● 2002年の第46回日本リウマチ学会総会で、正式名称が「関節リウマチ」と改められ、慢性を冠しないことになった。)
● 関節リウマチは、多発性関節炎を主体とする進行性の慢性全身性自己免疫疾患である。
● 関節滑膜に炎症が生じ、次第に滑膜から軟骨、骨へと波及し、やがて関節自体を破壊、関節変形をもたらす。
● 関節の腫れやこわばりにより、日常生活に困難をきたす。
● 全身の多数の関節に、ほぼ左右対称に発生する関節炎
● 発症後、最初の1年の治療がその後を左右するとされる。
● Hippocrates(P BC460〜BC377、「古代ギリシアの医聖」)が使っていた「rheuma(流れ)」という用語は、関節をおかす疾患の総称として使わっていた。当時の人々は脳から体液が下のほうに流れ、うっ滞すると腫脹や発赤をきたすと考えられており、体の中の悪い液体が疾患を引き起こしているという考えに基づいたものであると言われている。 しかしHippocrates文献には、関節疾患の記載があるが、当時のヨーロッパには「関節リウマチ」はなく、コロンブス以後にヨーロッパにもたらされたとされている。 ↑↓ ● 関節リウマチは、もともとアメリカ大陸の風土病で、コロンブスのアメリカ大陸発見後、ヨーロッパ大陸に拡がった可能性がある。 ● 今日でも関節リウマチの有病率が世界一高いのはアルゼンチンであり、人口の約4%。 ● ルーベンス、ルノワールやモーツァルトの妻コンスタンツェも関節リウマチを患っていた。 ● Felix Hoffmann(Pドイツバイエル社)の父も重篤な関節リウマチを患っていたので、親孝行のHoffmannはアスピリンを開発した。 |
● 関節リウマチの患者数は人口の0.8%の頻度で認められ、日本では約70〜80万人とみられ、女性に多い。
● 20-40歳代の女性に多いが,最近では65歳以上の高齢者の発症も多くなって来ている。
2009ACR/EULAR criteria
米国リウマチ学会(ACR)とヨーロッパリウマチ学会(EULAR)とが共同で、1987年に策定した関節リウマチ(RA)の鑑別基準を22年ぶりに改定した。 |
ACRの関節リウマチの分類のための基準 1987年改訂版 ACR standard of classification in RA :1987ACR criteria ● ACRが1987年に策定したRAの分類/診断基準 ● テキサス大学ヒューストン健康科学センター内科教授のFrank C Arnettらの研究をエビデンスとして作られた。(Arnett FC, et al: The American Rheumatism Association 1987 revised criteria for the classification of rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 31(3):315-324,1988.) ● 朝のこわばりや3つ以上の腫脹関節、手関節の腫脹など、7項目の内4項目以上を充たした場合、RAと診断する。 1. morning stiffness:lasting at least 1 hour 2. Arthtitis of 3 or more joint areas (同時に、3領域以上の関節炎、左右の、PIP、MCP、手、肘、膝、足、MTPの計14) 3. Arthritiis of hand joints (手、PIP、MCPの少なくとも1領域以上の関節炎) 4. Symmetric arthritis (対称性の関節炎:2で定義した領域において) 5. Rheumatoid nodules (リウマトイド結節) 6. Serum rheumatoid factor (RF陽性) 7. Radiographic changes (X線上、手/指関節の骨びらん、近傍の脱石灰化) |
活動性を評価する指標—DAS;disease activity score ● 3.7より大きいときHigh disease activity(活動性が高い)、2.4未満でlow disease activity(活動性が低い)、1.6未満でremission(寛解) ● 血沈を用いる式 DAS(ESR) = 0.54×√(1)+0.065×√(2)+0.33×LN(4)+0.0072×(3) ● CRPを用いる式 DAS(CRP) = 0.54×√(1)+0.065×√(2)+0.33×LN(4’)+0.0072×(3) |
関節病変 | |
中・大関節に1つ以上の腫脹または疼痛関節あり | 0点 |
中・大関節に2〜10個の腫脹または疼痛関節あり | 1点 |
小関節に1〜3個の腫脹または疼痛関節あり | 2点 |
少なくとも1つ以上の小関節領域に10個を越える腫脹または疼痛関節あり | 5点 |
血清学的因子 | |
RF, ACPAともに陰性 | 0点 |
RF, ACPA の少なくとも1つが陽性で低力価 | 2点 |
RF, ACPA の少なくとも1つが陽性で高力価 | 3点 |
滑膜炎症持続時間 | |
<6週 | 0点 |
≧6週 | 1点 |
マーカー | |
CRP, ESRともに正常 | 0点 |
CRP, ESRのいずれかが異常 | 1点 |
[臨床症状]
● 全身疲労感、四肢の痛み(自発痛、運動痛)、手指のこわばりなどで発症し、やがて左右非対称性に関節の疼痛と腫脹が出現する。
● 主要な病変は関節炎であるが、全身結合組織の系統的慢性疾患である。
● 病変の主座は、関節の滑膜組織にある。滑膜組織には、白血球の浸潤を始め滑膜細胞の増殖が認められる。
● 最初は滑膜組織が炎症をきたし、骨芽細胞が活性化され、関節の破壊に至ることもある。
● リウマトイド肺、血管炎、皮下結節などの関節外症状も少なくない。
● 初発好発関節は、近位指節骨間関節 (proximal interphalangeal joint:PIP関節) と中手骨指節骨間関節 (metacarpophalangeal joint : MP関節) に多いが、その他の関節の初発もある。やがて脊椎を含む大関節に波及し、増悪と緩解を繰り返し、進行する。
● 全体の男女比では女性に多い(3:1)。 好発年齢は男女とも40〜50歳であるが、60歳以上では女性より男性の発症が多くなる。
● 炎症が遷延化すると、やがては関節軟骨や骨の破壊をきたす。
● 骨の萎縮を伴った関節破壊が徐々に進行し、関節の運動・支持機能が失われる。
● 関節破壊が進むと、関節は変形し、荷重など機械的・物理的刺激によって、関節の痛みが生じる。
● リウマチの痛みは、季節や気象条件によってもかなり左右する。
● 慢性的な痛みと関節破壊は、患者に精神的苦痛を与えるため、リウマチの痛みは心理的要素なども加味される。従って、リウマチの治療には、免疫異常を是正し、炎症を抑える抗炎症薬や免疫調節薬を主体とした薬物療法が基本となるが、筋力保持や保温などの物理療法、手術療法、さらには、心理療法など多面的な治療が効果的である。
[原因]
● 関節リウマチ(RA)の病態は、「自己免疫疾患」と「骨破壊を伴った滑膜組織の異常増殖疾患」という2つの側面から捉えられる。
● RAは関節滑膜における炎症とその結果生じる滑膜増殖に特徴づけられる疾患である。
● 滑膜線維芽細胞増殖の結果起こる滑膜増生はパンヌスを形成して関節組織を破壊し、重大な関節機能傷害を招く。
● 原因は不明であるが、血清からリウマトイド因子と呼ばれる免疫グロブリンG (IgG) に対する自己抗体や免疫複合体が証明される。
● 関節リウマチでは滑膜微小血管に障害が起こり、滑膜組織に好中球、マクロファージ、T細胞、B細胞が集積する。
● これらの細胞から炎症を惹起する腫瘍壊死因子α (TNF-α)やインターロイキン1:IL-1、インターロイキン6:IL-6などのサイトカインが産生され、滑膜細胞は増殖しパンヌスを形成し、関節破壊がおこる。
パンヌス pannus● 関節リウマチ患者において、関節の滑膜細胞が増殖して形成された肉芽組織 |
● TNF-αやIL-1はサイトカインカスケードの初発に関与していることから、これらのサイトカインはさらにマクロファージや線維芽細胞、血管内皮細胞からIL-6、IL-8、IL-18、顆粒球・マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)などの炎症性サイトカインやケモカインの産生誘導を引き起こし、RAの病態形成において中心的な役割を果たす。さらにTNF-αやIL-1は、血管内皮細胞に接着分子の誘導も引き起こし、白血球などの炎症性細胞の集積をうながすことにもなる。
● また、病変部位や周辺からはカリクレイン、ブラジキニン、ヒスタミン、セロトニン、血小板活性化因子、活性酸素、タンパク分解酵素などさまざまな生理活性物質が放出され、関節の炎症や痛みに関与することになる。
● 炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインとのアンバランスが生じている。
● IL-6やTNF-αなどのサイトカインが滑膜細胞を活性化させ、マトリックスメタプロテアーゼ-3(MMP-3)の産生を誘発する。そしてMMP-3が軟骨のプロテオグリカンを分解するので、MMP-3はRAの病態そのものを示すマーカーであると言える。
● RA患者においては、滑膜表層細胞や線維芽細胞から分泌された不活性型のproMMPsが、膜型MMPなどの作用により活性化され、関節軟骨破壊に関与するため血中濃度が上昇すると考えられている。
● 最近、滑膜細胞の異常増殖にかかわる因子としてシノビオリンと呼ばれる酵素が注目されている。
● 関節リウマチでは関節内のアデノシン分解酵素(アデノシン・デアミナーゼ:ADA)により、内因性抗リウマチ物質のアデノシンが分解され、関節炎が持続する。
● 免疫抑制剤のメトトレキサートはアデノシン産生を刺激し、アデノシンが白血球や血小板や他の組織に存在するアデノシンA2A受容体に結合することによって抗炎症効果を発揮する。
[治療]
● 発症後、最初の1年の治療がその後を左右するとされる。
● リウマチの治療には、免疫異常を是正し、炎症を抑える抗炎症薬や免疫調節薬を主体とした薬物療法が基本となるが、筋力保持や保温などの物理療法、手術療法、さらには、心理療法など多面的な治療が効果的である。
● リウマチの治療の第1歩は、基礎的療法—安静、食事、運動、病気の理解など
● NSAIDs—鎮痛と抗炎症薬
活動性のあるRA—インドメタシ、ピロキシカムなどが、第1選択
症状の軽い場合–イブプロフェンなどで効果を見るのが一般的
● ステロイド—-抗炎症作用が強く、即効性があるが、長期の使用は、避けるべきです。NSAIDでは、効果のない時に、緊急避難的に使用
● 免疫抑制剤などの非生物学的製剤に続いて、生物学的製剤の出現により、関節の破壊を防ぐ効果が期待でき、抗リウマチ薬が効かない場合、早めに生物学的製剤に切り替えるようになってきた。 →抗サイトカイン療法
● 外科的治療—人工関節置換 股関節、膝関節置換が、最も有効で効果的です。
リウマトイド因子 rheumatoid factor:RF ● リウマチのマーカー:変性IgG(免疫グロブリン)に対する自己抗体 ● 1940年にEric WaalerやH.M. Roseらにより発見され、最も古くから知られている自己抗体 ● 主に関節リウマチ(RA)患者の血清中や関節液中に認められるIgGのFc部分に反応する自己抗体。 ● RFの測定:RAテスト、RAHAテスト、Waaler-Rose反応 ● RFは関節リウマチでなくても、高齢となるにつれて陽性の頻度は高くなるので、陽性だから関節リウマチとは診断はできず、欧米ではより確実に診断につながる抗CCP抗体と、リウマトイド因子とを組み合わせて診断されている。 ● 抗ガラクトース欠損IgG抗体:RA患者の血清中のIgGは、健康人のIgGと比較し、ガラクトースを欠いた糖鎖が顕著に増加していて、この糖鎖異常がRAの発症やRFの産生に何らかの関与を示している可能性が報告されている。 |
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● 関節リウマチの臨床症状をすべて発症していない患者においても、RFなどを初めとするいくつかの自己抗体が出現していることが知られているので、RFを指標とする検査の特異度は限定されている。
リウマトイド因子が陽性となる疾患
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抗シトルリン化タンパク/ペプチド抗体(Anti-citrullinated protein/peptide antibodies):ACPA ● シトルリン化は、脱イミン反応とも呼ばれ、タンパク質中のアルギニンのシトルリンへの翻訳後修飾に使われる用語である。 ● シトルリンへの変換は、タンパク質を構成するアミノ酸の中で最も塩基性の強いアルギニンが中性のシトルリンに変換されるため、タンパク質の構造と反応にとってとても重要な反応である。このタンパク質の疎水性の増大はタンパク質の折りたたみ構造の展開に重要である。 |
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● RA患者の関節の間にある滑膜には多量のシトルリン化タンパク質が存在する。 ● これらのシトルリン化タンパク質は、シトルリン化酵素PADの働きによって産出される。シトルリン化タンパク質は自己抗原(異物)となってそれを特異的に認識する自己抗体(ACPA)が産生し、免疫異常が引き起こされる。 ● ACPAの存在は、RA患者において非常に高く(98%)、関節リウマチ患者の80%はシトルリンを含むタンパク質に免疫反応を示すので診断に使われる。 ● リウマトイド因子はRAに罹患していない人にも検出されることがあるが、ACPAの有無は、RAに対する特異度が顕著に勝ることが証明されているので、早期診断には必要不可欠である。 |
■リウマチ性多発筋痛症 polymyalgia rheumatica: PMR
● 通常50歳以上の中高年者に発症し、発熱や頸部、肩、腰、大腿など四肢近位部(近位筋)の疼痛を主訴とする原因不明の炎症性疾患である。
● 発症年齢は、50歳代から散見するが、平均70歳前後で高齢者に多く、80歳代もまれではない。男女比は1:2で女性に多いとされる。
● 欧米では、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)の50%にPMRを合併するとされるが、本邦での両疾患の合併例はまれである。
● 生物学的DMARDs—抗サイトカイン療法
● 非生物学的DMARDs—免疫に働きかけて病気の進行を抑える
● 抗炎症薬—炎症を抑えて痛みや腫れを軽くする—NSAIDs、ステロイド
疾患修飾抗リウマチ薬 Disease modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs =遅効性抗リウマチ剤 slow-acting anti-rheumatic drugs:SAARD ● 「Modify」という単語が示唆しているように、「リウマチの流れを変え得る」薬とされており、リウマチ治療の根幹に位置付けられるべき薬剤群で、リウマチの進行を遅らせる薬剤。 ● 以前は遅効性抗リウマチ薬と言われていて、すべて遅効性で、一般に、効果の出現までに2〜3ヶ月を要する。 ● NSAIDsが症状の軽減を主目的としているのに対し、疾患の活動性自体を制御する点が大きく異なる。 ● 活動性の早期リウマチ患者に対する積極的なDMARDs療法は、疾患活動性の抑制、QOLや身体機能の改善に有効。 ● 現在の抗リウマチ薬のほとんどが、本来関節リウマチ以外の目的で使われていた薬剤。 ● 副作用:腎臓、造血機構の障害 |
■生物学的的製剤 biological DMARDs –抗サイトカイン療法
薬剤 | 標的分子 | 発売年 | 投与方法 | 投与期間 |
インフリキシマブ | TNF-α | 2003年 | 点滴 | 最初の点滴から2週、6週後、その後は8週ごと |
エタネルセプト | TNF-α | 2006年 | 皮下注射 | 週2回 |
アダリムマブ | TNF-α | 2008年 | 皮下注製 | インフリキシマブと同じ |
トシリズマブ | IL-6 | 2008年 | 点滴 | 4週間に1回 |
アナキンラ | IL-1 | 皮下注射 | 1日1回 | |
アバタセプト | TNF-α | 2008年 | 皮下注射 | 2週間に1回 |
● 生物学的製剤は関節リウマチの炎症を抑え、関節破壊を強力に防止する。
● 生物学的製剤の出現により、リウマチのドラッグフリー寛解(完全寛解)を目指すことが現実の目標になっている。
● 生物学的製剤は自然界にあるタンパク質を利用した製剤で、発症に関わるインターロイキン-6や腫瘍壊死因子(TNF-α)などの情報伝達分子が細胞の表面にある受容体に着くのを阻止する。
日本リウマチ学会による関節リウマチに対する生物学的製剤使用ガイドライン 既存のDMARDs通常量で3ヶ月以上継続使用しても次のいずれかを満たす場合。 ● 圧痛関節数6以上かつ腫脹関節数6以上かつCRP >2.0mg/dl(or ESR >28mm/hr) ● 画像検査にて進行性の骨びらんを認める。 ● DAS28-ESR>3.2で中等度活動性あり。 |
抗サイトカイン療法 anti-cytokine therapy ● 炎症性疾患で崩れている、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインとのバランスを改善する。 1. 抗炎症性サイトカイン 2. 抗サイトカイン抗体投与 3. サイトカイン受容体に対するアンタゴニスト投与 4. サイトカイン受容体に対する可溶性受容体投与 |
● 米食品医薬品局(FDA)は2009年8月に、TNF-α阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アバタセプトなど)について、小児、青少年が使用した場合にがんの発症リスクが上昇するとして、注意書きで、強く警告するよう製薬会社に指示した。
インフリキシマブ infliximab(レミケード®) ● 1990年に開発され、1998年に米国でクローン病治療薬として、1999年に関節リウマチの適応追加。 ● 本邦では2002年にクローン病治療薬として販売、2003年に関節リウマチにも適応が追加された。2007年にはベーチェット病によるぶどう膜炎にも適応が追加された。 ● 免疫·炎症性疾患の治療を目的として開発された、抗ヒトキメラ型TNF-αモノクローナル抗体製剤 ● TNF-αと結合する部位のみがマウスのタンパクからなり、その他はヒト由来のタンパクで、遺伝子工学によって2種のタンパクを合体したもの。 ● 従来の抗リウマチ薬メトトレキサートの併用療法が確立されていて、症状·症候の軽減、関節破壊進展の防止、身体機能の改善効果が期待できる。 ● 関節破壊の進行を防ぐだけでなく、痛みを和らげる抗炎症作用も強い。 ● 英国立臨床評価研究所(National Institute for Health and Clinical Excellence :NICE)は、潰瘍性大腸炎の急性増悪に対するインフリキシマブの使用に関するガイダンスを出した。活動性潰瘍性大腸炎に対する選択肢として使用する場合、シクロスポリン禁忌の患者か臨床的に不適切とされる患者に限定し、ここの患者に対し慎重にリスク便益評価を行うことを推奨している。 ● 米食品医薬品局(FDA)は平成21年8月4日に、インフリキシマブについても、小児、青少年が使用した場合にがんの発症リスクが上昇するとして、注意書きで、強く警告するよう製薬会社に指示した。 |
エタネルセプト etanercept(エンブレル Enbrel®) ● 1998年にアメリカで、世界で初めて生物学的製剤として承認され、本邦では2005年3月発売された。 ● 完全ヒト型可溶性TNF-α/βレセプター製剤 ● TNF受容体とヒトの免疫グロブリンの一部を人工的につなぎ合わせたもので、すべてヒトタンパクでできている。マウスタンパクがないので抗キメラ抗体はできないため、メトトレキサートとの併用は必ずしも必要ではなく、単独でも使用できる。 ● 米食品医薬品局(FDA)は平成21年8月4日に、エタネルセプトについても、小児、青少年が使用した場合にがんの発症リスクが上昇するとして、注意書きで、強く警告するよう製薬会社に指示した。 |
アダリムマブ adalimubmab:ADA(ヒュミラ®) ● 独BASF傘下の製薬会社であったKnoll AG(後に米アボット・ラボラトリーズが買収)が創製し、本邦では2008年6月発売 ● モノクローナル抗体医薬品/抗体医薬品@分子標的薬 ● 遺伝子組換えによって作られたヒト型抗ヒトTNF-αモノクローナル抗体製剤 ● インフリキシマブと同様のモノクローナル抗体製剤なので、エタネルセプトとは異なり、TNF-βとは結合(中和)せず、TNF産生細胞上の膜型TNF-αと結合し、その細胞を壊す作用がある。 ● インフリキシマブとの違いは、マウスタンパクを含まないことと、皮下注製剤であるので、メトトレキサートは併用不要で単独での使用が認められている。 ● 米食品医薬品局(FDA)は平成21年8月4日に、アダリムマブについても、小児、青少年が使用した場合にがんの発症リスクが上昇するとして、注意書きで、強く警告するよう製薬会社に指示した。 |
トシリズマブ tocilizumab(アクテムラ®)
● 大阪大学と中外製薬によって共同開発された国産初の抗体医薬品として製造承認を取得(2005年4月11日)、2008年6月発売 |
アナキンラ anakinra(kineret®) ● 遺伝子組み替えで作ったヒト型IL-1受容体拮抗体(IL-1Ra) ● 米国のAmgen社で開発し、2001年11月にFDAの許可がおり、中等度以上で18歳以上の関節リウマチ患者さんに使用できるようになっている。 ● 欧米ではすでに関節リウマチに認可されていて、メトトレキサートを投与しても無効あるいは効果不十分な症例の治療薬として位置づけられている。 ● IL-1には軟骨・骨破壊作用が知られていて、関節リウマチの関節破壊に対する抑制効果が期待されている。 |
アバタセプト abatacept:CTLA4Ig(オレンシア Orencia®) ● 米Bristol-Myers Squibb社で開発され、2005年12月に米食品医薬品局から販売認可された。現在治験が進行中 (注 2010/9/21に発売されています) ● CD28、 CD80、CD86分子を介してT細胞を活性化させる際の補助刺激シグナルを調節することで効果を発揮する薬剤 ● T細胞副刺激モジュレーター(T-cell co-stimulation modulator)としての役割があり、T細胞機能を抑制する。適応はリウマチ様関節炎の治療である。 ● 完全なヒト型可溶性融合タンパクで、CTLA-4の細胞外ドメインがヒトγグロブリン(IgG-1)の修飾Fc部分に結合したもので構成されている静脈内投与製剤である。TLA4Igとも呼ばれている。 ● TNF-α阻害薬と作用メカニズムが異なるため、TNF-α阻害薬に反応しない関節リウマチ患者の選択肢として期待されている。 |
JAK阻害薬 JAK inhibitor ● 乾癬、慢性関節リウマチ、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、潰瘍性大腸炎、骨髄線維症を伴う骨髄異形成および白斑の治療のために開発がすすめられている。 ● JAKはRAにおける炎症性サイトカインなどの産生に深く関与していて、細胞内のシグナル伝達回路(JAK pathway)を阻害することで、抗炎症作用を発揮する。JAKには4種類のサブタイプ(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)があり、サイトカイン受容体ごとに異なる種類のJAKが会合している。 |
トファシチニブ Tofacitinib(ゼルヤンツ®) ● JAK阻害薬であり、免疫抑制剤・分子標的薬のひとつ ● 2012年11月6日、米食品医薬品局(FDA)は米ファイザー社の関節リウマチ(RA)治療薬Xeljanz(トファシチニブ)を承認した。 ● 2013年3月本邦でも承認された。 ● 適応:メトトレキサートで効果不十分または効果が見られない 中等度から重度の関節リウマチ ● JAK1、JAK2、JAK3をともに阻害する。細胞内では 2 分子のJAKが介在してシグナル伝達が行われるが、トファシチニブは主としてJAK3またはJAK1に会合するヘテロ二量体受容体によるシグナル伝達を強力に阻害する。JAK1およびJAK3の阻害により、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15およびIL-21を含む数種類のサイトカイン受容体を介した細胞内シグナル伝達が遮断される。これらのサイトカインは、細胞核でのDNA転写、リンパ球の活性化・増加・機能発現に不可欠であることから、これらのシグナル伝達の阻害により免疫を抑制できると考えられている。 |
バリシチニブ Baricitinib(オルミエント®) ● 日本では2017年9月より販売されている。 ● メトトレキサート ト不応性の関節リウマチに有効 ● TNF-α阻害薬または他の生物学的製剤が奏効しなかった関節リウマチ患者において、バリシニチブは有意な症状軽減がみられた。 ● メソトレキセートの効果が不十分である関節リウマチ患者において、バリシチニブはプラセボ、アダリムマブと比較して、有意に奏効した。 |
ペフィシチニブ Peficitinib ● 2019年5月22日、関節リウマチ治療薬ペフィシチニブ臭化水素酸塩(商品名スマイラフ錠50mg、同錠100mg)が薬価収載された。 ● ペフィシチニブは、トファシチニブおよびバリシチニブに次ぐ3番目のJAK阻害薬であり、細胞内に存在するチロシンキナーゼの一種であるJAKを阻害することで炎症を抑制する。 ● JAKには4種類のサブタイプ(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)があり、サイトカイン受容体ごとに異なる種類のJAKが会合している。ペフィシチニブは4種のサブタイプのいずれに対しても阻害活性を有する。 |
○非生物学的DMARDs(古典的抗リウマチ薬)
免疫抑制剤、代謝拮抗薬(メトトレキサート、レフルノミド) ● 抗リウマチ作用は比較的即効性で、効果も良く、比較的副作用も少ないが、まれに致死的な副作用を生じることがある。 ● 免疫抑制薬であるアザチオプリン(イムラン®)、シクロスポリン(ネオーラル®)もリウマチに効果が示されているが、日本国内では適応はない。 |
金製剤(金チオリンゴ酸ナトリウム、オーラノフィン) ● 古くから使用されている金製剤は元々、抗結核薬、免疫調整剤。 ● 現在一般に用いられている金製剤は、筋注で使用するシオゾ−ルと内服のリド−ラ錠。 ● 骨の変形の形成を遅らせるので、一時的に症状が改善する。 ● 作用機序は、解明されてはいない。マクロファージにおける酸性フォスファタ−ゼ、βグルクロニダ−ゼなどのライソゾ−ム酵素の抑制、ヒト多核白血球のエステラ−ゼ等の抑制効果を持つこと、PGの合成抑制作用を持つことから、抗炎症作用があることが知られている。 ● 免疫学的に、金製剤はリンパ球の増殖抑制作用、血中の免疫グロブリン、リウマチ因子レベルの低下作用、補体の不活化そしてマクロファ−ジの活性を抑制する作用などが知られている。 ● 重度の肝疾患や腎疾患、ある種の血液疾患がある人には禁忌。 |
SH剤(D-ペニシラミン、ブシラミン) ● D-ペニシラミンは強いキレ−ト作用を持つので、元々は、ウイルソン病や各種重金属沈着症の治療剤として用いられてきた。 ● ペニシラミンは経口投与し、その効果は金製剤と類似している。金製剤であまり効果がない場合や、患者が副作用に耐えられない場合に使用される。 ● 副作用には骨髄の造血機能抑制、腎臓障害、筋疾患、発疹、味覚障害があります。重症筋無力症、グッドパスチャー症候群、全身性エリテマトーデスなどを引き起こすことがあるため、通常ペニシラミンが早期に選択されることはない。 ● その後、チオラ錠をへてリマチルが開発された。 ● 薬理作用:コラゲナ−ゼ活性の障害、IgMリウマチ因子や免疫複合体の解離、ヘルパ−T細胞機能抑制などの報告がある。 |
免疫調節剤 ● スルファサラジン(アザルフィジン®)、ブシラミン(リマチル®)、レフルノミド(アラバ®)、ミゾリビン、タクロリムス(プログラフ®)が使用可能である。 ● サラゾスルファピリジン(抗菌薬、サルファ薬)はもともと、潰瘍性大腸炎やクローン病に使われていたが、関節リウマチにも有効。 |
その他 ● カルフェニールは、かつては使われていたが、現在はほとんど使われていない。 ● 欧米では抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキンもよく使用されるが、日本では適応がない。 |
1947年:アメリカン・サイアナミッド社レダリー研究所で合成されたアミノプテリンが、小児白血病に対して効果を示した。次いでアミノプテリンの誘導体が作られ、その中から悪性絨毛上皮腫に効果を示すメトトレキサートが見出された。 |
1951年:Gubner Rらが乾癬(Psoriasis)や関節リウマチにメトトレキサートが有効であることを初めて報告した。 |
1971年:米国FDAは乾癬の治療薬として承認した。 |
1988年:関節リウマチの治療薬として承認した。 |
1999年:メトトレキサートがはじめてEBMにのっとって効果がある薬と示され、日本でも承認された。 |
2011年:公知申請承認を経て、日本では週8mgまでとされてきた用量が2倍の16mgまで使えるようになった。同時に葉酸(フォリアミン)を副作用回避のために、24〜48時間後に併用することがガイドラインに明記され、保険適用となった。 |