● 胸郭出口部では、骨(頸肋、鎖骨、第一肋骨など)や筋肉(前斜角筋、中斜角筋など)が神経や血管を圧迫する。動的、静的に圧迫することが知られているため、圧迫を画像で証明することが難しいことがある。
● 腕神経叢の下神経幹(C8ーT1)が、絞扼によって生じる頸肩腕痛—絞扼性ニューロパシーとされているもの、心理・社会的因子も含まれており、Nociplastic painの要素が含まれている。
● 下神経幹と一緒に、鎖骨下動脈や腋窩動脈が、圧迫されたことによって起こる頸肩腕痛—自律神経障害の症状を併発することも多い。
● 絞扼部位によって、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群(過外転症候群)と呼ばれることがある。
1821年:Sir Astley Cooperが腕の虚血のある若い女性での動脈性の胸郭出口症候群を初めて記載し、頸肋と鎖骨下動脈の関係を示した。 |
1831年:Henry Mayo( London)が第1肋骨の外骨症 exostosis of the first ribによって引き起こされた胸郭出口症候群による鎖骨下動脈の動脈瘤を初めて記載した。 |
1860年:W. H. Willshireにより頸肋が神経・血管の圧迫症状を起こす可能性があることが報告されて以来、同様の症状を起こすものとして第1肋骨症候群・斜角筋症候群・肋鎖症候群・過外転症候群などが提唱されてきた。 |
1956年:Peet RMらは上肢の神経血管圧迫症候群に「thoracic outlet syndrome」と言う用語を当てた。 |
1958年:Rob CG and Standeven Aはthoracic outlet compression syndromeとして包括することを提唱した。 |
[症状]
● 痛みは、損傷を受けた分節に限局することもあれば、肩と腕全体、首、背中に及ぶこともある。
● 頭痛、肩凝り、しびれ、冷感など様々な症状を発生させる。
● 感覚運動障害が生じることがある。
● 自律神経様症状が伴われる。
● 神経性は全上腕神経、尺骨神経、正中神経障害の順に多く、上肢の疼痛、知覚異常、しびれ感、倦怠感・無力感・脱力感(手に持っているものを落とす)などの症状が特徴である。他に菱形筋や僧帽筋の圧痛、疼痛(肩、背中の痛み)、後頭部痛(70%)などを訴える。小胸筋による圧迫では同部に圧痛がある。
● 動脈性は1期では無症状であるが、2、3期になると上肢動脈圧の低下によりレイノー現象が誘発され、半数以上で上肢跛行、指壊疽、急性重症虚血などで発症する。
[原因]
● 比較的若い女性に好発する。特に首が長く、なで肩の女性に多い。
● 20〜30代、頸部周辺の筋肉の発育が悪い女性:腕神経叢が腕の重さに耐えかねて、胸郭出口部で引っ張られ、神経炎を発生させる。
● 怒り肩で、筋肉質で、首の短い人中高年の男性:腕神経叢や血管が周囲の組織で圧迫され、神経炎や血行障害が生ずる。
● 頸肋、斜角筋痙攣、異常筋膜帯のある患者にみられる。
[治療]—保存的治療が原則
● 日常生活動作の注意点:腕を下げて行う作業や首の不良姿勢で行う作業を出来るだけ避ける。
重たい物を持ったり、挙げるような作業を避ける。
● 不安感の除去
● リハビリテーション:温熱療法、ストレッチング、筋力強化訓練
● 装具療法:肩甲帯支持バンドを着用し、腕神経叢の緊張を取り除く。
● 痛み
○ 非ステロイド系抗炎症剤、筋弛緩剤、ビタミンB製剤
○ 自律神経様症状に対して:抗不安薬
○ 頑固な症例に対して:神経ブロック療法(星状神経節ブロック、肩甲上神経ブロック、腕神経叢ブロック)
● 外科手術:頸肋の切除、斜角筋の切離術、第1肋骨の切除、小胸筋の切離など(外科的手術は画像所見で確実に狭窄、絞扼所見がある症例に行うこと。手術成績不良例が多く、手術適応を慎重に検討すべきである。