低形成性の要素ももった20歳未満の分離すべり症では、下肢への放散痛が愁訴となることがある(神経根刺激症状)。
● 病理的には分離部の神経終末が証明されており、分離部の動き自体がこの神経終末を刺激して疼痛を引き起こすことも考えられる。
● 若年者でも分離すべり高位の椎間板変性がすでに発現しており、それに伴った椎間不安定性が腰痛の原因となっていることもある。
中高年者の腰痛・下肢痛
● 中高年でも下肢痛やしびれとともに腰痛が存在することが多い。
● 中高年の場合には、分離部および隣接の椎間板や椎間関節に存在する変性変化が主病態である。
● 椎間板変性による腰痛が主であれば、腰椎前屈位で疼痛が増強し、椎間関節の変形性変化が原因の腰痛では腰椎の後屈によって腰痛が増悪する場合が多い。
● 成人、特に中年以降では下肢症状の発現頻度が高くなる。
● 下肢症状は、疼痛やしびれであり、主に腰部神経根の圧迫によって生じる。
● 神経圧迫の機序は、分離部中枢端のbony ragged edge や分離部に増殖した繊維性軟骨塊 fibrocartilaginous mass、およびすべりによる椎間孔の変形による。
● 腰部後屈によって椎間孔の狭窄は著明となるため、典型的な神経性間欠性跛行を呈することもある。
● 分離すべり症において障害される神経根は、一般にすべり椎と同一高位の神経根である。
● 静的因子のほか、神経障害の発現には、椎間不安定性による動的因子も大きく関与している。
● 分離すべり症では、狭部(椎間関節突起間部)での骨連続がないので、すべり椎と下位椎との間の椎間関節は椎間安定要素として機能していない。
馬尾症状
若年者の馬尾症状
● 先天性すべり症での高度なすべり以外での発現はまれである。
中高年者の馬尾症状
● 高度すべりの状態になると、すべり下位椎間板の膨隆やすべり下位椎の椎体後上縁によって硬膜管が前方から圧迫され、また、分離部の骨棘やfibrocartilagenous massの形成も著しくなり、これらによる後側方からの硬膜管圧迫が発生する。その結果、すべり椎と同一高位の神経根症状だけでなく、下位神経障害や馬尾症状(足底や会陰部のしびれ、膀胱直腸障害)も発現する。
● 一般的には分離すべり症で馬尾症状を呈することはまれである。

■ 変性すべり症の症状

神経根症状 ● 腰痛、下肢症状(下肢の痛みやしびれ)
● 間欠跛行
馬尾症状 ● 下肢症状(両下肢のしびれ)
● 膀胱直腸障害
● 間欠跛行

■変性すべり症の病期

初期 ● 椎間板変性による椎間不安定性の結果生じた軽度すべりの時期。
● 主に動的因子が中心である。椎間関節由来の腰痛を愁訴とし、労作後などに下肢痛、しびれが出現する。
中期 ● すべりが進行、すべり下位上縁と椎間板隆起の前方要素に、すべり椎の下関節隆起の前方変位による後方圧迫因子が加わった時期。
● 脊柱管狭窄に特徴的な間欠性跛行、下肢痛などが出現するが、安静時には症状には消失することが多い。
後期 ● すべりのさらなる進行がみられ、椎間板高は減少して動的因子も減少し、後方要素の関与が大きい時期。
● しばしば外側陥凹 lateral recess の狭小化による神経根性痛(下肢痛)を生じる。
● 馬尾症状を呈する場合もある。
末期 ● 後方要素主体の高度な狭窄かを生じる一方、動的因子の関与はさらに減少ないし消失する時期。
● 安静時にも神経症状があり、多椎間狭窄症になることも少なくない。
● 馬尾症状を呈する場合が増える。