口腔顔面痛-顎関節症 Temporomandibular joint disorders : TMD

● TMDは単一の症状としてではなく、咀嚼系に関連する様々な症状が集合した症候群。顎関節症は顎関節だけの問題ではない。
● TMDは、症候群であり、その疼痛原因から、「myofascial pain dysfunction (MPD) syndrome」, 「Internal derangement」, 「degenerative joint disease (DJD)」, 「Others such as fractures, infections」など4つの要因から分類する試みがされていた。
● 1988年に、Professor Segundo Franco Mongini (Italy)らは、顎関節症に認められる症状を病因に関連したものとして構造因子(咬合異常など)、神経筋因子、心因性因子の3つをあげ、その結果として顎関節障害、頭部の圧痛、頭痛などの症状が現れることを指摘した。この際、3つの因子が組み合わさっている患者が多く、特に多くの患者で心因性因子の関与が疑われ、精神ストレスが咀嚼筋活動の亢進と異常をもたらすことで頭部の圧痛、頭痛が現れると説明し、構造因子自体は、痛みを決定する因子ではなく、顎関節障害の原因であると述べている。

[TMDの定義]

● IASPの慢性痛分類では、顎関節症は、「Craniofascial pain of musculoskeleral origin」に属し、「Temporomandibular pain and dysfunction syndrome」と命名されている。
● TMDは診断学的分類として、国際頭痛学会(IHS)が2004年に発表した国際頭痛分類第2版の11.7に含まれる。
● 「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし顎運動異常を主症候とする慢性疾患群の総括的診断名」(日本顎関節学会)。
● 顎関節、咀嚼筋などに疼痛、機能障害を生じる疾患の集合病名である。
● 原因として以前は咬合異常が重視されていたが、最近では多因子説が支持されている(ストレスによる食いしばり・歯ぎしりなど)。
● 男女別では女性が男性の3〜5倍多い。
● 年齢的には20〜30歳代に多く、20歳代女性が1/3を占める。

[顎関節症の症状]

● 顎関節とその周囲の異常であり、疼痛、関節雑音および顎の運動障害を主症状とする。
● 顎関節症の主症状は、顎運動時痛であり、自発痛は少ない。顎運動時痛には開口、閉口運動時や咀嚼時に下顎頭が動くことによる顎関節痛と咬筋、側頭筋などの咀嚼筋が活動することによる筋痛がある。患者は顎関節痛と筋痛の区別ができないので、鑑別診断が必要である。
● 症状は片側性の場合が多く、主に偏って咀嚼する側に生じる。
● 朝、起床時や食後などに症状の増悪がみられることがある。
● 症状は重複することが多く、またそれぞれに、精神的要因、ストレスが関与している場合も多い。
 ◇顎関節痛
 ・顎関節痛の主病態は、顎関節周囲の軟組織の慢性外傷性病変で、滑膜炎、関節包あるいは円板後部結合組織における非感染性炎症である。
 ・下顎頭と接するこれらの組織に炎症が生じると、下顎頭の動きによる刺激が痛みを生じさせる。
 ◇咀嚼筋痛
 筋痛はその病態により防御性筋緊張、筋スパズム、筋筋膜痛、筋炎などに分けられる。
 筋筋膜痛は、筋障害の中で最も一般的な病態であるとともに、頭頸部及び口腔顔面領域の持続性疼痛の最も一般的な病態でもある。筋・筋膜疼痛の特徴は局所的な鈍い、疼くような痛みとトリガーポイントの存在で、機能時に増悪する。activeなトリガーポイントでは、圧迫によりジャンピングサインと呼ばれる逃避反応が生じるほどの鈍い痛みを局所に生じるとともに関連痛を生じる。
 顎関節症だけでなく、頭痛を伴う巨細胞性動脈炎でも咀嚼筋痛が主訴となりうる。
 ◇開口障害
 最大開口量が40mm以下の場合には、顎関節、咀嚼筋に何らかの異常があると考えるべきである。開口障害の場合は、1. 筋性、2. 関節円板性、3. 関節痛性、4. 癒着である。
 筋性開口障害は、咬筋、側頭筋などの閉口筋が緊張あるいは拘縮し、開口時に伸展しにくくなることにより生じる。関節円板性開口障害は、正常では下顎窩と下顎頭の間にあって、下顎頭と協調して動いている関節円板が前方に転移し、下顎頭の前方への滑走を障害することにより生じる。関節痛性開口障害は関節痛が強いため、防御的に下顎頭を運動させないようになるために生じるもので、強制開口により正常近くまで開口できる。癒着性開口障害は、慢性的な開口障害で、炎症に啓発して生じた関節腔内の癒着による。

 ブラキシズム(Bruxism)・・・・無意識下の歯ぎしりや歯を連続的にカチカチとかみ合わせる運動の総称)
 ┏grinding ぎりぎり
 ┗clenching くいしばり
 (tapping)

[発症のメカ二ズム]

● 顎関節症は、咀嚼筋の機能亢進により、筋自体や顎関節などの咀嚼器官に過剰負荷が加わることにより始まる。