整形外科では『頸肩腕症候群』、労働衛生関連では『頸肩腕障害』という用語が使われているようである。
● 『頸肩腕症候群』:頸部、肩、上腕、前腕、手、指の一部またはすべての部位に、筋のこり、痛み、しびれ等を伴う症状の総称。
● 頸肩腕障害』:作業に関連して頸肩腕部に愁訴を有する障害—職業病的要素に関連した疾患。
労働衛生 ● 1950年代、キーパンチャーの間に多発する健康障害として、頸肩腕障害が労働者や一部の医師・研究者の間で認識された。 ● 1995年、中央災害防止協会の「職場における頸肩腕症候群予防対策に関する検討結果報告書」 ● 1974年、日本産業衛生学会頸肩腕症候群委員会は、作業に関連して頸肩腕部に愁訴を有する状態を『頸肩腕障害』として規定し、予防対策を提起し始めた。 ● 業務による障害を対象とする。 すなわち,上肢を同一肢位に保持または反復使用する作業により,神経・筋疲労を生 じる結果起こる機能的あるいは器質的障害である。 ただし,病像形成に精神的起因および環境因子も関与も無視しえない。 従って,本障害には従来の成書に見られる疾患(腱鞘炎,関節炎,斜角筋症候群など) も含まれるが,大半は従来の尺度では判断しにくい性質の健康障害であり,新たな観 点に立った診断基準が必要である。 ● 1997年2月(平成9年2月)「上肢作業に基づく疾病の認定基準について」(基発第65号) ● 頸肩腕障害が発生しやすい職種 ● 介護・福祉・保育職場での管理・パソコン業務、歯科衛生士・検査技師、手話通訳者、パソコン作業が多い事務作業者、VDT作業、コンピューター関連業務 |
[症状]
● 自覚症状
○ 頭部、頸部、背部、上腕、前腕、手及び指の痛みや凝り、シビレなど様々な症状⇒不定愁訴
○ 異常感、脱力感
● 他覚症状:病的な圧痛及び緊張、筋硬結等がみられる。
● 血行不全などの症状を伴うこともある。
[原因]
● 反復性ストレス障害 Repetitive Stress Injury RSI:手や手指の反復性動作による、手指腱鞘炎,上腕骨上顆炎,手根管症候群
● 長時間の姿勢や上肢保持による静的筋肉疲労による障害:胸郭出口症候群(斜角筋症候群)や項背腰部の筋筋膜炎症 神経、血管系
炎症部位—炎症部は画一的ではない。 肩峰下滑液包炎 腱板炎 有痛性肩関節制動症 烏口突起炎 石灰沈着性腱板炎 結合組織炎 上腕二頭筋長頭腱炎 |
[症状]
● 肩関節の痛みで発症し、次第に痛みが増強して、やがて関節拘縮を生じ、肩の運動制限をもたらす。
● 肩峰下滑液包炎:棘下筋の付着部に炎症が起きる。これが肩関節周囲に影響を及ぼし、関節包の癒着を生じてくる。
● 石灰化腱炎:石灰沈着が棘上筋腱部に発生。腱の部分壊死による石灰化、カルシウムイオンの透過性の増加による石灰化
● 痛み
○ 肩甲骨周辺、上腕部に放散する鈍痛。
○ 運動痛:手を後ろに回す時などに痛みが生じる。
○ 夜間痛や冷えた時などに痛むが生じる。
○ 自発痛を全く伴わず,運動痛と関節拘縮のみを認める症例もある。
● 関節拘縮:関節外の軟部組織が収縮性変化を起こし関節の可動性が減少し,あるいは消失した状態
● 背筋群の筋力低下。
● 運動制限:特に、後方挙上や外旋が制限され、次第に前方挙上が困難となる。
○ 後方挙上:手を後ろに回す、帯を結ぶ動作
○ 外旋:肩を外に捻る動作
○ 前方挙上:万歳する動作
[原因]
● 肩関節を構成する骨,軟骨,関節包,回旋筋腱板など諸組織の加齢的変性変化に伴われる。
● 外傷などがきっかけとなる?
● 運動不足などによる筋力の低下や、柔軟性の欠如等も原因になる?
● 肩峰下滑液包炎,上腕二頭筋腱鞘炎などの炎症が引き金となって、疼痛→安静→運動制限→疼痛の悪循環のために次第に拘縮が強くなって、疼痛性拘縮が成立するものと考えられる?
● 拮抗筋が優位に働き、大胸筋などの緊張が強くなり、肩の動きが制限される?
● 慢性期:動かす角度によって痛む時期:無理のない運動。
● 痛みの治療
○ 薬物療法:非ステロイド系抗炎症剤、筋弛緩剤
○ リハビリテーション:温熱療法、電気刺激療法、関節可動域改善訓練、肩のストレッチング、筋力強化訓練、肩の体操(コドマン体操)
○ ステロイド関節内注射
○ 神経ブロック療法(肩甲上神経ブロック・トリガーポイントブロックなど)
○ ヒアルロン酸ナトリウム関節内注射。
○ 難治例:肩関節の可動域低下が著明な場合にパンピング療法、鏡視下肩関節授動術などの手術的治療が行われることがある
○ 肩こりと同様の治療体系が有用である。
● 頚部、肩の運動療法が効果的。日本整形外科学会提唱 肩の体操療法
● http://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/stiffed_neck.html
● 専門医へのコンサルト
● 片側の増強するしびれ、筋力低下、筋萎縮は高度の神経症状を疑うため整形外科専門医へコンサルトを行う。うつ病など精神疾患によるものも多いため2週以上継続する「意欲の減退」、「興味または喜びの喪失」がある場合は精神科専門医へコンサルトを行う。
● 患者説明のポイント
● 薬物療法は運動療法に勝るものではない。症状は完全に消失しないが、運動療法と予防を継続的に行うことで日常生活や就労に支障が無くなることを説明する。安静より日常生活や就労を行うほうが好ましい。症状が完全に消失しなくとも薬物療法は逓減させる。鎮痛薬投与や貼付剤は頓用で可能である。