● 腰部の脊柱管が狭窄し、その内部にある馬尾(神経)や神経根に圧迫障害が生じる疾患。絞扼性ニューロパシー
● 腰部脊柱管の狭窄によって、下肢の神経痛(坐骨神経痛)やしびれ、麻痺(脱力)が発生する。
● 神経性間歇跛行を引き起こす。
● 高齢者では、多椎間で狭窄を起こしていることがあるため、症状との関連がはっきりしないことがある。
● 慢性的な圧迫により硬膜外腔には、ほとんどの場合癒着が存在する。
● 馬尾が高度に圧迫を受けると、時に両下肢のしびれの他に、股間(会陰部)のほてり、残尿感、便秘などの膀胱直腸障害が発生する。
● 好発年齢:高齢者に多いが、先天的に脊柱管が狭い人では、比較的若年の30歳〜40歳代で発症することもある。日本人の40歳代〜70歳代では5.7%、70歳代では10%以上が腰部脊柱管狭窄症であるとの報告がある。
● 脊髄は第1〜第2腰椎までしかない。 ● 馬尾(神経):第2腰椎より下の脊柱内では、脊髄神経が1本1本馬のしっぽのように分かれて、束になっている。 |
[症状]
● 腰椎の脊柱管周辺の骨および軟部組織の肥厚によって、脊柱管が狭小化するため、神経根や馬尾(神経)が圧迫されて、腰痛や下肢の痛み、しびれを引き起こす。
● 腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状は、神経性間歇跛行 neurogenic intermittent claudicationである。
歩いていると足先から上行するしびれや臀部から下行する痛みなどが出現して歩行困難となる。腰を前に曲げたり、しゃがんだり、しばらく休むと再び歩けるようになる。
歩行により馬尾や神経根の圧迫・絞扼が繰り返され、神経組織の血流障害が起きるため症状が生じると考えられている。
閉塞性動脈硬化症などで見られる間歇跛行との鑑別が必要。腰部脊柱管狭窄症では前屈で症状が軽快し、足背動脈の拍動に問題がないという点が鑑別に有効である。
(腰椎椎間板ヘルニアは、前屈で痛みが悪化する。)
障害される神経組織によって出現する症状は異なる。 ● 神経根型:単一神経根症状。下肢の痛みが主 ● 馬尾型:多根性症状。両下肢、足底、会陰部の異常感覚が主 ● 混合型:神経根型と馬尾型の合併症状 |
● 後方からの神経根圧迫が主であり、椎間板ヘルニア(神経根前方から神経根を圧迫)が本態ではないので、ラセグテストは陽性とならないことが多い。
● 馬尾型や混合型では、病気が進行すると膀胱や直腸の機能が損なわれ、残尿感などの排尿障害や排便障害を伴う。
[原因]
● 加齢による退行変性—脊椎の老化などにより、椎間板、椎間関節、椎体が変性・変形し、靭帯は厚みを増すために脊柱管が狭められる。
● 後縦靭帯骨化症や黄色靭帯骨化症も脊柱管狭窄の要因になる。
● 脊椎すべり症も脊柱管狭窄をきたす代表的な疾患である。
[治療]
● 治療—本症は加齢を背景とした変性疾患であるため、原則として保存的に治療される。
● 薬物療法
○ カルシトニン製剤
○ 消炎鎮痛薬
○ 血管拡張薬—プロスタグランジン製剤、シロスタゾール
○ 神経障害性疼痛治療薬—プレガバリン、ミロガバリン
● 保存療法
○ 装具—軟性コルセット・ウィリアムス装具を装着
腰椎前穹を少なくさせることが目的。コルセットを装着することで、前かがみの状態にし、神経への圧迫を軽減させる。
○ 体操療法–腹筋・背筋などの強化
○ 神経ブロックの適応
—仙骨硬膜外ブロック、神経根ブロック、交感神経節ブロック
● 手術を希望しない、または全身合併症で手術が困難な場合 ● 適応症状は腰痛、下肢痛、下肢の痺れ、異常知覚、間欠跛行 |
● 手術療法
保存療法でも症状の改善が得られない場合、馬尾型や混合型で馬尾症状を伴っている場合、筋力低下が増悪している場合に手術が行われる。
みのもんたさんは、脊柱管狭窄症のため、紅白出場後の2006年元旦に入院し、4日に手術を受け、13日に無事退院し、16日のレギュラー番組復帰! 第4腰椎と第5腰椎の間を削った。「痛みが消しゴムで消された」「痛みは消え、強靭な腰を手に入れた。」と語っていた。
内側椎間関節切除術 medial facaetectomy 開窓術 fenestration |
● 関節を形成している下関節突起と上関節突起の一部を削ることで、神経圧迫を解除。 ● 第一選択 ● 椎弓切除術よりも低侵襲:術後の脊椎変形の進行を最小限にする方法。 ● 隣接する椎弓の一部を切除して、窓をあけるようにする。椎弓を取りきらない。 ● 内視鏡あるいは手術用顕微鏡視下に神経の圧迫をとる方法も行われる。 |
椎弓切除術 laminectomy | ● 椎弓を全て切除する除圧術である。 ● 関節突起まで切除する広範囲椎弓切除術が行われた時は椎間固定術が併用される。 |
後側方固定術 postero-lateral fusion(PLF) | ● 不安定性を伴う腰椎に対して行う固定術。 ● 骨移植は、椎間関節外側で横突起を橋渡しするように行われる。 ● 比較的不安定性の程度の軽い場合に適用される。 ● ペディクラースクリューシステムという金属を用いて腰椎を初期固定する。この金属を使うことで術後のリハビリが早期に可能になる。この金属は一般的にはそのまま入れっぱなしで、後で抜く必要がない。 |
後方侵入椎体間固定術 posterior lumbar interbody fusion(PLIF) | ● 不安定性を伴う腰椎に対して行う固定術。 ● 骨移植は、後方から椎間板を郭清して、椎体間に行う。自家骨を入れた人工のケージを椎体間に挿入することが多い。 ● 不安定性の程度が強い場合に適用される。 ● ペディクラースクリューシステムという金属を用いて腰椎を初期固定する。 |
側方侵入椎体間固定術 lateral interbody fusion(LIF) | ● 不安定性を伴う腰椎に対して行う固定術。 ● 骨移植は、後腹膜アプローチで椎体に達し、側方から椎間板を郭清して、椎体間に行う。自家骨を入れた人工のケージを椎体間に挿入することが多い。 ● 不安定性の程度が強い場合に適用される。 ● 変形に対する矯正力にも優れている。 ● 経皮的ペディクラースクリューシステムを用いて腰椎を初期固定することが増えてきている。 |
硬膜外腔の癒着剥離の目的で行われる。疼痛の軽減に加え間欠跛行も改善することがある。