● 「neuro=神経」+「pathy=障害」
● [IASP Pain Terminology]:A disturbance of function or pathological change in a nerve: in one nerve, mononeuropathy; in several nerves, mononeuropathy multiplex; if diffuse and bilateral, polyneuropathy.
[障害分布] • 単神経炎 • 多発性単神経炎 • 多発神経炎 |
[障害神経の種類] • 感覚神経障害 • 運動神経障害 • 自律神経障害 |
[原因] • 代謝性ニューロパチー • アレルギー性ニューロパチー • 中毒性ニューロパチー • 傍腫瘍性ニューロパチー • 遺伝性ニューロパチー |
■ 障害分布
◇単神経炎 mononeuropathy
・単一の末梢神経の障害
・手根管症候群など
◇多発性単神経炎 mononeuritis multiplex
・左右非対称に複数の神経が障害される。
・結節性動脈炎などの血管炎や慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病で生じる。
◇多発神経炎 polyneuropathy
・遠位性対称性多発性神経障害
・炎症性脱髄性多発性神経障害
・多発性単神経炎
・自律神経障害
広範な末梢神経障害により、ほぼ左右対称性で主に四肢末端部付近に運動、感覚または両者の混在した障害を認める。
急性多発神経障害 | 感染症: ・ジフテリアなど |
自己免疫反応: ・ギラン・バレー症候群(急性炎症性脱随性神経障害 ←→急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー:AIDP) |
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有毒物質: ・鉛や水銀などの重金属を含む有毒物質、一酸化炭素などによる |
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薬物: ・抗けいれん薬のフェニトイン ・抗生物質(クロラムフェニコール、ニトロフラントイン、スルホンアミドなど) ・鎮静薬(バルビタールやヘキソバルビタールなど) ・化学療法薬によるニューロパチー(ビンブラスチンやビンクリスチンなど) ・放射線療法によるニューロパチー |
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多発性骨髄腫などの癌: ・直接浸潤して神経を圧迫したり、毒性物質を産生する。 |
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慢性多発神経障害 | 糖尿病性ニューロパチー |
アルコールの過剰摂取 | |
ビタミンB12欠乏症による悪性貧血 | |
甲状腺機能低下、肝不全、腎不全 | |
がん(肺がんなど) | |
ビタミンB6(ピリドキシン)の過剰摂取 | |
遺伝性の多発神経障害 | Charcot-Marie-Tooth病 Fabry病 ポルフィリン症 家族性アミロイドニューロパチーなど |
■ 障害神経の種類
〇 感覚神経障害
痛み、感覚鈍麻と異常感覚を認める。
● 神経痛:神経の走行に沿った鋭い痛みが、自発的にあるいは接触や圧迫によって誘発される場合がある。電気が走るような電撃痛で間歇的であることが多い。三叉神経痛など。
● 表在性の感覚障害が主体のものでは、「手袋靴下型 glove and stocking type」の左右対称性、遠位部優位の感覚障害。正常部との境界不明瞭。
● 感覚鈍麻 Hypoesthesia:触覚・痛覚・温度覚・振動覚が同時に低下している場合と、表在感覚(触覚・痛覚・温度覚)のみ、あるいは深部感覚(振動覚・位置覚)のみが障害される場合がある。
● 異常感覚 Dysesthesia:自発的なビリビリ感やジンジン感が出現、あるいは刺激により異常感覚が誘発される場合がある。
● 感覚性運動失調:深部感覚障害が進行すると運動失調が現れることがある。特に上肢障害されると、目を閉じて手指を伸ばしたまま腕を前方に差し出すと指がばらばらに動く。また、立った状態で目を閉じるとふらふらと安定感なくなるものも多い。
表在反射の消失:下肢などに不意な痛み刺激が加わった時、逃避反射が消失する。
筋力低下、筋萎縮、筋緊張低下、弛緩性麻痺が現れる。
● 一般に筋力低下・筋萎縮などの運動障害は四肢の末端部より始まり、進行すると範囲が拡がり、体幹へ及ぶことがある。
● 筋萎縮:主に手足先に筋萎縮を生じる。
● 筋線維束性攣縮:筋肉の不随意運動。不規則なリズム、早い収縮で持続時間は短い。四肢や舌によくみられ、ピクピク収縮する。
● 筋緊張の低下:弛緩性麻痺を生じる。他動的に麻痺した筋を動かす時、抵抗が低下して容易に動かすことができる状態。そのため関節可動域は大きくなりる。
● 運動麻痺:神経が支配する筋の筋力低下が生じる。多発神経障害では左右対称性で主に四肢の先端付近に筋力低下を生じることが多い。上肢では物をつまんだり握る力が弱く、垂れ手になることもあり、下肢では尖足、外反、内反になり、また垂れ足になってるときは歩行時に足を異常に高く持ち上げるように歩くようになる(鶏歩)。このような場合、つまずきやすくなる。
● 骨格系の変形:Charcot-Marie-Tooth病などの慢性に経過する多発ニューロパチーでは凹足(足底の土踏まずの高いアーチ状の変形)を呈することがしばしばある。脊柱では側彎を認める。
〇自律神経障害
自律神経症状を主徴とするニューロパチーは比較的まれ
● 瞳孔異常:自覚的には気づかないことが多いが、異常な縮瞳・散瞳や瞳孔不同などを認める。
● 心血管系の異常:起立性低血圧〔臥位から立位になったときに収縮期血圧30mmHg以上低下する〕が代表的で、その症状としては起立時のめまいや眼前暗黒感、さらに程度が強くなると失神することもある。
● 消化器症状:便秘、下痢、悪心、嘔吐、腹痛など
● 発汗障害:発汗量は個人差、年齢、季節などに左右され るが、発汗低下や無汗、あるいは逆に多汗をみることがある。
● 膀胱直腸障害:排尿に関しては頻尿・尿意切迫・尿失禁・排尿開始遅延・排尿時間延長・尿閉など様々な症状を見ることがあるが、一般的にニューロパチーでは尿意がわからず溢流性尿失禁となることが多い。
● 性機能障害:勃起障害が代表的でだが、他の様々な原因でおこることも多い。
〇 急性炎症性脱髄性多発根神経炎 acute inflammatory demyelinating polyradicuropathy:AIDP
発症から4週間以内に悪化する脱髄性のニューロパチー
● 2ヶ月以上にわたって進行性または再燃性の左右対称性の四肢の運動・感覚性障害を示す末梢神経の疾患
● 四肢の健反射は消失 あるいは低下する。
● 症状としては手足の脱力や筋力低下が左右対称性に出現し、このため足に力が入らなく、転びやすくなったり、手の脱力のため物をうまくつかめなくなったりする。
● 感覚障害により手足のしびれ、ピリピリする痛みなどを認めることもある。
● CIDPの原因は現在もなお不明だが、自己の末梢神経に対する免疫異常がその原因ではないかと考えられている。
◇遠位部神経終末、神経根における脱髄
・遠位潜時の延長、遠位部刺激CMAPの持続時間の延長、時間的分散、振幅低下が特徴であり中間部の伝導速度低下、伝導ブロックは認められない。
・このパターンは典型的CIDPの一部で認められる。遠位部神経終末、神経根の病変は神経長に依存しないため近位筋、遠位筋ともに筋力低下をきたすと考えられている。
◇神経幹中間部の脱髄
・遠位刺激のCMAPは正常となる。神経幹に局所性多巣性伝導ブロックが生じる。このパターンはMADSAMやMMNで認められる。
◇神経全長にわたる多巣性、びまん性脱髄
・遠位部、中間部を含んで神経の長軸方向全長にわたって脱髄病変が分布する。
・遠位潜時の延長、遠位部CMAP持続時間延長、伝導速度低下、伝導ブロック、F波潜時の延長全てが認められる。典型的CIDPの一部はこのパターンをとる。