関節痛-関節炎-痛風 gout

● 痛風は、尿酸塩の結晶が関節腔内に析出したために繰り返される急性関節炎発作を主な症状とする種々の疾患の総称である。
● 痛風の多くの場合、美食・飲食が引き起こす「生活習慣病」の1つとされている。
● 痛風は古くから王侯貴族の病気と言われている。痛風を患っていた偉人。

アレキサンダー大王(BC356〜BC323) モンゴルのフビライハン(1215〜1294)
詩人ダンテ(1265〜1321) レオナルド・ダ・ビンチ(1452〜1519)
ヘンリー7世(1457〜1509) 芸術家ミケランジェロ(1475〜1564)
宗教改革のマルティン・ルター(1483〜1546) ヘンリー8世(1491〜1549)
神聖ローマ帝国のカール5世(1500〜1558) 宗教改革のカルビン(1509〜1564)
フランス国王ルイ14世(1638〜1715) フリ−ドリッヒ大王(1657〜1713)
詩人のミルトン(1608〜1674) 清教徒革命のクロムウェル(1626〜1712)
物理学者のアイザック・ニュートン(1642〜1727) ベンジャミン・フランクリン(1706〜1790)
哲学者のカント(1724〜1804) ドイツの文豪ゲーテ(1749〜1832)
フランスの小説家スタンダール(1783〜1843) 進化論のダーウィン(1809〜1882)

■痛風の歴史

Hippocrates(P BC460〜BC377):「古代ギリシアの医聖」、エ−ゲ海コス島生まれ)はBC5Cに、歩行が困難になる病として記載していた 。
西欧ではpodagra(ギリシャ語のpous=foot, agra=attackの複合語)と呼ばれていた。
中世ヨーロッパでは、腐った体液の「しずく」によって痛風が起こると考えられていた。
「gout」は、ラテン語での「1滴」を意味する「gutta」に由来する。
痛風を一つの疾患単位として確立したのは、Thomas Sydenham(P 1624〜1689, 英国での医学の先駆者)で、彼は自分の罹患している痛風の症状を詳細に記載した(17C)。
ドイツ人から招かれて東京医学校の教師として来日し、宮内庁の御用掛を勤めたErwin von Baelz(P 1849〜1913)は、明治9年に「日本には痛風がない」と結論を下していた。しかし明治以後は日本でも痛風が出現した。
1960年代の大島良雄による臨床報告では、痛風患者全体の35%は会社役員であった。
1982年に西岡久寿樹らが行った調査によると、同じ東京で痛風患者全体に占める会社役員の割合が3.5%に減少している。生活が豊かになり、痛風患者の裾野も拡がったようだ。

[症状]

● 一般に痛風の激痛発作は、プリン体や脂肪に富む食事の摂取、飲酒、宴会、遠足、過労、打撲、外傷、手術、ストレスなどが誘因になって、ある日突然現れる。
● 痛風発作は、足の親指の付け根が赤く腫れあがって、熱感を帯び、激痛になる場合が多い。
● 骨折よりも強い痛みである。
● 腫れる部位は母趾関節に限らず、肘の関節や足背、手首の関節なども痛む。関節ではないアキレス腱が痛む場合もある。
● 発作が出ると痛みのため2〜3日は歩けなくなるのが普通で、1週間ぐらい経つと徐々に症状は治まる。
● 痛みは就寝後や朝に始まることが多い。
● 初めての痛風発作の約70%は、片足の第1中足趾節関節(MTP関節)に起こる。他の関節に起こる時でも、初めての発作は、どこか1カ所の関節に集中し、2つ以上の関節が同時に侵されることは稀である。
● 高尿酸血症が続くと、数ヶ月ないし1〜2年で再び同様の発作が起こる。これを繰り返しているうちに、慢性関節炎発作期に入り、いつでもどこかの関節が痛むようになる。
● 進行する尿酸塩結晶の集合体である痛風結節 tophus が主に、関節内、時には耳介・肘・腎臓などに生じ、関節の変形、腎障害、尿管結石などが起こる。
● 痛風患者の95〜99%が、「40から50代の男性」である。
● 以前は、中高年がかかる贅沢病、美食病と言われていたが、最近は若年化が進んでいて、20代や30代でも起こる。
● 痛風は、尿酸値が子供の時から次第に高くなってピークに達し、高尿酸結晶の状態が5-10年維持されて初めて発症する。ただし女性は、卵胞ホルモン(エストロゲン)が尿酸排泄を促進するので、閉経前の尿酸値が低い。閉経前の女性の痛風の多くは、家族性痛風か、利尿剤を飲み続ける薬剤性痛風で、いずれも尿酸排泄の障害によるものである。

[分類]

痛風 原発性痛風
続発性痛風—化学療法やサイアザイド系利尿薬の投与などによる
合成亢進型
● HGPRT完全欠損症, Lesch-Nyhan症候群
● HGPRT部分欠損症、Kelly-Seegmiller症候群
● APRT異常症 adenosine phosphoribosyltransferase deficiency
● PRPP合成酵素亢進症
● ADA欠損症
● 1型糖原病
尿酸排泄低下型
● 慢性腎不全
混同型

[病因]

● プリン体代謝低下により、尿酸一ナトリウム塩又は尿酸が過飽和の状態で結晶として析出し、それが組織に沈着する。
● 痛風になりやすいのは、高プリン食摂取者、アルコ−ル過飲者にみられ、高脂血症、肥満、積極的性格と関連が深いとされている。
● アルコールはその分解過程でATPを消費してAMPを産生するが、これがIMPの増加につながる。
● 先天性酵素異常。遺伝の証明される例が20%位との報告もある。
● 白血病??
● 思春期以前では男女差がない。女性ホルモンが尿酸の排泄を促進するので、思春期以後の女性には少ない。

[急性痛風の機序]

● 血液中の尿酸値は、7mg/dl以下が正常値で、それ以上が高尿酸血症と呼ばれる。血液中に尿酸が高い状態が続いていて、それが顕在化したのが痛風。
● 血液中に尿酸の濃度が高くなって、尿酸ナトリウムの針状結晶が関節中に析出する。尿酸ナトリウムは関節中では異物とみなされるので、白血球が排除しようとして結晶を取り込み、融解する酵素を出すので、周囲組織の急性炎症が起こると考えられる。
● 血液中に尿酸の濃度が高くなると、関節腔には、滑膜と関節腔の間に基底膜がないため、毛細血管を通過して、滑膜に漏れた尿酸塩が関節腔に移行して、尿酸ナトリウムの針状結晶が関節中に析出する。尿酸ナトリウムは関節中では異物とみなされるので、これを多核白血球が貪食し、周囲組織の急性炎症を生じる。
● さらに、Hageman因子や補体のカリクレイン・キニン系の活性化、さらに活性酸素や各種のサイトカインを分泌し、より強い炎症を励起してくる。
● このため関節が腫脹し、激烈な痛みとなる。放置すると、疼痛の寛解と炎症の消退に数週間を要する。
● 急性痛風が慢性化すると、尿酸の結晶が痛風結節となり、関節内に沈着し、関節組織を破壊して、変形や拘縮をもたらし、持続痛に移行する。
● 痛風治療のための利尿剤により、体内に溜まっていた尿酸が一気に膀胱や尿管に排泄される時に、尿が強い酸性になっていると、尿酸の結晶が析出し、一時的に痛風がまた起こったり、尿路結石が起こったりすることもある。
● 結晶は、関節だけではなく体中至る所に溜まり、痛風結節は皮下組織や腎臓にもできて、腎臓障害や尿路結節を起こす。

[痛みの治療]

● NSAIDsの内服、座薬でほとんど痛みは治まる。
● NSAIDsで効果が不十分なときには、ステロイド性抗炎症薬の内服や点滴

[痛風の治療]

● 尿酸値を下げる高尿酸血症(血液中の尿酸値が7mg/dl超)を是正し、腎臓障害や腎臓結石を治療する。
● 痛風発作を起こす人は、尿酸の排泄が低下している場合が多いので、尿酸の排泄を促す利尿剤ベンズブロマロン(商品名ユリノーム)、ブロベネンド(ベネンド)などや、尿酸の生成を阻害するアロブリノール(ザイロリックなど)が処方される。
● 利尿薬による痛風が繰り返されないように、尿をアルカリ化する薬を併用する。あるいは、水分とアルカリ性食品を多くとるようにする。
● コルヒチン(ユリ科のイヌサフランの種子や球根に含まれるトロポロンアルカロイド)は、好中球が血管外に出るのを妨げるので、何世紀も使われてきたが、近年あまり使われなくなった。痛風発作の予兆期や、発作のごく初期であればコルヒチンの服用は有効。発作がひどくなると大量に飲まないと効かないが、肝臓障害や脱毛などの副作用がある。発作がひどくなればコルヒチンはのまないほうがよいとされている。
● 生活改善が重要!肥満を解消し、アルコール多飲をやめ、運動をする。
● 食事療法の基本:プリン体 purine baseの多い食物を避ける。

プリン体を多く含む食品:
● 肉、レバー、イワシ、アルコール、果実、珍味(いわゆる酒のつまみ)の制限。これらの食物はプリン体を多く含み、尿酸の産生を増加させる。
● 食物を煮るとプリン体が溶け出すので、ゆでたり煮たりしてから調理に使う。だし汁はプリン体を多く含むので飲まない。鰹節のうまみのもとになるイノシン酸(IMP)や椎茸のうまみの成分であるグアニン酸もプリン体である。
● 肉類を加工した食物(ハム、ソーセージ)は、製造過程でプリン体が水に溶けて抜けるので比較的安全。魚を加工したかまぼこやちくわは制限しなくても良い。
● 牛乳、チーズ、卵などはプリン体の少ない食品である。
● 大量のアルコールも痛風の敵である。アルコールは尿酸の酸性を高めるだけではなく、尿中への尿酸排泄も妨げる。ビールは他のアルコール飲料に比べるとかなり多量のプリン体を含んでいるので特に良くない。この点で少量の焼酎はビール、日本酒よりも安全である。特に酒に強いヒトは注意が必要である。酒に強いヒトはアルデヒド脱水素酵素の活性が高いので、高尿酸血症になりやすい。