脊椎関連の痛み-椎間板ヘルニア Disc Herniation

1857年:Rudolf Virchow(P 1821/10/13~1902/9/5, ドイツの病理学者・人類学者)が著書に椎間板ヘルニア1例の病理報告をした(ただしVirchowはこれを軟骨腫と考えていた)。
1911年:Joel Ernest Goldthwait(1867~1961, ボストンの内科医)は突出した椎間板が腰痛、坐骨神経痛、下肢麻痺などを起こすと提唱した 。
1927年:Christian Georg Schmorl(1861/5/2~1932/8/14, ドイツの病理学者)が突出した椎間板は腫瘍でなく変性であることを確認した。
1933年:William Jason Mixter(P 1880~1958, マサチューセッツ総合病院の神経外科医)とJoseph S Bar(整形外科医)が1933年に、19例の臨床病理所見から、椎間板ヘルニアは変性した椎間板の突出であり、髄節に応じた神経症状を起こすことを確立した。Mixterらは硬膜を切開して手術した。
1937年:J Grafton Love(P 1903~1987, メイヨークリニック)らが硬膜外アプローチによる椎間板ヘルニアの髄核摘出を始めた(J Bone & Joint Surg)。

● ヘルニア:椎間板内部の弾力性を失った髄核が、線維輪の断裂を通って脱出
椎間板は、髄核、線維輪、軟骨終板で構成されているので、ヘルニアとして脱出する組織は髄核に限らず、線維輪もしくは軟骨終板を伴うことがある。 ←→頸部椎間板ヘルニアは発生様式が異なる。
● 飛び出した髄核による神経の圧迫によって、神経痛などの種々の症状が出る。
● 無症候性の椎間板ヘルニアもある。
● 好発部位: 頚椎ではC5-6、腰椎ではL4-L5
● 椎間板ヘルニアがあっても、痛みがある場合とない場合がある。
● 椎間板ヘルニアが確認されても、痛みの原因はヘルニアでない場合もある。
● 正常な脊髄神経は圧迫されても、痛みを生じさせない。
● 伸展、圧迫が生じている神経根に、炎症が生じると痛みが誘発される場合がある。

[線維輪の状態による分類]

protrusioned
突出型
線維輪の一部が温存され、髄核組織は線維輪の最外層を超えない。 髄核は自然吸収されない。
extrusioned
脱出型
線維輪の全層が断裂し、髄核組織が連続性を保ちつつ脊柱管内へ出ている。
subligamentous extrusioned:後縦靱帯で覆われるもの
   transligamentous extrusioned:後縦靱帯を穿破するもの 髄核は自然吸収される。
sequestration
分離型
脊柱管内に脱出した髄核組織が分離変となっている。
● 成人ヘルニアでは、髄核が主で、線維輪の一部とともに脱出するものが多い。
● 若年者ヘルニアでは、椎間板の変性が軽微のため、軟骨終板の断裂を契機に発生することが多く、環状骨端 ring apophusis の解離を伴った突出が多い。
● MRIの普及により、脱出した髄核は自然に吸収されることがわかった。

[ヘルニアの症状]

● 椎間板ヘルニアは、年齢とともに(20歳を過ぎ)次第に衰えてくる。
● 働き盛りの20歳~30歳代の軽作業(事務、運転、セールス、看護、家事など)の人に好発する。
● 椎間板の変性が進行して椎間板内圧が低下した60歳代では少なくなる。

神経根症状
radiculopathy
● 後方あるいは後側方に突・脱出したヘルニアは、神経根や馬尾、および神経根を圧迫し、神経根炎、神経根周囲炎が生じる。
● デルマトームに一致した領域の障害。
脊髄症状
myelopathy
● 頚椎の後方正中ヘルニアでは上位運動ニューロン障害による痙性麻痺を呈する。
● 腱反射亢進
● 病的反射の出現
● 腰椎の後方正中ヘルニアでは、馬尾症状をていする。
椎間板性疼痛 ● 椎間板内圧を増す姿勢で増強する。
● 椎間板造影を行い、薬液を注入したときに、普段感じている腰痛が強く再現する。

[ヘルニアの発生機序]

● 機械的要因や化学的要因によって生じる。

 機械的要因:
 ○ 加齢(20歳~30歳代)とともに椎間板の弾力性は失われていくため、腰への負担が大きいと、それをきっかけに線維輪に亀裂(=線維輪断裂)が生じる。
 ○ 椎骨洞神経が分布している線維輪外層部は、腰痛の最好発組織部位*であるので、線維輪に亀裂が入る際に激しい痛みが生じる。
 ○ しかし、1週間ほど安静にすれば、患部のむくみや腫れ、出血など神経の炎症が治まるので、治療しなくても、痛みがおさまる。

 ○ ヘルニアは一般に、絞扼性神経障害には分類されていないが、神経根症状を引き起こす。
 ○ ヘルニアが正常な神経根を圧迫しても、一過性に電気が走るような痛みが生じるだけである。
 ○ 神経根が髄核によって圧迫されると、牽引されたり、腫張や炎症が生じる。
 ○ 髄核が飛び出していなくても、線維輪の亀裂によって生じる炎症後の修復によってできた瘢痕組織も神経根を圧迫する。
 ○ 髄核や瘢痕組織が血管を圧迫すると、神経根における血流の低下が生じ、さらに炎症が強まる。
 ○ これらの炎症によって生じた「神経根炎」の状態になると、神経は過敏になり、神経痛を引き起こす。

 化学的要因:
 ○ 髄核は、TNFαを遊離させる。Robert Myersらは、動物モデルでヘルニアを形成した髄核を神経根へ移植すると、痛み行動の発現させることを報告した。

 ○ 圧迫に伴う神経周囲の炎症、圧迫部周囲に遊離されたケミカルメディエーターなどによって痛みが誘発される。
 ○ 神経圧迫病態下では、化学的な変化として乳酸の濃度の上昇、pHの低下の他、PLA2の産生、炎症細胞の浸潤、インターロイキンなどのサイトカインの産生増加、NO産生が起こっている。
 ○ 支配神経終末から放出される伝達物質による神経性炎症も、痛みに関与する。
 ○ 椎間板周囲、椎間関節周囲、腰・背筋における炎症は、それぞれの部位に分布する侵害受容器を興奮させる。
 ○ 腰、背筋筋は、反射性に堅く緊張し、脊髄の前後屈、回旋制限と不橈性を生じる。
 ○ 前屈の制限は、最大前屈時に指をなるべく床に近づけ多彩の指と床との距離 (fomger floor distance: FED) で客観的に評価される。

椎間板周囲 椎骨洞神経
椎間関節周囲 脊髄神経後枝内側枝
腰・背筋 脊髄神経後枝外側枝

● がんの骨転移によって椎間板ヘルニアが発生する。

[ヘルニア治療]

*安静
● 臥床
● 短期間のコルセット
薬物療法
● NSAIDs
● ステロイド
● 筋弛緩剤
● 貼付剤
● 酵素注入療法
日常の改善
● 体重管理
● 保温
理学療法
● 牽引療法
● 水泳、体操
● ストレッチ、マッサージ
神経ブロック療法(ステロイド剤を含む)
IDET/
椎間板内加圧注射法/
経皮的高周波椎間板減圧術
経皮的椎間板髄核摘出術
手術療法
*急性期以外は、安静の排除