頚肩腕痛-肩手症候群 Shoulder-hand syndrome:SHS =Steinbrocker’s syndrome

● 肩と手の有痛性運動制限ならびに手の特有な腫脹、色素異常、熱感などを特徴とする疾患。
● 1947年にOtto Steinbrocker(1898/7/17~1987/1/11, ウィーン生まれのアメリカのリウマチ研究のパイオニア)が肩の有痛性運動障害を持った患者の中に、同側の手の腫脹を伴う者がいたことに注目し、肩手症候群(shoulder-hand syndrome) という名づけ、臨床経過(診断基準)をまとめた。
● 1977年にL. Lee Lankfordは、Bonicaの分類では疾患名が多すぎ、症状と分類の不一致などの問題点があることから、RSD を causalgia (major, minor)、traumatic dystrophy (major, minor)、shoulder-hand syndrome の5つに分類した。
● 肩手症候群はCRPS Type I(RSD)に分類されている。CRPSと同様、Nociplastic Painの要素を含む。
● 廃用症候群

[原因]

● 脳梗塞後の肩の亜脱臼から拘縮をきたした場合、肩関節周囲炎から手の腫れや、運動障害等をきたす。
● 頸部、体幹部の外傷に続発するだけではなく、頸椎椎間板ヘルニア、頸椎症
● けが(転倒して手をついたときなどに起こる手首の骨折[コーレス骨折])
● 心筋梗塞、脳卒中、胃潰瘍などの大患の有痛性疾患が誘因となる。
● 脳血管障害 cerebrovascular accident:CVA
 ⇒脳卒中後痛
● バルビツレートなどのある種の薬の使用

[症状]

● 上肢全体が侵されるが、特に肩関節と手に症状が出現する。

第1段階 ● 手に突然の広範囲にわたる浮腫と手の甲の圧痛、それに手の血管が狭窄するために手が青白くなることから始まる。
● 肩と手は特に動かすと痛む。手のX線画像では、ところどころに骨密度の減少した領域が認められる。
第2段階 ● 手の腫れと圧痛が軽くなるのが特徴です。
● 手の痛みも軽度。
第3段階 ● 浮腫、圧痛、痛みは消失するが、手の動きは制限される。
● 指がこわばってかぎ爪状になり、デュピュイトラン拘縮に似た症状を起こすために、手の動きが制限される。
● この段階のX線像では、しばしば広範囲にわたる骨密度の減少が認められる。
心筋梗塞 ● 心筋梗塞の症例の20~30%に合併すると言われ、梗塞後2~3ヶ月頃から左肩と上肢の運動制限に始まり、持続性の疼痛を訴えるようになる。
● 古くから心筋梗塞による肩甲部痛や肩の運動障害は見られ、肩手症候群に似た症状が記載されてきた。
● 肩甲部痛に関しては、肩甲部に軽い疼痛がすでに存在し、狭心性の関連痛による有痛性運動制限を生じる場合と、関連痛そのものが心臓損傷部位からの求心性インパルスがTh1~4の高さで脊髄に入り、そこで介在ニューロン群を興奮させるために発症すると考えられ、さらにRSDに加えて、冠動脈閉塞により、心拍出量の減少、血圧降下、心不全の進行、虚血、組織の無酵素症などを生じ、これが血管攣縮反応と局所的栄養障害を招くことでも介在ニューロン群を興奮させると考えられている。
● 心筋梗塞によるRSDは梗塞後時間がかかって発症することから、肩甲部の長期不使用や関節炎、頸椎症も関係しているものと思われる。
CVA 脳血管障害 cerebral vascular accident: CVA
● 脳卒中後に生じる片手症候群は、視床痛と区別して考えるべきであるが、時間が経過すると、臨床的には鑑別がきわめて困難になることが多い。
● 片麻痺の症例では、発症頻度は報告によって異なるが、5~30%であり、発作後2~5ヶ月で発症することが多い。
● 片麻痺の重症例、50歳以上の中高年者の症例に多く見られ、40歳以下の症例では稀である。
● CVAによる片麻痺では麻痺側に種々の自律神経障害が出現することは古くから観察され、血管運動障害は注目されている。
● 一般に麻痺側の筋血流量は低下していて、筋の血流は筋の活動性に相関があることからも、肩手症候群の多くがBrunnstromテストの上肢stage3以下という重症例に随伴し、麻痺側の筋血流の低下の傾向は大きいと思われる。
● 血管の神経支配は交感神経によるものであっても、骨格筋においては拡張線維も分布していると仮定されること、皮膚血流な局所需要とともに全身性体温調節と関連して変化すること、交感神経切除の結果、皮膚、結合織、骨などの動脈は拡張し、その組織血流は増加するが、骨格筋では不変か、時に減少をみる。
● 片麻痺における血管の拡張は皮膚、結合織、骨などの血流増加を反映したものと考えるべきである。肩手症候群を伴う片麻痺の皮膚血流については患肢で増大し、特に1段階に著しい。
● 急性期の損傷脳では損傷領域周辺の血流増加が認められることがあり、その発生期機序としてcerebral moter paralysisとして説明するものもある。
● 麻痺肢についても血管運動神経麻痺による血流増加と考えたいことから大脳にも自律神経の中枢が存在すると仮定されている。
● area4および6に存在するとされ、体性運動線維とともに概当筋の血管拡張線維、皮膚などの血管へは血管収縮線維を送り随意運動を起こすに当たり、酸素運搬や栄養運搬経路を確保しようとしている。これが障害されることで末梢の血管動態は著しく混乱し、痛みの悪循環を引き起こしやすくなる。

[治療]

● 原因となる外傷や病気を治療する。
● 交感神経に局所麻酔を繰り返し行う神経ブロックは発症早期には有効である。
● 脳卒中後のものは、通常の消炎鎮痛剤や利尿薬はほとんど効かず、ステロイドの投与が有効。これは数週程度の使用に限られる。
CRPSと同様の病態である。遷延化した場合はNociplastic painと同様の病態となり、中枢性感作の影響を強く受ける。中枢性感作により痛みなどの自覚症状が他覚所見と乖離する。特に局所の所見の進行が見られない場合には、運動療法・認知行動療法などの心理療法、集学的診療が必要となる。