糖尿病 Diabetes Mellitus : DM

● 糖尿病は血管の病気
● 糖尿病の三大合併症:腎症、網膜症、神経障害
● 糖尿病に比較的多くみられる動脈硬化による病気には、脳卒中、心筋梗塞、足の壊疽がある。

糖尿病性神経障害 Diabetic neuropathy: DN
● 糖尿病の合併症の中でも最も発症頻度が高く、糖尿病発症後早期から発症し多彩な臨床像を呈す。
● 神経が損傷されて、痛覚過敏になる時期と、無痛になる時期とがある。
● 手足にヒリヒリする痛みや焼けつくような痛みが起こる、遠位性多発神経障害と呼ばれる症状が現れる。
● 痛みはしばしば夜間に悪化し、触れられたり温度が変わるといっそうひどくなる。
● 温度感覚と痛覚が失われるためにやけどをしたり、長時間の圧迫や外傷によって皮膚に潰瘍ができたりする。
● 過度の負荷を警告する体のサインである痛みを感じないために、外傷による関節損傷が起こりやすくなる。このような外傷は、シャルコー関節と呼ばれています。
distal symmetric polyneuropathy: DSPN 糖尿病性多発神経障害
● 糖尿病性ニューロパチーの中で最も高頻度にみられる基本病型
● 感覚神経、運動神経、小径線維のいずれか、あるいは複数が障害される。
● 小径線維ニューロパチーが先行し、下肢の痛み、痛覚過敏を呈し、病状の進行に伴い、温度感覚低下、触覚・痛覚低下を示す。

large fiber
neuropathy
small fiber
neuropathy
proximal motor
neuropathy
mononeuritis entrapment
neuropathy
感覚脱失 0→+++ 0→+ 0→+ 0→+ +→+++
疼痛 +➔+++ +➔+++ +➔+++ +➔+++ +➔+++
腱反射 N→↓↓↓ N→↓ ↓↓ N N
運動障害 0→+++ 0 +→+++ +→+++ +→+++

■ Large fiber neuropathy 大径線維ニューロパチー

● 運動・感覚いずれも障害される。
● 振動覚、位置覚、冷覚が障害されやすく、いわゆる靴下手袋型の感覚障害を呈する。
● 併存するAδ線維の障害による、歯痛に似た下肢骨ないし深部の鈍い齧る様な痛み、こむら返りに似た、切り裂かれるような痛みが特徴である。
● また、深部感覚障害による感覚性失調症のため、不安定歩行が生じやすい。
● 一方、筋力低下は、下肢末端の内在筋に生じやすく、早朝からつま先立ち、踝歩きが障害され、凹足、槌指、アキレス腱短縮などの変形を伴いやすい。
● 深部腱反射は減弱する。
● 下肢は血流の増加による”hot leg”を呈する。主に大径有髄線維(Aβ線維)が障害されるため、NCV検査が診断に有用である。

■ Small fiber neuropathy 小径線維ニューロパチー

● C線維の障害による表在性の灼熱痛が特徴的で、男性に多く、時にアロディニアを伴う。
● 痛みが病初期からみられる急性発症型と数年後から合併する慢性型に分けられる。
● 温度覚の障害が目立つが、晩期はむしろ痛覚鈍麻をきたす。
● 慢性型の疼痛はいわゆる頑痛で、時に麻酔薬にも耐性を示し、患者は毒物中毒に陥りやすい。
● この病型では深部腱反射はほぼ正常で、筋力低下も生じないことが特徴的である。
● 自律神経障害はほぼ発症する。
● 下肢の血流障害、発汗障害のため、”cold foot”を呈し、皮膚潰瘍、次いで起こる壊疽の危険性が高い。
● 主に小径線維が障害されるため、NCV検査では、異常は指摘されず、むしろ詳細な感覚検査、自律神経障害が診断に有用である。

■ Proximal motor neuropathy 近位筋優位運動ニューロパチー

● distal amyotrophyと同義の病態で、高齢者に多く、片側四肢近位筋の疼痛と引き続いて起こる筋力低下・筋萎縮が特徴である。
● 筋線維束収縮が観察され、両側に広がりGowers徴候が陽性となる。しばしばDSPNを併存する。
● 立ち上がりが著明に障害される反面、爪先立ち・かかと歩きは驚くほど良好である。
● この病態は、慢性炎症性脱髄性末梢神経炎 CIDPに類似し、鑑別の対象となるが、電気生理学的検索では、軸索変性を主体とする腰仙部神経叢炎であり、CIDPと区別される

■ Mononeuritis 急性単神経障害

● 高齢者に多い。
● 末梢神経の栄養血管の閉塞により起こる病態で、比較的急性に痛みが先行し、6-8週間の後に症状が軽快する。
● 障害部位は一定しないが、脳神経では動眼神経、外転神経を侵すことが多いのが特徴である。

■ Entrapment neuropathy 圧迫による麻痺

● DM患者は、軽度の差はあれ、末梢神経機能障害、循環不全を合併し、脆弱なため、外的な圧迫を浮けやすい部位では容易に絞扼性末梢神経障害をきたす。
● 上肢は、手根管、Guyon管、下肢では足根管が好発部位である。

● 糖尿病の神経障害がある場合に心筋虚血となっても、無症候性で、全く痛みがなく軽い息切れ程度の症状しか現れない場合があり、発見が遅れる場合がある。
● 糖尿病による無症候性心筋梗塞の死亡率は急性心筋梗塞の死亡率より高い。
● 糖尿病足の潰瘍は、糖尿病性神経症による防御知覚の低下と、Charcot関節による変形で生じる足底圧の異常な集中、交感神経の異常と動脈硬化による血流障害の3大原因によって起こる。
● さらに糖尿病での易感染性により感染を起こすと、足部コンパートメント症候群により内圧の上昇、欝血、浮腫が生じ、最後には阻血性壞死から脱疽となり、切断の止むを得なくなる。
● 動脈硬化が進行しやすいので、心筋梗塞や脳梗塞、下肢の動脈閉塞による脱疽などの痛みも生じる。

◇糖尿病が原因となる筋骨格系症状

・糖尿病性手関節症 diabetic cheiroarthropathy
・シャルコー関節
・糖尿病性骨溶解 diabetic osteolysis
・糖尿病性筋梗塞
・糖尿病性筋萎縮症 diabetic amyotrophy

◇糖尿病が原因となる筋骨格系症状

・癒着性関節包炎(凍結肩または五十肩)
・複合性局所疼痛症候群1型 CRPS
・手掌屈筋腱炎
・Dupuytren拘縮
・手根管症候群
・広汎性特発性骨増殖症 diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH

◇ポリオール代謝経路 polyol pathway:糖代謝の副経路
 =アルドース還元酵素(aldose reductase:AR)とソルビトール脱水素酵素(sorbitol dehydrogenese:SDH)
 ○ ARはNADPHを補酵素としてグルコースをソルビトール(ポリオールの一種)に変換する。
 ○ SDHにはNAD+を補酵素としてソルビトールをフルクトースに変換する。

 ○ 糖尿病に伴う高血糖状態では、インスリンに依存しないグルコースの取り込みを行う細胞内のグルコース濃度が上昇し、ARを介するポリオール経路の代謝が亢進する。
 ○ ARは腎臓、水晶体、網膜、末梢神経に多量に発現しているほか、副腎、生殖器など、生体内組織に広く分布し、副腎や生殖器でイソコルチコイドや17α-ヒドロキシプロゲステロンなどのステロイド代謝に関わり、神経組織においてカテコールアミンやアルデヒドの代謝分解に関わることが知られている。
 ○ 高血糖が持続する糖尿病患者では、ソルビトールが体内に蓄積しやすくなることによって末梢神経障害が起こる。

[糖尿病の治療薬]

スルフォニルウレア系薬剤 (スルフォニル尿素薬)sulfonylurea:SUR剤
● パラフェニル基、スルホニル基、ウレア結合からなるスルホニルウレア構造(S‐フェニルスルホニルウレア構造)を持つ化合物の総称である。
● β細胞膜のSUR受容体に結合してATP感受性Kチャネルを閉口し、膜を脱分極させ、膜電位依存性Ca チャネルを開口し、インスリン分泌を促進する。
⇒グリベンクラミド(オイグルコン euglucon®)—ATP感受性カリウムチャネルの阻害薬

[糖尿病性神経障害に伴う疼痛]

● 末梢神経または脊髄神経の機能的異常による痛みであるため、3ヵ月以上持続することが多く、しばしば難治性の慢性疼痛となる。
● 症状:左右対称性で両手又は両足の同じ部分に出ることなどが特徴で、また、夜間安静時に痛みが増すことが多く、睡眠障害に至ることもある。
● 2000年に日本臨床内科医会調査研究グループが行った調査によると、糖尿病患者のうち、およそ40%が神経障害を合併しており、3大合併症の中でも最も高頻度に見られる合併症

[糖尿病性末梢神経障害を改善する薬]

● アルドース還元酵素阻害薬 aldose reductase Inhibitor
◇エパルレスタット(キネダック®)
・糖尿病性末梢神経障害に伴う自覚症状(しびれ感、疼痛)、振動覚異常、心拍変動異常の改善(糖化ヘモグロビンが高値を示す場合)
・高血糖が持続する糖尿病患者ではソルビトールが体内に蓄積しやすくなることによって末梢神経障害が起こる。
・グルコースからソルビトールを生成する過程で働くアルドース還元酵素を特異的に阻害し、神経内ソルビトールの蓄積を抑制し、糖尿病性末梢神経障害を改善する。
・小野薬品工業は、世界で初めてアルドース還元酵素阻害剤としてエパルレスタットの開発に成功し、神経障害に有効な製剤として1992年から保険薬として認可を受け、広く一般に使用されている。市販開始後から6年の間にその因果関係が否定できない重篤な肝機能障害が17例報告されたため、1998年6月に厚生労働省の医薬安全局発表による「医薬品等安全性情報 No.148」で「重大な副作用」の項にその旨が記載され、注意喚起が行われている。

[痛みの治療]

● 原疾患の治療と平行して、三環系抗うつ薬(特に第2級アミン)、カルシウムチャネルα2δリガンド(ガバペンチン、プレガバリン)、SNRI(デュロキセチン)、アルドース還元酵素阻害薬、メキシレチンが推奨される。
● 麻薬性鎮痛薬は、有痛性糖尿病性ニューロパチーに対する鎮痛効果が示されているが、認容性の問題から優先されない。
● 以前の痛みの治療薬???

C fiber pain
に対する対策
● アドレナリン受容体作動薬ー交感神経遮断—クロニジン
● カプサイシン
Aδ fiber pain
に対する対策
● アドレナリン受容体作動薬—クロニジン
● 抗不整脈薬—メキシレチン、リドカイン
● 抗痙攣薬—カルバマゼピン
● カルシトニン?