頚肩腕痛-腕神経叢引き抜き損傷 Traumatic brachial plexus injury  Traumatic avulsion injury of the brachial plexus

● 転落や、オートバイ事故などの外傷後による腕神経叢の引き抜きによって生じる痛みと麻痺
● 事故などで、頭、頸部と肩、腕がそれぞれ逆方向に無理に引き離されると、腕神経叢が過度に牽引され、損傷する。
● 腕神経叢引き抜き損傷による耐え難い痛みは、一般に求心路遮断痛である。

[腕神経叢引き抜き損傷による痛み]

● 腕神経病変は、しばしば同側の頸、肩、腕の疼痛を引き起こす。
● 痛みは、頭や上肢の動きと深呼吸によって悪化することが多い。
● 頸の付け根の部位で神経叢を軽く圧迫すると、疼痛が再現しやすい。
● 一般に局所外傷によることが多い。刺傷やモーターサイクル事故で発生しやすい過伸展牽引外症。
● しばしば外傷発生時には、激痛があり、その後もっと衰弱させるような、慢性の灼けるような、不快な異常感覚を伴う。

[腕神経叢麻痺]

腕神経叢麻痺には、外傷以外によるものもある。
・モーターサイクル事故などの外傷後の腕神経叢引き抜き損傷
・分娩時の牽引によっても生じる分娩麻痺 birth palsyがある。
(骨盤位分娩や巨大児の分娩で、片側の首が強く伸ばされたり、圧迫されることによって、神経が損傷し、片側の腕が麻痺する。)

● 損傷の部位による分類 (Wynn-Parry, 1987)

1型 神経線維が牽引されて変性に陥ったもの
● 神経上膜は正常で、自然再生
脊髄神経節よりも末梢側の損傷
● 神経節よりも末梢側が損傷されると、損傷された神経線維の遠位側に、Waller変性が進行する。
● 一般の末梢神経損傷によるものと同様、有痛性神経腫よる痛みと考えられる。
● 脊髄造影では正常。軸索反射テストは陰性。
● Horner徴候は陰性であり、回復が期待できる。
2型 脊柱を出る椎間孔と鎖骨胸筋筋膜の間で、脊髄神経が切れたもの
● 修復の余地がある。
3型 脊髄根が引き抜かれたもの
● 回復の可能性がない。
脊髄神経節よりも中枢側の損傷
● 脊髄後根神経節より近位で、神経根が脊髄から引きちぎれ、硬膜外に引き抜かれたもの。
● 神経根が引き抜かれるときに前角細胞も抜け落ちるため、末梢神経レベルの損傷ではなく、脊髄レベルの損傷と考えられる。
● 神経節よりも中枢側の後根が損傷されると、神経節細胞の末梢側神経線維の生存を支えるため、神経線維が支配する末梢領域から脊髄神経節に向かってインパルスが送られる。しかし、脊髄に接続していないので、感覚を生じないので、求心路遮断痛が発生する可能性がある。
● 神経節と神経線維との連絡は保たれているので、Waller変性はなく、軸索反射テストも陽性となる。
● 脊髄造影で硬膜からの造影剤の漏出像が見える。
● Horner徴候は陽性となることが多い。

● 麻痺の領域による分類

上位型麻痺
(Erb麻痺)
● 手首から先は動くが、肩や肘が動かないもの。
● C5〜C7神経に損傷を受けた場合に生じる。
● 手関節の背屈が可能であればC7神経は損傷を免れていると考えられる。
● 肩の外転・外旋・肘屈曲が主に侵され、肩関節を内転・内旋、肘関節を伸展、前腕を回内、手関節を掌屈・尺屈、手指を屈曲させた典型的な肢位を取る。
● 外国のウェイターがお客にチップをねだるときのポーズと同じなのでWaiter’a trip positionという。
全型麻痺 ● 腕全体が動かず、完全弛緩性麻痺を呈するもの。
● T1神経が完全損傷を免れている場合のほうが多く、その場合には指の屈曲のみは可能である。
● 交叉神経支配が著明である症例もある。このような病態も全型麻痺に分類される。
下位型麻痺
(Klumke麻痺)
● 手首から先は動かないが、肩や肘は動くもの。
● C8〜T1の障害が主で、C7頚神経の障害の一部を時として含む。
● 生まれた時から下位型の麻痺は非常にまれで、大部分は全型麻痺で生まれ上位神経根が不完全回復したために、下位神経根に麻痺が残ったものである。
● 全型麻痺が部分回復した下位型麻痺では肩や肘といった上位神経根に支配される筋群に同時収縮(交叉神経支配)を認めることが多い。

[治療]

● 脊髄後根進入部破壊術 DREZ-lesion
● 顕微鏡的後根進入帯切載術 :MDT
● 神経機能再建術を行うことで、機能回復が得られた場合は、疼痛が軽減する。しかし、神経再建術は損傷早期に行うことが必要である。しかし、腕神経叢損傷の手術を行うことのできる施設は日本では限られているため、受傷後早期に医療者がコンタクトすることが好ましい。