急性腹症 | |
胃 | 胃がん/機能性ディスペプシア(胃食道逆流症—胸痛) |
腸 | 急性虫垂炎/過敏性腸症候群/クローン病/潰瘍性大腸炎/大腸がん |
膵臓 | 急性膵炎/膵がん |
肝臓・胆嚢 | 胆石症/肝がん |
泌尿器 | 尿路結石症/腎がん/膀胱がん |
その他 | 急性ポルフィリン症 |
急性腹症 acute abdomen
● 腹痛は、消化器疾患における代表的な症状、自覚症状の一つである。
● 原因は、 腹腔内臓器の障害とは限らない。
● 腹痛には、内臓痛、体性痛とがある。そして、内臓痛に伴う関連痛があるが、実際の臨床の場では、明確に区別することは困難である。
腹痛 | 関連痛 | ||
内臓痛 | 体性痛 | ||
発生原因 | 管腔臓器壁や腹側壁膜の急速な伸展・拡張や、攣縮性収縮や実質性臓器の腫脹による皮膜の伸展、牽引など | 壁側腹膜や腸管膜、横隔膜への物理あるいは化学刺激 | 内臓痛を生じた部位と同一レベルの感覚入力 |
発生時期 | 多くは病期初期 | 多くは病期進行後 | 内臓病の増悪期 |
求心性神経 | 無髄C侵害受容神経 | AδおよびC侵害受容線維 | ― |
疼痛症状 | 灼熱痛や鈍痛として訴えられる。痙攣・伸展が激しい場合は、周期的、間欠的で差し込むような疝痛となる。 | 持続性の指すような鋭い痛みで、腹膜刺激症状を伴うことが多い。 | 強い内臓痛に伴って皮膚や筋肉に生じる限局性の鋭い痛み |
疼痛部位 | 非限局性で、腹部正中に対称性に生じる。(障害臓器が両側性の神経支配のため。) | 障害臓器の近傍に限局し、非対称性で、疼痛部位が明瞭。圧痛点を認める。 | 刺激を受けた体性感覚神経の支配領域の皮膚節。(Headの感覚過敏帯) |
迷走神経症状 | 伴うことが多い(嘔吐、発汗など)。 | 一般に伴わない。 | ー |
体動や体位の影響 | あまりない。(疼痛が軽快する場合もある。) | 体動で悪化する。(特定の体位のまま動かないことがある。) | ー |
疼痛管理 | 鎮痙薬が有効。 | 鎮痙薬は無効。鎮痛薬が有効。 | 鎮痙薬、鎮痛薬ともに使用。 |
治療方針 | 内科的治療 | 外科的治療の適応となる例が多い。 | 内科的治療 |
◇カーネット徴候 Carnett’s test
○ John B. Carnettが1926年に考案したテスト法
○ 腹痛の原因が、腹壁(筋肉、骨、神経)にあるか、腹腔内にあるかを鑑別するサイン
【方法】
○ 患者に仰臥位で、両腕をクロスさせて胸に置く。
○ 患者の腹部の圧痛点を押さえた状態で、患者に頭部を挙上し腹部の筋肉を緊張させる。
【判定】
○ 陰性:圧痛減弱 → 腹腔内臓器(内臓)由来の疼痛を示唆
○ 陽性:圧痛不変 → 腹壁性の疼痛を示唆
○ 強陽性:圧痛増強 → 腹壁性の疼痛を強く示唆
◇筋性防御 muscular defense, muscular guarding
○ 炎症による内臓体性反射
○ 壁側腹膜の炎症を示唆する所見:腹部を軽く押した時に反射的に腹壁が緊張する。急性腹膜炎や虫垂炎などの診断に有用。
○ 炎症が腹膜に波及すると、腹壁筋肉の反射性緊張により、腹筋が不随意性に硬直し、触知することができる。
○ 初期では軽い触診で腹壁の筋肉の緊張として触知されるが、病状が進行すると腹筋は硬く緊張し、腹壁反射は消えて板状硬と呼ばれる状態になる。
● 腹痛の原因となる疾患と緊急性
頻度 | 緊急を要する疾患 | 緊急を要しない疾患 |
よく遭遇する疾患 |
● 急性虫垂炎 ● 絞扼性イレウス ● 消化管穿孔 ● 急性胆嚢炎・胆管炎 ● 急性壊死性膵炎 ● 子宮外妊娠破裂 ● 卵巣膿腫茎捻転 ● S状結腸軸捻転 ● 心筋梗塞 |
● 急性胃腸炎 ● 胃・十二指腸潰瘍 ● 感染性腸炎 ● 胆石症 ● 尿路結石症 ● 急性膵炎・慢性膵炎 ● 消化器がん ● 尿路感染症 |
比較的まれな疾患 |
● 腸管膜血管閉塞症 ● 腹部解離性大動脈瘤 ● 腹部大動脈瘤切迫破裂 ● 上腸間膜動脈塞栓症 ● 潰瘍性大腸炎 ● 中毒性巨大結腸症 |
● 胸膜炎 ● 肺梗塞 ● 急性ポルフィリン症 ● Henoch-Schonlein紫斑病 |
● 腹痛の部位・正常と主な疾患 (Year Note 2004 論文集)
強い痛み | 鈍痛 | |
右季肋、側腹部 |
● 胆石症 ● 胆嚢・胆管炎 ● 十二指腸潰瘍 ● 腎結石 ● 肝膿腫 ● 急性腎盂腎炎 |
● 急性肝炎 ● 肝癌、胆嚢がん ● 右胸膜炎・肺炎 ● 膵頭部痛 ● 大腸がん |
心窩部 |
● 胃潰瘍 ● 十二指腸潰瘍 ● 急性胃炎 ● 急性虫垂炎初期 ● 急性膵炎 ● 心筋梗塞 |
● 胃がん ● 慢性胃炎 ● 膵がん ● 心筋梗塞 ● 大腸がん |
左季肋、側腹部 |
● 急性膵炎 ● 腎結石 ● 尾部膵がん ● 急性腎盂腎炎 |
● 過敏性腸症候群 ● 大腸炎 ● 膵がん |
臍部 |
● 急性胃腸炎 ● 急性中膵炎初期 ● 解離性大動脈瘤 |
● 膵炎 ● クローン病 ● Meckel憩室炎 |
右腸骨窩部 |
● 虫垂炎 ● 右尿管結石 ● 卵巣膿腫茎捻転 ● 子宮外妊娠破裂 ● 子宮付属器炎 |
● 過敏性腸症候群 ● 大腸がん ● クローン病 ● 大腸憩室炎 ● 子宮付属器炎 |
下腹部 |
● 尿管結石 ● 卵巣膿腫茎捻転 ● 子宮付属器炎 ● 子宮外妊娠破 |
● 膀胱炎 ● 子宮付属器炎 ● 大腸がん |
左腸骨窩部 |
● 急性腸炎 ● 左尿管結石 ● 虚血性大腸炎 ● 卵巣膿腫茎捻転 ● 抗生物質起因性出血大腸炎 ● 子宮付属器炎 ● 子宮外妊娠破裂 |
● 過敏性腸症候群 ● 大腸がん ● 潰瘍性大腸炎 ● 子宮付属器炎 ● S上結腸形質炎 |
腹部全体 |
● 急性胃腸炎 ● 汎発性腹膜炎 ● 腹部大動脈瘤破裂 ● 腸管膜血管閉塞 ● 腸閉塞 ● Henoch-Shonlein紫斑病 |
● がん性腹膜炎 ● 結核性腹膜炎 |