Borderline(境界)とは、神経症の症状と精神病(特に統合失調症)の症状の境界。
1950年前後:Emil Kraepelinの時代、神経症の仮面を被った精神病の症例が見られるという報告があった。このような症例は、偽精神病、境界状態(境界例)などと呼ばれていた。 |
1953年:Knighが精神病と神経症の境界例を「境界例」と名づけた。 |
1968年:Grinkerらは境界例入院患者の行動に関する観察を統計的に処理することを通じて、「境界症候群」という観念を作り出した。 |
Kernbergはそれまで移行状態であるとされていた部分を構造化し、境界性人格構造と名づけた。この頃の境界とは、精神病との境界、中核群、as-if群、神経症との境界という4つの意味があった。境界例の持つ印象が重症例中心から軽症例中心となった。 |
1960年代後半以降:境界例は人格障害の一つであると考えられるようになり、Gunderson John. Gらによって、「境界性人格障害」として、DSM-IIIに載るようになり、DSM-IVに受けつがれている。 |
1980年代:境界という言葉は4つの意味で用いられていた。分裂病との境界、うつ病としての境界、人格障害としての境界例、人格構造としての境界構造の4つである。 |
2003年8月:DSM-IV-TRの日本語版の訂版で、BPDの正式名称の邦訳が、「境界性人格障害」から、「境界性パーソナリティ障害」に修正された。 |
現在:社会的な病理としてBPDは注目を浴びており、増加傾向にあるようである。 |
DSM-IVの診断基準
以下のうち、5つ以上に該当すると境界性人格障害の可能性がある。 1. 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとする気違いじみた努力。 2. 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動く、不安定で激しい対人関係。 3. 不安定な自己像または自己感。 4. 浪費や性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食いなどの衝動的な行動。 5. 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。 6. いらいらや不安などの、感情の不安定性。 7. 慢性的な空虚感。 8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御困難。 9. 妄想や解離性の症状。 |
ICD-10
成人の人格および行動の障害 F6(F60-69) 人格障害(F60) ● F603「情緒不安定性人格障害」は、衝動型と境界型の2亜型に分類される。 |
全般的な、気分、対人関係、自己像の不安定さのパターンで、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになる。 以下のうち、5つ(またはそれ以上)で示される。 1. 過剰な理想化と過小評価との両極端を揺れ動く特徴を持つ不安定で激しい対人関係の様式。 2. 衝動的で自己を傷つける可能性のある領域の少なくとも2つにわたるもの。 例えば浪費、セックス、物質常用、万引き、無謀な運転、過食。(5に示される自殺行為や自傷行為は含まない。) 3. 感情易変性:正常の気分から抑鬱、イライラ、または不安への著しい変動で、通常2〜3時間続くが、2〜3日以上続くことはめったにない。 4. 不適切で激しい怒り。または怒りの制御が出来ないこと。例えばしばしば癇癪を起こす、いつも怒っている、けんかを繰り返す。 5. 自殺の脅し、そぶり、または自傷行為の繰り返し。 6. 著明で持続的な同一性障害。それは以下の少なくとも2つ以上に関する不確実さとして現れる。(自己像、性嗜好、長期的目標、または職業選択、持つべき友人のタイプ、持つべき価値観) 7. 慢性的な空虚感。 8. 現実の、または空想上で見捨てられることを避けようとした気違いじみた努力。(5に示される自殺行為や自傷行為は含まない。) |
A.群人格障害 | F60.0 | 妄想性人格障害 Paranoid personality disorder |
F60.1 | 統合失調質人格障害 Schizoid personality disorder 分裂病型人格障害 Dissocial personality disorder |
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B.群人格障害 | F60.3 | 情緒不安定性人格障害 Emotionally unstable personality disorder ● (衝動型) ● (境界例) |
F60.4 | 自己愛性人格障害 Narcissistic personality disorder 演技性人格障害 Histrionic personality disorder |
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F60.2 | 反社会性人格障害 | |
C.群人格障害 | F60.5 | 強迫性人格障害 Anankastic personality disorder |
F60.6 | 避性(不安性)人格障害 Avoidant (avoidant) personality disorder | |
F60.7 | 依存性人格障害 Dependent personality disorder |
[特徴]
● BPDは、人格障害の中でも多数を占める。
● Gunderson(2018)によると、一般人口の1.7%、精神科診療所や病院の患者の15〜28%、男性より女性の方が3倍も見られるとしている。
● BPDは、神経症の症状と精神病(特に統合失調症)の症状の境界の症状という意味であったが、近年ではうつ病などの気分障害(感情障害)との関連も疑われている。
● Koenigsbergらが1999年に発表した論文によると、他の人格障害に比べると、BPDと気分障害(感情障害)の関連は特別なものではないとされている。
● BPDの多くは思春期に発症するものであり、16歳以上に診断がなされるものとしている。後期思春期ないし成人期に見られやすく、30歳代になると次第に改善が見られ、30代後期には安定すると言われる。
[症状]
● 症状は多様
● 個人の内面的な葛藤でとどまっている人から、リストカットや中毒症状を抱える人、統合失調症的な症状を呈する人まで。
[痛み]
● Schmahlらは、BPDでは痛みの閾値が高く、痛み刺激への反応が低いことを報告している。
● BPDは、痛み感覚および痛みの認知と情動的評価に関わる脳領域での解離性神経応答が優位に低下している。
● fMRI、背側前頭葉皮質DLPFCにおける痛み誘発応答の増加と、前帯状回および扁桃体が不活性化している。
● 自傷行為を繰り返しているBPDで、痛みの情動成分のダウンレギュレーションを通して、痛み回路を調整している可能性が示唆されている。
● 麻酔情報の処理に扁桃体が関与しており、大脳辺縁系の不活性化が逆境をきり抜ける情動と相関しているとの知見も勘案すると、「自傷行為による痛みは、情動・認知処理に関わる特定の脳領域の神経活性を正常化するように機能しているか、あるいは自傷行為の反復は、痛みの閾値と痛みの処理の適応を引き起こし、これが痛みの閾値の上昇と前頭葉と大脳辺縁系の痛みの処理の混乱を引き起こす。」と考えられる。
非社会性パーソナリティ障害 Dissocial Personality Disorder:DPD
● 社会的規範や他者の権利・感情を軽視し、人に対して不誠実で、欺瞞に満ちた言動を行い、暴力を伴いやすい傾向があるパーソナリティ障害である。
● 診断には、子供の頃は行為障害(素行症)であった必要がある。加齢と共に30代までに軽くなる傾向もある。
● アメリカ精神医学会の診断基準Bにより、18歳以上である。診断基準Cにより、15歳以前に、行為障害の証拠がある。診断基準Dによって統合失調症や躁病エピソードが原因ではない。
● ICD-10精神と行動の障害においては、[ F60.2 ]非社会性パーソナリティ障害である。行為障害である場合には除外される。