● 骨粗鬆症には骨代謝異常とカルシウム代謝異常の二つの要因が存在する。腎臓でのビタミンDの活性化障害と腸管からのカルシウム吸収障害
● 骨粗鬆症は、骨の産生と消失のバランスが崩れた状態。bone remodeling のバランスが崩れ、骨吸収が相対的に骨形成を上回るために、骨密度が低下する。
● カルシウム不足から骨密度が減少し、骨がスカスカになり、骨折しやすくなる。
● 骨粗鬆症になると、骨折を起こしやすくなり、痛みの原因になる。
● 日本においては1000万人に症状が現れていると考えられている。
● 骨粗鬆症は、中年以降にみられ、患者の8割は女性である。
● 50歳代で21%、60歳代で48%、70歳代で67%、80歳代では84%もの高率を示す。
原発性骨粗鬆症 | |
I型骨粗鬆症 (閉経後骨粗鬆症) |
● 51〜75歳の間に発生する。 ● 女性は男性の6倍ほどかかりやすいが、性腺摘除後または血清中のテストステロン濃度の低い男性にも発生し、性腺機能の損失が直接関連している。 ● Ca吸収が減少するか,または不適切なカルシウム過剰尿症がある場合、副甲状腺ホルモン(パラソルモン:)濃度は正常であるか、または低い。 ● エストロゲンの減少はインターロイキン-6やその他のの血清濃度を上昇させ、そのことが骨梁骨(海面骨)中の破骨細胞前駆体の動員および反応の亢進をまねき、結果として骨吸収が増大する。 ● 椎体圧迫骨折やコーレス骨折など骨折の大きな原因となっている。 |
Ⅱ型骨粗鬆症 (退行性又は老人性骨粗鬆症) |
● 老化の正常な経過や骨芽細胞の数の減少や活性低下と関連し、破骨細胞の活性亢進とは1次的には関連していない。 ● 一般的に60歳以上の患者に発症し、女性は男性の2倍多い。 ● Ca吸収が減少するか,または不適切なカルシウム過剰尿症がある場合、PTH濃度は上昇する。 ● 骨梁骨および皮質骨を侵し、しばしば大腿骨頸部、椎骨、上腕骨近位、脛骨近位、および骨盤の骨折をまねく。 ● 年齢によるビタミンD<合成の減少またはビタミンD活性への抵抗性による結果である。 ● 高齢女性ではI型とII型がしばしば一緒に起こる。 |
続発性骨粗鬆症(ステロイド性骨粗鬆症) |
● 続発性骨粗鬆症は骨粗鬆症全体の5%未満とみなされている ● 内分泌性疾患(グルココルチコイド過剰、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症,性腺機能低下、高プロラクチン血症、糖尿病)、薬物誘導(副腎皮質ステロイド、エタノール、ジランチン、タバコ、バルビツール剤、ヘパリン)、その他の条件(例:固定、慢性腎不全、肝疾患、吸収不良症候群、慢性閉塞性肺疾患、関節リウマチ、サルコイドーシス、悪性腫瘍、宇宙飛行でみられる長期の無重力状態)などがある。 |
● WHOの診断基準(1996年)では、若いとき(20〜44歳)の平均骨量の20%減少までは正常、20〜30%を骨量減少、30%以上の減少を骨粗鬆症と診断する。なお、すでに骨折(外傷性以外の骨折)がある場合は、20%以上の骨量減少で骨粗鬆症と診断します。 また、痛みがなくても背が1年間に1cm 以上短縮した場合は骨量を測定する必要があります。
● 日本骨代謝学会は、「X線上椎体骨折の有無」と「骨量の評価」による原発性骨粗鬆症の診断基準を提唱した。
● この診断基準の基本的な考え方は、骨粗鬆症に類似した疾患の鑑別を十分に行っていること、骨萎縮度分類または骨塩測定によって骨量の判定を行っていること、および椎体骨折の有無を分類している。
原発性骨粗鬆症の診断基準 (2000年度改訂版)(日本骨代謝学会) 低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず、骨評価の結果が下記の条件を満たす場合、原発性骨粗鬆症と診断する。● 脆弱性骨折あり 脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折。骨折部位は脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端、その他。● 脆弱性骨折なし YAM :若年成人平均値(20−44歳)(注1):骨密度は原則として腰椎骨密度とする。ただし、高齢者において、脊椎変形などのために腰椎骨密度の測定が適当でないと判断される場合には大腿骨頸部骨密度とする。これらの測定が困難な場合は橈骨、第二中手骨、踵骨の骨密度を用いる。(注2):脊椎X線像での骨粗鬆化の評価は、従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行う。 |
骨密度値(注1) | 脊椎X線像での骨粗鬆化(注2) | |
正 常 | YAMの80%以上 | なし |
骨量減少 | YAMの70%以上80%未満 | 疑いあり |
骨粗鬆症 | YAMの70%未満 | あり |
変形 | ● 椎体の圧迫骨折に起因するもので、身長短縮、円背、亀背などを呈する。 ● 背中が曲がることに現れる骨の変形、骨性の痛み、さらに骨折の原因となる。 |
骨折 | ● 骨折は一般に強い外力が加わった場合に起こるが、骨粗鬆症においては、日常生活程度の負荷によって骨折を引き起こす。 ● 骨粗鬆症による易骨折三大部位は、1)上腕骨近位、2)橈骨遠位、3)大腿骨頸部近位であるといわれている。 ● 大腿骨頸部骨折は転倒により発症することが多い。 ● 椎体圧迫骨折は骨粗鬆症に伴う最も頻度の高い骨折で急性期には激しい腰背部痛を訴えることもある。その後の脊柱変形により異常なストレスが筋、筋膜、椎間関節、神経組織に加わることにより生じる慢性腰背部痛、円背、身長の低下などを来す。 |
胸腰背部痛 | ● 胸腰背部痛は慢性に進行する椎体の微小骨折、骨組織の支持性の低下、あるいは変形に伴う胸腰背部筋群への負荷の結果と考えられる。 ● 脊椎圧迫骨折により、背中や腰部に痛みが現れる。変形性脊椎症との、鑑別に注意を要する。 ● 骨折による痛みや障害はもちろん、大腿骨や股関節の骨折はいわゆる高齢者の寝たきりにつながり、QOLを著しく低くする。 |
骨粗鬆症が進行しているほど、動脈の筋細胞内カルシウム濃度が上昇し、血管が収縮するため血圧が上昇する。動脈にカルシウムが沈着するため、動脈硬化を促し、膵臓のインスリンの分泌を阻害し、免疫担当細胞の機能を低下で感染症やアレルギーやがんなどにかかりやすくなる。また機能面では神経、内分泌系の情報が正常に伝達されなくなる。 |
内的因子 | 内的因子 | ホルモン因子:女性、閉経卵巣機能不全 |
加齢因子 | 高年齢 | |
遺伝因子 | 人種(白人、アジア人)、家族歴 | |
外的因子 | 運動因子 | 運動不足、臥床 |
栄養因子 | 痩せ(低栄養、ダイエット)、カルシウム不足、ビタミンD、ビタミンK不足 | |
生活習慣因子 | 喫煙、アルコール、コーヒーの多飲、日照の不足 | |
続発性 | ステロイドの服用、胃切除、卵巣摘出術、副甲状腺機能亢進症、糖尿病、腎不全、肝不全 |
● 骨粗鬆症の予防と治療の基本は、リスクファクターの回避である。
● 骨粗鬆症の一般的な治療として、運動、タンパク質・カルシウム・ビタミンDなどが十分に含まれた食事療法とともに、薬物療法がある。
● 薬物療法の原則はそれぞれの病態、骨代謝回転に応じた薬剤を投与する。
骨吸収抑制剤 | 骨形成促進剤 |
● I型骨粗鬆症に対しては、骨吸収亢進の抑制を目指す。 | ● II型骨粗鬆症に対しては、骨形成低下の改善を目指す。 |
● カルシトニン製剤 ● ビスホスフォネート製剤 ● エストロゲン補充療法 ● SERM ● デノスマブ製剤 |
● 活性型ビタミンD製剤 ● ビタミンK2 ● テリパラチド製剤 ● ロモソズマブ製剤 |
■ステロイド性骨粗鬆症
● 1996年米国リウマチ学会の調査で、米国骨粗鬆症患者の20%(400万人)がステロイド性抗炎症薬服用を原因とし、長期服用患者の25%が骨折を経験していることが明らかにされた。
● ステロイド性骨粗鬆症の患者数と骨折数があまりにも多いことが注目されている。
● ステロイド投与開始後3〜6ヶ月で急速に骨量が減少し、その後は緩やかに減少が続く2相性を示す。
● ステロイドが骨に対する直接作用と、カルシウム代謝の変化や性ホルモンの分泌抑制を介した間接作用がある。
● グルココルチコイドによる骨芽細胞の機能抑制やアポトーシス誘導、増殖因子の産生抑制、骨形成シグナルによる骨形成抑制作用が、ステロイド性骨粗鬆症の発症機序として最も重要である。